ソルダーノさん帰還するも
遅くなりました。
日にち間違えた(汗
「井戸掘りも終わったから今日から使えるぞ」
それを聞いたヘモジは目を輝かせた。
「ナナナナナナナナナ!」
早口で何言ってんのかよくわからん。
「『灌漑用の水路も使えるか』と聞いてる」
「当然だ。食糧自給は最優先事項の一つだからな」
「ナァー」
露天の縁に張り付いて真っ暗な外の景色を見下ろした。見下ろした場所に畑はないが。
大叔母の話では見張り台とは別に湖畔にも、ヘモジ専用の畑として北の肥沃な土壌を少しずつ入れ始めているそうだ。
「例の果樹園を移植する場所も土壌の改良を始めている」
果樹園はそのヘモジの畑の対岸に作られる。
「なんとかなりそう?」
「気候が違うからな。防砂林にでもなってくれれば御の字だ」
「実の回収はしたの?」
「腐らせる馬鹿はおらんだろ? まだ船倉のなかだがな」
「種には困らないか……」
水は敷いた。土も気を利かせた連中が多少持ち帰ってきたから後はヘモジ次第だ。
帰り際、見たことのある大きな箱が港に二つ荷揚げされているのを見た。
中身の一つはルカーノ家の遺産が詰まった壊れた宝物庫であり、もう一つは第二形態の首なし遺体である。
まさか囲っておいた箱ごと、積み込んで戻ってこようとは。
「頑丈過ぎて壊れなかったんだ」
「よく詰め込めましたね」
「ドラゴンだって回収できるクレーンがあるんだから当然だろ? この程度、楽勝だぜ」
さて、どっちにどっちが入っているのか。印など付けてこなかったぞ。
一応、回収記録が残っているそうだが、今から記録のチェックは面倒だ。
穴を開けて確認することに。
宝物庫に関しては所有者が既に決まっているので、所有者立ち会いの下で開封することに。額が額なだけに嫌らしい話にもなるだろう。
と言うことで、まず見たことのない連中の度肝を抜くことにした。
「これが第二形態?」
「頭ねーぞ」
「倒したとき吹っ飛ばしたんだろ」
明らかにタロスとは違う。
千年大蛇のような腕を持ち、亀の甲羅を着込んだ二足歩行の巨人だ。メインガーデンで見た者もここまで接近して見た者はいまい。あれは別世界の新種だから厳密に言えばこれとは違うのだが。どっちにしてもスプレコーンから来た連中にはなおさらだ。
「これもタロスなんですかい?」
「第二形態だ。こいつはゲートを操る能力と魔力も持ってる」
「マジかよ」
「前線を越えてくる敵はもしかしてこいつが?」
子供たちが頷いた。
「でもゲート開けたら魔力ほとんど使い切っちゃうんだよね」と僕に確認を取る。
「ドラゴンとタロス兵の中間といったところか」
大叔母が鱗の堅さを確認している。
「倉庫に運んだら、今日はもう上がれ。後は港の連中がやる。お前らは明日、完全休業だ。英気を養え」
現場監督にそう言われた作業員たちは、奇声を上げて最後の力を振り絞った。
子供たちは調子に乗って大浴場の存在を明かした。
作業員たちはさらに歓喜し、大叔母に感謝すると、大叔母は眉尻をひくつかせた。
「しょうがないな」と大叔母は開示前に入浴を許した。プレオープンということで。
大叔母は言い出しっぺの子供たちを連れて、試験運用の準備に向かった。マットレスを敷いたり、タオルを人数分用意したり。
親切心からだったのだろうが、口の軽さが災いしたと子供たちは後悔した。が、後の祭りである。
その間、僕は壊した箱の砂でコロを作り、仕事を終えて次々集まってくるガーディアンに解体屋までの道のりに敷くように言った。
箱の底面に載ったままの第二形態をコロで滑らせながらガーディアンが押していく。
解体屋さん、転移結晶、早く用意してくださーい。
残された宝物庫の収まった箱はそのままに、中身は今夜中に僕が地下倉庫に押し込んでおく旨を伝えた。
ジュディッタさんに立ち会って貰って、いる物とそうでない物を分別して貰わなければならない。
今日一日頑張った子供たちも明日の訓練はお休みである。座学はあるかもしれないが。その分、各自の部屋の内装に手を入れることになるだろう。
