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 ――生きてる!

 透子は跳ねあがると、近くにいるはずの涼平と栄吉を探した。透子の体は半ば土砂に埋もれていたが、怪我がないのは幸いだった。

「栄吉、涼平?」

 辺りを見回す。が、目当ての姿はない。影すらも見えない。透子はすぐに青ざめた。

「どこ!? 栄吉! 涼平!」

 素早く身を起こすと、透子は二人がいたはずの地面を掘った。

 大きな岩。流木、水を含んだ重い泥。この中で生きていることなどあり得るのだろうか。

 まさか、また。また守れなかったのか。震える手で、透子は土を?き分ける。指先が痛い。石にひっかけて、腕が切れた。血が滲む。

「涼平、栄吉……涼平!!」


「なんだ?」

 背後から声がして、透子は振り返った。

 黒いスーツを脱ぎ、汚れたワイシャツを腕まくりした涼平がそこにいた。透子は確かめるように瞬くと、涼平に飛びついた。彼の体に触れ、手を握り、何度もその顔を確認してから、ようやく気が抜けた。

「どこ行ってたの」

「透子がなかなか起きないから、助けを呼びに行こうと思っていたんだ。一応神とはいえ、ほとんど人間のような身だ。頭を打っているかもしれないからな。下手に動かすこともできない――と思っていたんだが、大丈夫そうだな」

 涼平が無遠慮に手を伸ばし、透子の頭に触れた。そのまま髪を撫でられると、透子は照れくさくて俯いた。涼平が生きていたのが嬉しい。安堵から、涙が溢れ出る。

「透子。お前はまた町を守ったんだな」

 くしゃくしゃに撫でていた涼平の手が不意に止まった。どうしたのかと、視線だけを涼平に向けると、彼は透子ににやりと笑みを返した。

 ――と思うと、あっという間に涼平の姿が見えなくなる。

 代わりに感じるのは、強い拘束だった。胸に顔を押し付けられ、腰に腕を回されて――抱きしめられているのだ。

「透子、俺も役に立ったか? お前の言うこと聞いただろう?――約束は思い出したか?」

「や、約束って」

「十七年、もう一度会えるのを待っていた」

 透子の耳に、囁くように涼平は言った。透子は目を白黒させる。

 透子は普通の人間よりも、ずっとずっと長く生きてきた。だけどそれは神として、だ。人間から、こんな風に扱われたことなんてなかった。

「り、りょーへー、私、人間じゃないんだよ」

「それが?」

「涼平より、長く生きるよ」

「それで?」

「う、ううううう……」

 涼平が首を曲げ、透子の赤い顔を覗き込んだ。その瞳は、ぎくりとするほど大人のものだった。

「一緒にいてくれるな? この先、何年、何十年でも」

 透子は言葉に詰まった。断る言葉はない。涼平の幼い約束を反故にするなんて、透子に出来るはずがない。

 でも――素直に肯定できるほど、透子の心は大人じゃない。

 にやにやと笑む涼平の顔は、少年の頃の面差しを残したまま、大人になっていた。


「うちの娘になにをする!」

 涼平の笑みを吹き飛ばす一喝が響いた。

 涼平の背後から、無理やり肩を掴んで透子を引きはがす。その姿を見て透子は歓声を上げた。

「栄吉! 無事だったんだ!」

「わしにばかり人を呼ばせて。お前はなにをしているかと思えば」

 涼平は不満げに顔を背けた。栄吉はまだ怒っているようだ。

 透子は二人を見比べてから、少しして吹き出した。

 いつの間にか雨が上がっていたらしい。空が鮮やかに晴れ渡っていた。


 土砂の中から、御神木の若葉が覗いている。

 雨のしずくが光り、小さな若木が緑に輝いた。

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