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目が覚めたら、ネコになった公爵令嬢  作者: 魚沢凪帆
番外編
16/16

Fall in love ~Noah‘s Case ~ 2

王都の繁華街を抜けて、貴族の住む一角に黄色い屋根の公爵邸がある。

シャルの住む、ローズブレイド公爵邸。


穏やかな日差しの中、彼女の住むローズブレイド公爵邸に向かった。


「今日はお招き、ありがとう。シャル」


迎えられた玄関ホールで、シャーロットと対面した。

シャーロットは絹のような銀色の長い髪を緩やかに編みこんで、まとめていた。

ほっそりとした首が強調されていて、華奢な身体が引き立っている。


彼女の着ている今日のドレスも、身体の線をたどるようなドレスで抱きしめたら折れてしまう気がした。

喉の奥まで[綺麗だね]と言い掛けて、笑みでごまかしていた俺に、シャルが身動き一つしない。


俺の邪な思いでも、ばれたのかと焦って、「大丈夫?」とシャルに手を伸ばした。

固まったままのシャルが俺の手を視線で追いかけると、


「だ、大丈夫ですわ!」


焦りをにじませた。


わざとなのか、どうなのか。

俺の手を避けるように歩き出したシャルに、俺はつい、自分の手を見下ろしてしまった。


ローズブレイド公爵邸の庭園は緑が綺麗に広がっていて、あちらこちらで咲き誇る薔薇が背景を演出していた。


日差しよけのパラソルは、薄い緑色。


白地に花柄のティーセットや3段のケーキスタンドに乗せられた薔薇を象ったチョコレート、段差のある様々なケーキスタンドに乗せられた華やかなチョコレートケーキ。

白を基調としているからこそ、輝くチョコレートが際立って見える。


俺はため息を付くように、息をついた。


「シャルは、センスがいいな」

「あ、ありがとうございます。ノア様、こちらへどうぞ」


先ほどから、俺と目をあわさないシャルは早口でまくし立てると、俺を席に案内した。


「どのチョコレートも、とても美味しいので、ぜひお好きなものを」


メイドたちが俺たちの間を抜けて、紅茶を淹れてくれている間に、俺はテーブルの上のチョコレートの数々を見つめた。


どれもガラス細工のように、繊細な細工がひとつひとつに施されている。


綺麗に盛り付けられたチョコレートの数々を見渡していた俺は、ふとテーブルのスタンドの隅に隠れように置かれたチョコレートを見つけた。


「あれ? これだけ、ちょっと変わったチョコだね」

「そ、それはその―――」


何気なく見つけたソレを指摘すると、シャルの顔から一気に火を吹き上がった。

真っ赤に染まった顔で、パクパクと言葉にならない声を出している。


―――もしかして。


貴族としてはありない行為だと知っている。

けれども、ソレが庶民の間では一般的なことだということも知っていた。


「そう」と頷きながら、俺はこみ上げる気持ちを感じていた。

「食べてもいい?」


首を傾げてみせると、シャルが顔を真っ赤にして、潤んだ目で俺を見た。


「美味しくないかもしれません」

「そう」


「毒見してからのほうがいいかもしれませんわ」

「毒が入っているの?」


俺はシャルの様子が可笑しくて、可笑しくて。

今にも笑い出しそうな気持ちを押さえ込んでいる。


「シャル、食べてもいい?」


もう一度、訊くと、耳まで真っ赤に染まったシャルが、うつむいたまま、小さく頷いた。


シャルの許可を得て、俺はチョコレートを口に運ぶ。

確かに製鋼な造りのチョコレートが並ぶ中、ソレはひときわ目立って見える。


けれど口の中に入れると、ジワッと解けて、舌ざわりよく溶けていった。


「美味しいよ」


これまで、様々な巨匠が作ったスィーツを食べてきた。

その中でも、一際美味しく感じた。


「ほ、本当ですの?」


勢いよく顔をあげたシャルの目には、今にも零れ落ちそうな涙が浮かんでいる。


「もちろん、俺はシャルに、嘘をついていないよ」


笑って頷いた俺に、シャルの大きな瞳からポロポロと大粒の涙が落ちた。

薄い灰色の瞳から、次から次へと丸い泡球のような涙が落ちていく。


泣きじゃくりながら、「ノア様」と俺の名前を呼ぶシャルは、絵画のように綺麗だった。


いつまでもこの光景をとどめておきたい衝動に駆られながら、俺は周りのメイドたちに合図を出して人払いした。


パラソルの下で二人きりになった俺たちの間にさえぎるものは何もない。

ゆっくりと伸ばした手で、今日、やっとシャルの頬に触れた。


まるで、猫が「にゃぁ」と喉を鳴らすように気持ちよさそうな顔をするシャルに、なぜかミルクの姿が重なった。


いつの間にか消えた俺の愛猫 ミルク。


真っ白い毛並みに、灰色の瞳は、シャルを見るたびに思い出された。

シャルの頬に触れながら、俺はようやくわかった気がした。


「落ちる、ね」


―――恋はするもんじゃない、落ちるもんだ


いつのまにか止まったシャルの涙。

濡れた重たいまつげをゆっくりと持ち上げるシャルに俺は、自然と言葉が漏れた。


「婚約しようか」



この可愛らしい生き物が俺のものになるなら―――


俺の言葉にビックリしたようなシャルは、次の瞬間、庭に咲く薔薇よりも綺麗に咲き誇った笑顔を見せた。

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