【22】家族団欒と“攻略本の異変”
――パアアッと白い光に包まれて私とサイラスはクロノス城の宮殿に降り立つ。
「アイリーンっ!」
「姉様。時間ぴったりですね。」
「おかえりぃ。」
父のティモシウス、弟のディーン、そして母エリカが伝えていた時間に庭園で待っていてくれた。
「ただいまぁー!!無事帰ってこれたよっ!」
そう言って私は家族に手を振る。
それをサイラスが嬉しそうにニコニコと見ていた。
「サイラス様!姉を守ってくださりありがとうございます。」
ディーンがペコリと頭を下げると、サイラスは『大丈夫だよ。』と言いながら口元を綻ばせた。
「さて。皆でご飯でも食べましょうか。今日はここで食べるのよ。」
母にそう言われて振り向くと、なんと後ろには切った野菜やお肉、マシュマロ、魔導コンロなどが並べられ、シェフがガーリックライスを炒めている。
(…これってもしかして!!)
「…バーベキュー?」
「そう。たまには皆でこういうのもいいでしょ?私が頼んでおいたの。サイラスも沢山食べて行ってね。」
したり顔で笑う母に思わず抱きつく。
「やったーーー!!」
私は思わず飛び跳ねる。
(家族で焼肉とかサイコーじゃんっ!)
日本にいた時は母は働き詰めで、母1人子1人だったので憧れていたのだ。
もしかして、小学生の時に『やってみたい』と言ったことを覚えていてくれたのだろうか。
「へえ…。僕こういう食事は初めてだけど楽しみだ!!」
皆でワイワイとお肉を焼く。
(あーめちゃくちゃ幸せっ!なんか、凄く平和だ。
…異世界にきてよかったな。)
焼いたお肉をサイラスのお皿に取ってあげると、『ありがとう。』と言いながら蕩けるような笑顔で笑ってくれた。
――お肉も美味しいし、家族はみんな元気で隣にはイケメン彼氏までいる。
…『一度目』に自殺をして巻き戻ったなんてなんだか嘘のようだ。
…食後に使用人に退出してもらい、マシュマロを焼いて家族とサイラスだけでコーヒーを飲みながら歓談していた時だった。
母がこんな事を言い出した。
「…それにしても、セレスタ国内で禁薬が使われていたなんてねぇ。」
「…えっ。お母さん、なんでそんな事知ってんの?」
思わず母を見るとサイラスが首を振る。
「実は攻略本の内容が書き変わってたから調べたのよ。――見せようと思って持ってきたわよ。」
そう言われて全員が目を見開く。
「…この本がこの世界の『予言書』…。」
ディーンがまるで畏怖するように顔を顰める。
(うん。ただのコミックオフで中古で買った乙女ゲームの攻略本だけどね。)
――どうやら母は父と弟には苦し紛れに『予言書』と言ったらしい。
攻略本を開くと、びっしり書かれていた“好きな食べ物”の欄が消えて、代わりに『好きな服装』ばかりが並んでいた。
⭐︎………⭐︎………⭐︎
①カミル・セレスタ:エメラルドグリーンのワンピース
②ギルベルト・ラングフォード:水着
③カーティス・クロイツェル:落ち着いた色合いの服
④ノエル・フェルディナンド:魔導士のローブ
⑤サイラス・アステリア:ミニスカート
⭐︎POINT⭐︎
お目当ての男の子のいる場所におしゃれして遊びに行こう!好感度が上がるよ!
⭐︎………⭐︎………⭐︎
「な、何これ!?しかもサイラス、ミニスカート好きなの!?」
私が思わずツッコミを入れると、サイラスはなんとも言えない顔をしている。
「僕、『ミニスカート』って見たことないかも。どんなドレス?」
その言葉に私は心の中で決心する。
(…うん。今度日本に行く時に履いちゃおうかな。)
さらにページをめくるとさらに衝撃を受ける。
⭐︎………⭐︎………⭐︎
⭐︎ライバルキャラ⭐︎
・カメリア・ウエストウッド
カミルルートのライバル。ウエストウッド家の公爵令嬢。賢くて、なんでも出来る手強いライバル。
・リリー・ハーゲンダール
カーティスルートのライバル。天然なので、悪気なく邪魔してくるよ!
