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幽暗奇譚――死神遣いのノクターン――  作者: たけのこ
二章 初恋殺しのランデブー
22/76

2―14 デートよりも、星々よりも

 叔父夫婦の家を出た俺は星宮の後を追う。彼女の姿は見えないが、なに、焦ることはない。どこに逃げようが意味がないし、絶対に逃がさない。星宮も気の毒だろう。だって彼女が恋した男はこんなにもお前のことを殺したくて殺したくてたまらない異常者なんだから。


 殺していい人間は誰一人としていないが、殺さざるをない状況はある。それが今この時だ。異常者にはお似合いな異質な刀を右手に持ちながら彼女の痕跡を辿っていく。

 暗い夜だからよく視える。地面に白く靄のように漂っている彼女の足跡。


「星宮、そんなに俺とのデートが楽しかったのか?」


 その足跡はデートの帰り道に寄った公園へと続いていた。


「……俺もお前とのデートは楽しかった。でもごめん、俺は今、お前のことを殺せると思うと楽しみで仕方ないんだ」


 公園の出入り口にやってくると、星宮小夜は公園の中央にある噴水の縁に座りながら夜空に輝く星を弱りきった瞳で見上げていた。


「化け物風情が一丁前に憂わし気な顔しやがって」

「この感情が……私にはワカラナイ」


 持っていた短剣を逆手に持ち直し、俺は星宮小夜に近づいていく。


「私のこと、殺すの?」

「野暮な質問だな。お前だってさっき、俺のことを殺そうとしたじゃないか……殺されても仕方がないってことだろ?」


 一歩、二歩、三歩四歩五歩。近づくにつれて鎮静化させられていた殺意が芽吹きだす。歩くは殺すよ、ということ。殺すよ、殺すよ、殺すよ殺すよ――――――殺す!


 こちらの本気を感じ取って、星宮は噴水の縁から降りた。


「今更なにを怖がっているんだよ? 俺に殺されたかったんだろ? 俺になら殺されてもいいんだろ? 俺に殺させろよ」

「……いやだ、いやだ、いやだ――来ないで」


 凶器を手にして歩いてくる俺に星宮は制止の声を上げた。


「喋るな。喚くな。彼女の声で」


 その制止を無視して殺す殺す殺す、歩を進める。


「来ないで来ないで来ないで」星宮の足が一歩また一歩下がる。

「殺す」俺の足が一歩進む。

「来ないで」星宮の足が一歩下がる。

「殺す」進む。

「来ないで」下がる。

「殺す」

「来ないで」

「殺す」

「来ないで」

「殺す」

「ぁ、アァああああ――来るなァっ!」


 発狂じみた声で言って、星宮小夜の身体が跳ねた。埋まらなかったあと五メートルの距離をたった一歩で詰める跳躍力はもはや人間の動きではない。一直線に目にも留まらぬ速さで長い爪が俺の首筋を切り裂きにかかる。人間である俺の息の根を止めるには、頸動脈は十分すぎる。それもあの痴女が助けに来なかったら、俺は今頃さっきの出血で死んでいたことだろう。だが、常人ではないから俺は今此処に立っていて、この眼は完全にケモノじみたその動きを把握していた。迫りくる爪を容易く躱し、横切る彼女の中に巣くう虫を憎むように言う。


「来ないでって言っといて近づくなんて、お前の言動は矛盾ばっかなんだよ。出ていけ、星宮の身体から」

「■■ッ!」


 聞き取れない虫のさざめきと共にすれ違いざまに凶暴な爪がやってくる。

 俺の顔面目掛けてやってくる爪を、俺は振り払うように彼女の腕ごと斬り飛ばした。飛び散る鮮血。夜の色に沈んだ塑像が彼女の血で赤々と染まる。ああ、すごく綺麗な赤だ。夜空に輝く星々よりもずっといい。

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