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ティナとフレッドの入場の後にアンヌとジェイスが入場し、パーティが始まった。
主役であるアンヌとパートナーのジェイスのダンスが始まり、次にティナとフレッド、そして残りの参加者と続くのだ。
「そう言えば、君と踊るのは初めてだ。」
「本当ですわね。社交できる年齢からアロイス様と婚約しておりましたから…」
「ねえ、ティナ?」
フレッドは彼女を愛称で呼んだ。過去、お互いに愛称で呼び合っていたのだ。
「…はい、フレッド様。」
ティナも愛称で返す。主役であるアンヌ達のダンスに参加者が夢中になっているので誰にも会話は聞こえない。
「もしも、アロイスが…」
フレッドが何かを言いかけたとき曲が終わったので、彼は「何でもない。行こうか?」と何事もなかったかのようにダンスを始めた。
〜♪〜♫
「ティナはやっぱりダンスが上手いな。」
「ふふ。そんなことはありませんわ。フレッド様のリードがお上手なのですわ。」
「謙虚だね。」
「そんなことありませんわ。フレッド様とダンスができてとても嬉しいので足を踏まないように気をつけてますから。」
「流石に足を踏むことはないだろ?」
「ふふ。どうでしょうか?」
ふたりのイチャイチャダンスを見ていたアンヌとジェイスは「あれで恋人でないとか嘘だ…」と感じていた。
それはアロイスとセシリア以外の参加者全員が感じていたことだった。
「ねえアンヌ、アロイスの隣にいるのが例の男爵令嬢だね?」
「そうですわ。男爵の後妻の連れ子で基本的な教養もままならないと思います。教育するために入学を遅らせた…はずでしたのに…。
あんな令嬢に靡くなんて、アロイスの考えがわからないですわ!」
「本当だな。何というか、阿呆…?見た目は男性が好む感じなんだろうけど、気品の欠片もないから見ていて不愉快だよ。アロイスはあんな令嬢のなにがいいんだろうか?男爵令嬢とは話したことはないが、クリスティナ嬢とは雲泥の差だろうし…。」
「そうなのです。私の大切なティナが婚約者だというのに!」
「あれ?俺ってもしかしてクリスティナ嬢より下…?」
「ジェイス様が一番に決まってますわ!」
「はは。ごめん。」
「もう!ジェイス様は意地悪ですわ!」
ジェイスはアンヌの頭を撫でる。そんなふたりを周りにいた参加者達は微笑ましそうに見つめていた。
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
パーティも終盤、フレッドがティナの傍から離れたときだった。
「クリスティナ!」
「アロイス様、ご機嫌…」
「君、どうしてフレデリック殿下と入場したんだい?
俺への当てつけ?」
「私は王妃陛下とマリーアンヌ殿下が勧めてくださったので、フレデリック王太子殿下と入場しただけですわ。当てつけて等は…」
「それって、自慢ですか?」
ティナとアロイスの会話にセシリアが混ざる。
「クリスティナさん、それは自慢ですか?私は王族の血が流れていますよー。みたいな?」
「あの、どちら様ですの?」
ティナはセシリアとわかっているが、社交界や学園で自己紹介されていないので、どちら様と問いかけた。
「えー、クリスティナさん、ずっとアロイスと私がいるのを見てましたよね?」
「はあ…だとしても、貴女に名を呼ぶ許可も出してなければ、自己紹介された覚えもないわ。更には高位貴族であるアロイス様と私の会話に割り込んできて困ったお子様だわ…。」
近くにいた参加者達は会話が聞こえて驚いている。
「あの男爵令嬢、サージス嬢に『さん』って…。」
「サージス嬢の言った通り子ども…なわけないよな?」
「あの言葉遣いで御令嬢だなんて…?実は平民…とか?」
「男爵家の後妻の連れ子らしいわよ…」
男爵令嬢のあまりの教養のなさに、遠巻きに見ている。
「許可って…同じ学園の生徒でしょ…?」
「ここは王宮ですので、学園での身分の平等は持ち出せないわ。」
「…セシリア、セシリア·パーマーよ。」
「はあ…」
不遜な態度はかわらずにセシリアが名乗る。
「クリスティナ、そんなに責めたらセシリアが可哀想だろ!?」
「アロイス様、責めているのではありません。社交界のパーティに参加する貴族としての当然のことを彼女にお伝えしているだけですわ。」
「俺がセシリアとばかり一緒にいるから、怒っているのか?」
「いえ、全く怒っておりませんわ。そもそも、どうして私がアロイス様とパーマー嬢のことで怒らないといけないのです?」
「ちっ!そういうところが気に食わないんだ!昔からいつもいつも清ました顔して!
セシリアを見てみろ!愛嬌があって可愛くてずっと傍においておきたいくらいだ!!」
「あら?ではそうされてはいかがですか?」
ティナの意外な返事に周りは動揺している。ティナの態度にアロイスは怒りを覚える。
「そこまで言うなら、クリスティナ!お前との婚約を破棄して、セシリアと婚約する!彼女は俺の運命の相手だからな!クリスティナそれでいいな?」
「はい、承知しました。おふたりともお幸せに。」
婚約破棄を突きつけられても尚、毅然とした態度のティナは一礼する。そこへリストス公爵夫妻がやってきた。
「クリスティナ嬢、息子には言って聞かせるから、婚約破棄だけは考え直してくれないか!?頼む!」
「クリスティナさん、アロイスに婚約破棄されたら貴女の社交界での立場がなくなってしまうわよ?」
公爵は焦り、夫人はいつも通り嫌味だ。
なぜ公爵が焦るのか…それは…。
「リストス公爵、公爵夫人、私の力及ばず御子息より婚約破棄を言われましたわ。
ですので、今まで貸付した分は即座にお返しくださいね。それと、御子息はそちらの御令嬢と懇意にしていて私との約束やエスコート等を断っておりますので、そちらの不義ということで、慰謝料も請求させてもらいますね?」
サージス侯爵家は王族に匹敵する資産を持っていて、いくつもの商会を抱えている。リストス公爵は昔から資金難(主に夫人と令嬢の散財が原因)で侯爵家からお金を借りているのだ。
「貸付…?どういうことです、旦那様?」
「父上、サージス家にお金を借りていたのですか?」
「うちは昔からサージス家に金を借りていたんだ…。
クリスティナ嬢の支度金として幾らか先にもらっている…」
「公爵、父に言って利息はなしにしてもらうように計らいますから、早めにお願いしますね?」
「ちょ、クリスティナ!待ってくれ!」
アロイスがティナを引き止める。
「どうされましたか、リストス子息?
それともう婚約者ではないので、サージスと家名で呼んでいただけますか?」
「君と俺の仲だろ?幼馴染なのだから、アロイスと呼んでくれクリスティナ。
セシリア…パーマー嬢とは何でもないんだ!だから婚約破棄なんて、ほんの冗談で…」
「ちょ、アロイス!酷いわ!」
「お前は黙ってろ!」
「ふふ。運命の相手が聞いて呆れますわね。
ああ、それともう一つ。残念ですがリストス公爵家の皆様、御子息は王女殿下の誕生パーティで揉め事を起こしたことになりますから何かしらあると思いますが、頑張ってくださいませ?」
ティナがリストス公爵達の後ろに視線を送る。