・アイリーン・クロノス
サイラス王子の婚約者。クロノス王国の王女。なぜか庶民の暮らしに馴染んでいる。
⭐︎………⭐︎………⭐︎
(ちょっと待って!?どんどんライバルが増えてるんだけど…。しかも、私の友達ばっかりじゃん!!)
そして、さら次のページを開くと、親密度アップイベントについて書かれていた。
⭐︎………⭐︎………⭐︎
⭐︎学校祭
参加するイベントによって男の子との親密度が変わるよ!
①学年の舞台でお姫様役をやる。…カミルの親密度、+8
②オープニングショーで水着でサンバを踊る:ギルベルトの親密度、+10
③古代セレスタの模型を作って教室で展示:カーティスの親密度、+8
④魔力ジュースの販売:ノエルの親密度、+8
⑤お化け屋敷でしがみ付く:サイラスの親密度、−5
⭐︎………⭐︎………⭐︎
…サイラスだけ何故かイベントに参加すると親密度が落ちる仕組みになっているようだ。
さらに、前回見なかったページも開く。
⭐︎………⭐︎………⭐︎
⭐︎媒介石を集めて、目指せっ!『星渡の乙女』
『星の祝福』でこの世界の女神、『ルキア様』に100年に一度現れる『星渡の乙女』として【特殊スキル:星渡りの祝福】を与えられるよ。
国を繁栄に導く存在になれるから、王族との婚姻も可能に。
⭐︎レベル上げに使おう!!
『水鏡の遺跡』
『闇の地底宮』
⭐︎ここからは男の子達も一緒に戦ってくれるよ!
『叡智の迷宮』
『天空の塔』
※3個目の遺跡からAクラスと合同になるよ!
※魔法アイテムショップ
一学期のうちに閉店するよ!その前に『恋の妙薬』を沢山購入しておこう!
⭐︎………⭐︎………⭐︎
「…ゲームの魔法ショップなのに閉店するなんて。」
(それに、学校祭と三番目の遺跡できっとセリナが何かしら絡んでくるんだ…。気をつけないと。)
母が、これを見ながらため息を吐く。
「この記述、さすがに怪しすぎるでしょ?だから調べたの。そしたら、セレスタ国内で摘発されてた訳。
…でもこれでわかったわ。行動次第でいくらでも運命は変わるようになったみたい。
――頑張りましょう。」
その言葉に私とサイラスは頷く。
ディーンは魔法ショップで禁薬が売られていたことにショックを受けたようだ。
「…僕も来年祝福を受けに行きますからね。怪しい食べ物などを差し入れられても食べないようにしなければ。
…カミル王子にまさか盛られていたなんて衝撃です。」
「ああ。王族として、きちんと警戒心は持たなければならないな。」
父も深刻な顔で頷いた。
「ねえ、お母さん、この攻略本もらってもいい?」
私の言葉に母は眉を下げる。
「うーん。本当は私も気になるから持っていたいんだけどね。…そうだ!!日本にアステリアに挨拶に行く前に遊びに行くんでしょ?
ついでにその時に本屋さんで買ってきなさい。」
こうして、私達には日本でお土産を買う以外に攻略本もゲットするという新たなミッションも加わったのだった。
――食後、サイラスは一旦転移でアステリアに戻ったので私達は久しぶりに家族だけで団欒した。
「じゃーん!これ、日本から持ってきたボードゲーム!“人生ゲーム”っていうんだよ!」
「じんせい……げーむ?」
父ティモシウスが首を傾げ、母エリカは懐かしそうに覗き込む。
「昔、誕生日に買ってあげたやつよね?」
「そうそう。駒を進めて、就職したり結婚したり、最後にお金をいっぱい持ってた人が勝ちなの!」
「面白そうだね!姉様、僕は絶対に“石油王”になるぞ!」とディーンが意気込む。
…王太子が石油王ってどうなんだろうか。
――でも一番燃えていたのは母だった。
「ふふふ…今度こそ『売れっ子アイドル』になるわよ!」
「……お母さん、なんでアイドルなの。」
――こうして本格的に楽しい夏休みが始まったのだった。




