7―3 白昼デート②
「お前、そんな魔女みたいな格好でデートすんのか?」
琉倭は思わず眉をひそめた。
朝の光が石畳を白く照らし、通りを歩く人々の影がくっきり伸びている。そんな中で、隣に立つヘレナだけが、まるで夜の住人のように黒いフードを深く被っていた。
「仕方ないじゃない。今日は絶好のデート日和じゃないんだもの」
ヘレナは不満げに唇を尖らせながら、フードの端を指でつまんでさらに深く押し下げた。その仕草は妙に可愛らしいが、死神らしさとちぐはぐで、琉倭はどこか落ち着かない。
雲ひとつない快晴。
人間にとっては心地よい陽気だが、ヘレナにとってはただの災厄らしい。日差しを避けるように、彼女の影だけがわずかに揺らいでいる。
「なら夜になってから出直すか?」
「いやよ。ずっと待っていたのに」
その言葉には、ほんの少しだけ寂しさが滲んでいた。琉倭は小さく息を吐き、肩をすくめる。
「……分かったよ。とりあえず昨日の朝から何も食ってないから、どっか喫茶店でも寄ろうと思うんだが、それでいいか?」
「ええ、いいわ。私も人間が食べてるものには前から興味があったのっ!」
ヘレナはぱっと顔を上げ、フードの奥で目を輝かせた。その反応がいちいち大げさで、琉倭は苦笑する。
「大げさな……今まで何も口にしてこなかったわけじゃないだろ?」
「ないわよ。だって私たち、あなたたち人間みたいに栄養摂取を必要としないもの」
「マジか。てっきりたらふく食ってるもんだと」
琉倭がヘレナの身体をちらりと見やると、彼女はすぐに反応した。眉をひそめ、胸元を隠すように前かがみになる。
「なによ、太ってるって言いたいの?」
「そういうわけじゃねえよ。ただ、何も食わずにそんな大きくなるんだなぁって思っただけだ」
「何を言ってるのかしら、この子は……。いいから早く行くわよ」
ヘレナはぷいと顔をそむけ、フードの影から白い頬がわずかに赤く染まっているのが見えた。琉倭はその反応に少しだけ満足しつつ、歩き出そうとする。
「待て。本当にそんな格好で行くのか?」
「何か問題でも? 他の人間には視えないようにしておけばいい話じゃなくって?」
ヘレナは当然のように言うが、琉倭は頭を抱えた。通りを行き交う人々の視線を気にしながら、彼は声を潜める。
「いや、これから喫茶店で食事するのに、食事の時だけ姿を現されても困るんだが」
「? 私は困らないわよ」
「俺が困るんだよ」
ヘレナは首をかしげるだけで、まるで理解していない。その無邪気さが余計に厄介だ。
「だったら姿を見せなければいいでしょ」
「いやそれだと俺が変な目で見られるだろ。二人分の食事を注文して、まるでもう一人いるかのように振る舞ってるおかしな奴だって」
「もう、めんどくさいわね。じゃあどうしろって言うのよ」
ヘレナは両手を広げ、フードの奥からため息をつく。
「とりあえず人間らしい格好をしてもらう。こんな露出狂、人前に晒せない」
「なっ……だ、誰が露出狂よ!」
ヘレナは一歩詰め寄り、フードの影から鋭い視線を向けてくる。しかしその迫力も、薄い布一枚の服装では説得力がない。
「うるさい。ブラもろくにつけず、下着同然みたいな格好で街中歩いてみろ。お前はいいかもしれないが、隣を歩く俺の趣味が疑われる」
「むぅ……ひどい言われようだわ」
ヘレナは頬を膨らませ、影の中で小さく足を踏み鳴らした。その様子は妙に子どもっぽい。
「いいから大人しく俺の言う通りにしろ。お前に似合いそうな服を選んでやるから」
「え、本当⁉」
ヘレナの声が一段高く跳ねた。フードの奥で目がぱぁっと輝き、さっきまでの不満が一瞬で吹き飛んだようだ。
「ああ」
「うんっ、琉倭の言う通りにするわ!」
ちょろい。だが、その素直な笑顔は悪くない。
「ただし、下着はお前が選べ。ちゃんと採寸もしてもらうんだぞ」
「? でもこんな姿でお店に入っていいのかしら?」
「男が女物の下着を一人で選ぶよりマシだろ。なんでもいいから適当に選んでこい」
「ふーん、分かったわ」
ヘレナは軽やかに頷き、黒いフードを揺らしながら歩き出した。その背中を見送りながら、琉倭は心の中でそっとため息をつく。
――今日のデート、波乱しかない。