ヘモジは大叔母と一緒に果樹の移植作業。オリエッタはどうするか。今日の調子ではアンデッドフロアをクリアーするまで外にいた方が身のためだ。エルーダ迷宮ではアンデッドフロアは五層まで続いている。
「迷宮らしいと言えば迷宮らしいけど」
その間、冒険者は隠し扉やトリックを経験し、今後の旅の基礎を身に付けることになる。
肩慣らしの段階だから実入りも少なく、ということになるのかもしれないが、砦の現状ではそれでは困るのだ。
アンデッドフロアの攻略はひとまず置いといて、先へ進んだ方がいいかもしれない。
今は魔石の収集が最優先だ。ある程度回収の目処が付いた段階で、折り返し攻略するのがいいだろう。
調べた限り、魔石回収に適したフロアは十二階層のフェンリルの洞窟までない。十階のヒドラは報酬は多いが命がけだし、個体数も日に一体しか出ない。
エルーダより、厳しい設定になっていそうなので、あくまで予想に過ぎないが。どちらにせよ、闇属性のフロアからは早々に脱出した方がいいだろう。
僕は先人たちの資料を持ち寄り、出口のチェックを済ませた。
「イザベルも三階出口までか」
スケルトン先生に手を焼いてるのかな。
ラーラは斥候部隊を率いて周辺地域の調査、地図作成。モナさんとイザベルは工房立ち上げの準備。姉さんは…… 前線に戻る準備である。
婦人に大目玉を食らったのは言うまでもない。
せっかく旦那の帰還祝いに豪勢な料理を作って待っていたというのに、女性陣以外ほぼ全員が遅刻したのである。原因の一端が大叔母にあるということですぐ何も言えなくなってしまったが、僕たちはソルダーノさんに頭を下げた。
そういう自分は食後、デザートも食べずに単身転移した。
僕は誰もいない白亜の転移ゲート前に降り立った。
「さてと」
冒険者ギルドに顔を出す。
「一階フェンリルは?」
「張り付いてます。先ほど動き始めました」
時計を確認すると九時を過ぎていた。
職員が飛び込んで来た。
「五体が五方向に分かれました! 応援を」
「行き先は?」
「ゴブリンの砦」
「なんてこった。毎晩、ゴブリンと抗争を続けていたのか?」
「今日は誰も?」
「検証のために人払いしていたから、ゴブリンの戦力も万全じゃろう」
「結果が楽しみだ」
応援を数人引き連れて、地下一階フロアに入った。
戦いは二時間程で終わった。
ゴブリンの四つの小さい砦を襲撃したフェンリルは瀕死になりながらも勝利を収めたが、大きな砦を襲撃したフェンリルは返り討ちに遭った。そして、ゴブリンの反抗により二体が死に、二体が巣窟に逃げ帰った。
そうして夜の十二時を前に双方疲弊した姿で一日を終える。
そして深夜と共にリセットが掛かり、新たな一日が静かに始まる。
職員と共に、事務所に戻った。
「まさか、あんなことになってたなんて」
「世知辛いにも程がある」
職員たちが口々に感想を述べた。
「日々冒険者に襲われるのとどちらが増しかって話だ」
「ゴブリンに肩入れしたくなるな」
「漁夫の利を得易くはなるが」
フェンリルから回収した魔石をちらつかせた。
「いつも同じ結果なのか、もう少し検証がいるな」
ギルド事務所の引っ越し作業も終わりつつあった。とりあえず置かれた掲示板には町の外の情報収集と共に、迷宮内の探索依頼も出されていた。
遅くなったが、本日の業務は終了である。
僕が参加するまでもなかったな。大きな欠伸をしたら、窓口嬢に笑われた。
家に戻ると皆、床に就いていた。カテリーナはどうやらマリーの部屋にお泊まりのようだ。
「まだ起きてたのか?」
「師匠が帰ってくるまではと思って」
「退屈じゃなかったか?」
「双六、ソルダーノさんがお土産だって」
ニコロとミケーレが姿を現した。
「昼間狩りをしたんだから、休めばいいのに」
「それはそれ、これはこれだよ」
「頑張り過ぎて燃え尽きないでくれよ」
「大丈夫。そこまでまじめじゃないから」
「師匠が最後だよ」
「暖かくして寝ろよ」
「師匠もね」
「お休み」
「お休みなさい」




