平均月収の3倍でもiPhone一択!? ベトナム人のスマホ事情を考察したら、ただ彼女が日越両国で画面を割り続けるだけの話になった件
日本人男性の私は、スマホに対して特別な執着がない。
「どうしてもiPhoneじゃなきゃだめだ」という信者でもなく、自分の母国語である日本語がちゃんと表示されて、普通に操作できればそれで十分だ。
一方、ベトナム人女性のトゥイは、ゴリゴリのiPhone信者である。
ある日のこと。ベトナムの住宅にありがちな硬い石の床に、トゥイが大事なiPhoneを落とし、画面を無残に割ってしまった。
「iPhone割れたー。修理代とてつもなく高いよー」
本気で落ち込むトゥイに、私はごく合理的な提案をした。
「修理代が高いなら、いっそ安いAndroidのスマホを買えばいいんじゃない?」
しかし、トゥイの返答は頑なだった。
「わたしはiPhoneしか使いたくない」
聞けば、ベトナム人はとにかくiPhoneが好きな国民性らしい。だが、iPhoneはベトナムの平均月収の3倍近くもする超高級品だ。
もし私がベトナム人なら、迷わず安いスマホを選ぶ。なぜそこまで無理をしてiPhoneにこだわるのか?
純粋な疑問をぶつけてみた。
「どうして格安のAndroidじゃダメなの?」
「だって、安いAndroidはベトナム語が使えない。英語になっちゃうよ」
「え、そうなの?」
「うん。iPhoneなら最初からベトナム語が選べるから」
これにはカウンターパンチを食らった。てっきり、ベトナムで売られているスマホはすべてベトナム語に対応しているものだと思い込んでいたのだ。念のため自分のAndroidスマホの言語設定を確認してみたが、確かにベトナム語は入っていなかった。
なるほど。もし「日本語表示ができるスマホがiPhoneしかない」と言われたら、語学力ゼロの私はどんなに高くてもiPhoneを買うだろう。トゥイがiPhone信者になる理由も痛いほどよく分かった。
トゥイによれば、ベトナムの若者は四六時中スマホをいじっているという。直接友達と会っているのに、会話もせずにお互い無言でスマホをいじり倒していることもあるらしく、「それはさすがにヤバいでしょ」と笑ってしまった。
さらに、ベトナムの子供たちもYouTubeでベトナム語吹き替えのドラえもんやコナンのアニメを観て育つため、幼い頃から画面のタップ操作はお手の物だという。
それはトゥイも例外ではない。彼女とLINEをしていると、返信のレスポンスが異常に早いのだ。あまりの速さに、私はてっきり彼女がパソコンの前に座ってタイピングしているのだと信じて疑わなかった。
「トゥイって、LINEはパソコンから打ってるの?」
「スマホからだよ」
「えっ、スマホからあの速さなの!?」
衝撃だった。完全にスマホ世代のスピードである。
対する私は、生粋のパソコン世代のおじさんだ。スマホのフリック入力はどうにも苦手で、トゥイと本腰を入れてLINEをする時は、わざわざパソコンを立ち上げてキーボードでブラインドタッチをしている。その方が圧倒的に早いし、楽なのだ。
娯楽が少ないベトナムでは、誰もがスマホに夢中になる。その状況下で「ベトナム語が使えるのがiPhoneだけ」なら、そりゃあAppleのひとり勝ちにもなる。
「なるほど、日本企業がベトナム語対応の安価なスマホを本気で売り出せば、これは天下を取れるぞ!」
私は一人、ベトナムのスマホ市場における壮大なビジネスチャンスに胸を躍らせた。
と、ここまで熱く語っておいて大変申し訳ないのだが、最後にひとつ追記させてほしい。
後日調べたところ、どうやら最近のAndroidスマホは、普通にベトナム語表示に対応している機種が増えているらしい。単にトゥイが「iPhoneしか対応していない」と思い込んでいた(あるいは昔の知識のままだった)可能性が非常に高い。
天下を取れると思った私のビジネスアイデアは、こうしてひっそりと幕を閉じたのであった。
後年、私たちは国際結婚し夫婦になるのだけれどベトナム人妻はiPhoneしか使わない。日本でバイク運転中にiPhoneを道路に落として、画面を割った。
ベトナムでも日本でもiPhoneを割る女。
それは私の妻である(笑)




