第三話
カメレオン、一般的によく知られている爬虫類の一種である。舌を伸ばしてエサを捕らえたり、自分の体色を変化させるなど様々な特徴がある。これが一般的なカメレオンの認識だろう、が実際には体色変化は個体差や種類によって決まっている。それに体色を変化させるのは、警戒している時や天敵が目の前に来た時ぐらいである。
体色変化について語ろうとするとまだまだ掛かるのでしないが俺が今この場で言いたいのは、いくらカメレオンでも体の色を風景同化完全に周りの背景と同じ物にする、ましてやそこに居ることがわからなくなる程の同化は、不可能ということである。だがたった今俺の目の前に現れたこの生物は、ついさっきまで何も無い所から出てきたように見えた。正確には、いたのだろうが全く姿が見えなかった。俺が見上げないといけない程大きな生き物なのにだ。
目の動きや体色変化から元の地球のカメレオンに近いが全く別の生物何だろう。それに、歩いていた時から此方を見ていた視線の正体はこのカメレオンもどきだと思う。このカメレオンもどきが何をもって俺をずっと観察していたのかは、分からないが何時でも襲える瞬間はあったはずだが襲わなかったのなら俺に友好的な可能性もある。俺じゃなく倒木ナナフシを喰ったのも俺を助ける為と言われればそう見えなくもない。
俺がカメレオンもどきから目をそらさず警戒しながら考えている間も、カメレオンもどきは豪快な音を立てながら倒木ナナフシを食べていたが遂に食べ終わり目だけではなく、顔ごと此方に向けた。
俺はその場からピクリとも動けなかった。蛇に睨まれた蛙かのように。
カメレオンもどきは、独特の長い首をゆっくりと動かして俺のすぐ目の前まで顔を持ってきた。このカメレオンもどきにはフィッシャーカメレオンのような一本の角のような物があり、当たりかけたが器用にかわし両方の瞳で此方を見ている。
すると、その角を俺の頬に擦り付けて来た。角には多くの突起がありごつごつしており少し痛かったが、擦り付けてくるその様はまるでじゃれついてくる犬や猫のようだった。
俺は、突然の事に驚き、後ろに飛び退きそうになったが必死でこらえた。いくら爬虫類等が好きとはいえこの大きさの物は流石にビビる、がこれは一つのチャンスだと思った。
地球にいる爬虫類等は、人に懐かない。エサを与え続ければ慣れはするが基本的に懐くことはない。これは脳の構造が関係する。
爬虫類の脳は脳幹、大脳基底核、脊髄から出来ており主に生命維持の為に働いている。つまり生きるための脳である。たとえ、手を出して爬虫類が乗ってきたりしたとしても懐いているのではなく、そうすればエサが貰えるという経験からくるものである。だから爬虫類には感情がない。
しかし、このままカメレオンもどきは犬猫のような哺乳類に見られる衝動性の感情があるように見える、感情があるのなら夢である爬虫類とコミュニケーションを取ることが出来るかもしれない。
俺は、もしかしたら襲われるかかもしれない恐怖のドキドキと爬虫類とコミュニケーションが取れるかもしれないと言う興奮のドキドキが混じった自分の心臓の音を聴きながら、擦り付けてくる角をゆっくりと撫でた。すると、カメレオンもどきは、気持ち良さそうに目を細めカメレオン特有のクルクル巻いてあった尻尾を左右に揺らしている。
間違いない。このカメレオンもどきには、感情がある。
暫く撫でていると気持ち良さそうにしていたカメレオンもどきは、何かを警戒するかのような仕草を見せ空中を見上げた。すると何処からか鳥が羽ばたくような羽音が聞こえて来るとカメレオンもどきは、まるで俺を守るかのようにその大きな体で俺の周りを蜷局を巻くかのように囲んだ。
俺もカメレオンもどきが見つめている空中を見ていると、美しく大きな羽をバサバサとはためかせながら人よりも巨大な蝶が現れた。蝶の羽は、楕円形になっておりX状に拡がり地球のトリバネアゲハに近い形をしているが羽はメタリックカラーのようだが、本物の金属で出来ているようにも見える。また、この蝶も体に対して羽の割合がかなり大きい。
蝶は、少しの間俺たちの頭上を旋回していたがゆっくりと此方に降下してきた。俺とカメレオンもどきの目の前まで来ると手を此方に伸ばしてきたので、止まる場所を探しているのか?と思い俺も手を伸ばすと、いきなり口吻を俺に突き立てようとした。あまりに突然の事だったので反応の遅れてしまった俺は伸ばしていた手に口吻を刺されてしまった。
蝶の口吻という物は花の蜜を吸うためのものだが口吻はしなやかで思っているよりも固かった。
刺された瞬間、俺の中から急激に何かが抜けて行く気がした。それは、俺の体の中の血液もしくは水分なのかも知れないがそれ以外の何かが抜けている気がした。
虚脱感が襲い何も出来なかったが、刺され何かを吸い取られた直後、口吻は抜けていた。
体を動かす力もなかったが状況を確認すると先程まで目の前にいた蝶は木に叩きつけられたかのように、ペシャンコに潰れていた。また、俺の横には自分の伸ばした舌を戻しているカメレオンもどきの姿を確認した瞬間俺の意識はブラックアウトした。