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クーの迷宮(地下3~4階 アンデッドフロア)走破するのみ

 翌朝早々、地下倉庫でジュディッタさんたちと合流すると、残す物と売り払う物とにお宝を整理することにした。これからの人生で不必要とされる物は商業ギルドか、商会がやってき次第、現金に換えることに決め、それまでは倉庫預かりとしたが、当人たちのせいではないとはいえ、当人たちの罪の意識は深く、まして日常使われずに宝物庫で眠っていたような思い入れのない品にはあまり食指も動かなかった。僕が城のなかから掻き集めた、先祖や家族の思い出になりそうな物だけを遺品として手にした。

 売り払った代金は廃墟に造る無縁墓地や慰霊碑の建設と管理に充てることにした。

 廃墟が砂の下に完全に埋まってしまうまでどれくらいのときを要するかはわからないが、生き残ってしまった四人の心を癒やすためにも、納めるためにもそうしようという話になった。

 物資の積み卸しが済んだら、再び補充のために船は出る。


「お風呂ーッ」

 ザバーンとあふれる音がする。カテリーナがマリーといっしょに湯船のなかではしゃいでいた。

 目下女性陣が入浴中である。朝風呂とは贅沢な。

 大浴場の女風呂を解放しようとも思ったそうだが、砦にいる女性の数は限られているので我が家の風呂で間に合わせることにしたそうだ。おかげで我が家は朝からピンク色だ。

 昨夜の出来事の延長で、大浴場の男湯も朝から人でいっぱいだった。

 噂を聞きつけた住人たちが一斉に押し掛け、スプレコーンでは当たり前だった日常に回帰して大きな溜め息を漏らしていた。

 男子は喜び勇んで出て行ったが、大人たちにさんざんかわいがられて茹で蛸になって戻ってきた。

「はーっ、極楽」

 今はジュース片手に涼んでいる。

 子供たちが転がっているソファーもグラスも購入したばかりの物だ。天蓋に張った布はカラフルで、昨日までの場所とはまるで変わっていた。

「朝ご飯できましたよー」

 婦人の声だ。

 昨夜の二の舞はごめんだとばかりに、子供たちは飛び起きて階下に駆け下りた。

 姉さんと大叔母がそれを見て笑った。


 子供たちは皆休日ということで既にのんびりムードが漂っていた。座学もなくなり、完全休業となった。

 ヘモジは大叔母と畑仕事に。姉さんも同行したがったが、側近に引っ張られていった。

 モナさんは結局ガーディアンの部品の修理を僕に頼んできた。

 他の整備士たちをぐるり一周して『ロメオ工房』のマイスターに辿り着いたようだ。今は一機でも機体が欲しいところだから、趣味の時間は後回しだそうだ。

 僕は迷宮に入る前に工房に寄り、パーツを直してから迷宮に潜った。


 僕の本日の予定はゾンビフロアの突破である。

「来なくてよかったのに」

「話し相手必要」

「それは助かる」

「仕事も少しする」

「うん、よろしくな」

「無双、楽しい」

「三階まではマップがあるからな」

「正面突破!」

「行くぞ!」

 オリエッタとふたりで攻略だ。


 地下三階、引き続きアンデッドフロア。

 僕は剣を片手に暗闇のなかを駆けた。

「正面にゾンビ犬!」

「なんか違う」

「『餓狼ゾンビ』だ!」

 犬が狼にアップグレードしていた。

 足を止めることなく、突っ込んだ。

 そして炎をまき散らした。

「一丁上がり!」

「スケルトン!」

 すぐ後ろ、柱の陰に待機していた。

 構えるよりも早く頭蓋骨を真っ二つに切り裂いた。

 回収せずに先を行く。

「スケルトン!」

「四体!」

 衝撃波でぶっ飛ばし、ど真ん中を素通りする。

「倒すのも面倒」

 オリエッタが鼻を啜る。

 結界は機能している。小さな鼻は昨日の続きで、惰性で反応している。

「まじめに戦うのはスケルトン先生からでいいだろ」

 通称『スケルトン先生』こと『スケルトンナイト』

 エルーダ迷宮では地下四階と五階の主力だった。重装備で頑丈な彼は剣の相手に最適で、冒険者の間では親しみを込めてそう呼ばれていた。特に人間くさいスキルを繰り出してくるあたり、練習相手としても重宝されていた。ドロップ品も比較的高確率で付与装備が手に入るので、アイテムを漁るなら先生からがよい。

 が、気を付けなければならないこともある。

 それは付与装備次第で先生も化けるということである。敵もまたフロアに則さない強さを装備付与によって発揮するのだ。

 装備持ちの怖さである。特に先生は付与を巧みに操り、戦術まで変えてくるから厄介だ。

「罠、罠!」

 僕たちは立ち止まった。

「どこだ?」

 身を低くして周囲を探る。

「あれか……」

「弓矢」

 通路が細くなった先の床板を踏むと正面から飛んでくる仕掛けのようだ。

「シンプル」

 恒久的な物か、ランダムな物かわからないのでしっかり記録する。

 当然、踏まずに回避する。

「『餓狼ゾンビ』!」

「うわ、七体いる」

「あ」

 オリエッタが言葉を吐くより早く、罠に嵌って七体が三体になった。

「相変わらず味方にも容赦ないな」

「ゾンビは燃やす!」


 ようやく出口に辿り着いた。わかっていても道のりは長かった。出現する魔物は上層とほぼ変わらなかった。

 次のフロアからいよいよだ。

「昼までにもうワンフロア行けそうか?」

「出口探すから、行かないと」

 そうだった。ここから先は出口がまだ見つかっていないんだった。出直す必要はなかった。


 地下四層。

 いきなりのお出迎え痛み入る。


『スケルトンナイト、レベル二四』


 いきなり錆びた剣を突き立て『ステップ』を踏む。

 僕は慌てて剣をはじき、頭蓋を狙う。が、そこにはいない。

 重装なのにちょこまかと!

