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向陽草は黄金の花を咲かせ、七年後、国を枯らした~箱の底の古文書は、続きを読まないと危険です~  作者: 朝山 みどり


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01 婚約がなくなった日

01 婚約がなくなった日


 婚約が白紙になると聞いた瞬間、胸の奥がひどく冷えた。


 部屋には、国王夫妻、王太子殿下、私と両親、それから妹のルーシーがいた。


 夜会のたび、二人は私の前から姿を消した。殿下から届く手紙は短くなり、代わりに妹の部屋へ花が届くようになった。


 予想はしていた。覚悟もしたつもりだった。


 幼い頃から王太子妃になるために学んできた。歴史、法律、外交儀礼。苦手なダンスも、足の親指の爪が割れるほど練習した。


 殿下が欠席した式典には私が出席した。面倒だと押しつけられた報告書も読んだ。いつか隣に立つ人の助けになれればと思っていた。


 私は立ち上がり、礼をした。


 誰も引き止めなかった。


 扉を閉める直前、母の声が聞こえた。


「さあ、ルーシー。婚約式のドレスを考えなくてはね」


 廊下には誰もいなかった。


 私はそこで一度だけ、深く息を吐いた。


 泣くことはできなかった。


 涙を流すにも、どこか安心できる場所が必要なのだと、そのとき初めて知った。


 私は馬車を待つ侍女のナタリーに声をかけた。


「市場へ行くわ」


「市場でございますか?」


 ナタリーが驚いた顔をした。


「何かご入り用でしたら、私が買ってまいります」


「歩きたいの」


 それ以上は聞かれたくなかった。


 護衛を従え、私は通りへ出た。ナタリーが半歩後ろを歩く。


 焼きたてのパンの匂いがした。荷車を引く男が声を張り、店先では女たちが野菜の値段を交渉している。


 誰も私の婚約がなくなったことを知らない。


 それが、少しだけありがたかった。


 露店の間を歩いていると、古道具を並べた店で足が止まった。


 欠けた皿や錆びた燭台に交じって、一つの箱が置かれていた。


 両手に収まるほどの木箱だった。蓋には、絡み合う茎と細い花弁が彫られている。隅に黒い汚れがこびりつき、花の中心には穴のような窪みがあった。


 綺麗なのに、どこか不気味だった。


「そちらがお気に召しましたか」


 店主の老人が腰を上げた。


「何の箱?」


「さて。北の古い屋敷から出たものだそうですがね。鍵もありませんし、宝石箱というには仕切りもない」


 私は蓋に指を置いた。


 木でできているはずなのに、妙に冷たかった。


「お嬢様、お手を汚されます」


 ナタリーが布を差し出した。


 私は受け取らず、箱を持ち上げた。


「これをいただくわ」


 今の私の部屋に置くには、ちょうどよいものに思えた。


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