7―2 白昼デート①
昨日、クラスメイトがたくさん死んだ。
けれど一晩もすれば、彼らの死に胸を痛めていた自分はいなくなっていた。
そもそも、涙を流すほどの思い入れなんて最初から持ち合わせていなかったのだ。
冷たい人間だと非難されるかもしれないが、いつまでも悲しみに絡め取られるよりはずっといい。
……それとも、これが心の防衛本能というやつなのだろうか。
よく分からない。
生まれてこの方――いや、そこまで大袈裟じゃないにしても、俺は誰かの行く末に涙を流したことがない。
悲しいという感情よりも、悲しませたいという悪意の方が先に立つ。
失望させ、傷つけ、泣かせる側が板についた俺は、人の不幸や地獄を見たいのだと自覚した時、あいつの顔が浮かんで血の気が引いた。
根本的には、平等本能の死魔――シャーデンフロイデと同じだなんて。そんなの、受け入れられるわけがない。
だって確かに感じたはずだ。好きな女がいなくなったとき、身近な女が消えたとき、胸が締め付けられたあの感覚を。
同じように、使用人の七羅が死んで、妹の沙月が死んで、母さんが死んで……残った人間が俺だけになったら、心はきっともっと強く締め付けられるはずだ。
「……」
けれど結局、俺は繰り返す。
やめたくてもやめられない。
いや、本音を言えば――やめたくない。
悪いことだと分かっていても、欲望には抗えない。
身体に悪いものほど美味くてやめられないのと同じで、人は欲に依存する生き物だ。
欲の充足こそが生きる力。ならば俺は、自分の欲求を振り払うことなんてできない。吹っ切るなんて無理だ。
それも全部、お前のせいだ。
あのいかがわしい夢のせいだ。
「……俺の気も知らないで」
胸の真ん中を手でさする。そこには、あの夜につけられた消えない傷跡がある。
死んだ俺を蘇らせるためにヘレナが行った蘇生手術。俺の胸の奥には今も、女の臓器が半分、俺の器官と混じり合う形で動いている。
霊能力の向上――臓器移植による身体的な変化はあったが、心理的な変化はほとんど感じない。気質も感情も嗜好も、臓器が自己の一部を担うなんて思えないほど、以前の俺のままだ。
「……って、なんて責任転嫁……」
むしろ感謝すべきだ。
あの時ヘレナに殺されていなければ、俺は今こうして生きていなかった。だから――純粋に、あいつの要望に応えてやりたいと思ったんだ。まさか、その結果、死神とデートすることになるとは思わなかったが。
通勤ラッシュを過ぎた街は、平日ということもあって人は少ない。
だが、やはり都心部の騒がしさは好きになれない。それに比べて、人が好きな風変わりな死神は、あえて人が活動している時間帯を選んだ。生憎、天気は曇り一つない晴れ模様だが、感情豊かな死神の機嫌はどうだろうか。
腕時計を見る。
待ち合わせまであと十五分。思ったより早く着いたが、待たせて機嫌を損ねるよりはマシだ。
公園の入り口を抜ける。
不気味で不格好な銅像が並ぶ中、園内の真ん中に一人――やはりその女性も、この場には不釣り合いな格好で誰かを待っていた。
「早いな、あいつ……」
結局、待たせてしまったが、時間は守っている。怒られる筋合いはない。
「あ、琉倭っ!」
俺に気付いた女の声は弾んでいた。フードの下から顔を覗かせたヘレナを見た瞬間、なぜだか分からないが安堵している自分がいた。