「面倒臭い。短期決戦!」

 オリエッタのご希望通り、時短で行く。

 予備動作なしでいきなり衝撃波を放った!

 それを正面からもろに食らって、先生はばらばらに吹き飛んだ。

「あれ、あれ!」

 オリエッタが指した頭蓋に剣を突き立てる。


「なんもなーし」

 装備品はどれも付与なしの通常装備だった。

 放置決定。


「ソーサラーッ!」

 周囲が突然明るくなった。

 結界が複数の炎を弾いた。

 二階のギャラリーから魔法の玉が降り注ぐ。

「三体とは豪勢な!」

 こちらも魔法で応戦する。が。

「げっ! 何? 結界持ち?」

 この低階層で? 有り得ない! エルーダでは少なくとも見たことがなかった。

 僕は壁に身を隠し、背中の銃を取り出した。

「通常弾で行けるだろ」

「横着する」

「相手してらんないからな」

 魔法より銃の方が射程が長い。まあ、そういうことだ。

 序盤であるし、敵の結界も大したことはない、はずである。

「よっしゃ!」

 人族の目ならば光る苔の薄明かりのなか、敵の位置を把握するのは難儀だろうが、これも準備段階。獣人にとっての悪臭同様「先に進みたければ、探知スキルを何かしら身に付けろ」という迷宮からの忠告である。


 索敵しては安全なルートを探る。が、大抵そんな場所には罠が仕掛けられているし、フレキシブルな『餓狼ゾンビ』が控えている。

 どっちがいいかと問われたところで、どっちも面倒だと返す以外ない。

 そうなると結局、最短を行くのがよいということになるわけだ。

「戦わずしてかーつ!」

 衝撃波で吹き飛ばしながら脇を通り過ぎる。

「駄目だ、魔力がなくなる」

 角で『万能薬』の小瓶を一瓶飲み干した。


「うわっ!」

 細い通路を通り抜けようとしたら、いきなり切りつけられた。

「『結界砕き』!」

 オリエッタも首をすくめた。

 右手に隠し通路だ!

 四層で隠し通路とは。時期尚早では?

「ちょっと、先生。その付与装備は危険だから、こっちによこしなさいよ!」

 僕はナイトの胸に突っ込んだ。

 重装の盾をカタカタ言いながら軽々構え、敵は『バッシュ』を叩き込む予備動作に入った。

『無刃剣』で盾ごと薙いだ。

 切断した鉄の大盾の隙間から剣を叩き込んでやる!

「やばっ!」

 同じこと考えていやがった!

 剣が交わり火花が暗闇を一瞬制す。

 間髪入れずに半分になった盾でこちらの鼻面を狙ってくる!

 練習ならいい相手なんだが、今は邪魔でならない!

『ステップ』でかわしても易々と付いてくる!

「ちょっと、その付与装備。普通じゃないんじゃないですか!」

 二撃目もかわされた。

 装備を無傷で手に入れたいと欲が出る。

「おっと、危ない!」

「余計なことは後で考えろ。大抵、自分の命より軽いものだ」

 オリエッタが爺ちゃんの声マネをした。

 そうだ。昔、爺ちゃんに怒られたんだった。

 振り回してきた盾を結界で弾いて、押し返す!

『結界砕き』!

「面倒臭いって言ってるんだ!」

 完全に体勢を崩したスケルトンナイトの頭蓋のなかにエテルノ式で魔法を飛ばして内側から破壊した。

「悪魔だ」

「誰が悪魔だ」

 確かに子供たちには見せられない勝ち方だ。

「日頃の行い大事」

「そうだな」

 熱くなり過ぎた。


「おおっ!」

 オリエッタの尻尾がぴんと伸びたまま固まった。

「凄い。『結界砕き』の他にも――」

『魔力増加』『風斬り』『攻撃力増加』と目白押しであった。一つの武器にこれほど付与が入っているケースは稀である。増加率はどれもそれ程ではないが、剣で間接的に攻撃する『風斬り』が入っているのを見たときは息が止まるかと思った。

 こんなことは初めてだ。最初の一撃で『結界砕き』と『風斬り』を同時に食らっていたら危なかった。そしてもう一つ、見たことのない付与が……

「『刀身延長』……」

 オリエッタも言葉がない。じっと僕の顔を見詰める。

「接近戦は要注意だな」

 いや、接近戦だけじゃないかも。

 当たり障りのない会話をしながら別のことを考えていた。

 我が家の秘蔵書『スキル大全』にも載っていない新しいスキルである。ゲートキーパーは何を思ってこんなことをしたのか。

 僕たちの知らないどこかの世界ではこんなスキルも実在するのかもしれないけれど。

「この剣はキープだ。刻んであるルーンを調べないと」

 ちょうどこの手のことには大家の大叔母がいる。

 僕は剣を転移結晶を使って地下倉庫に送った。



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