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異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第4章:最強 ~俺とAIの答え~
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第28話:評価の逆転(前)

 遺跡調査から三ヶ月が経った。


 俺たちは依頼をこなしながら、各地の異変についても調査を続けていた。北部の地震、西部の魔物増殖、東部の疫病。一見関連がないように見えるこれらの事象を、俺はAIと共に分析していた。


 そして今日——俺たちは金ランクに昇格した。


      ◇ ◇ ◇


「金ランク昇格、おめでとうございます」


 フェイが新しいプレートを差し出した。金色に輝くプレート。午後の日差しを受けて、きらりと光る。冒険者として、上位に位置する証だ。


「ありがとうございます」


 俺は金色のプレートを受け取った。手に重みがある。物理的な重さではない。ここに至るまでの全てが、この一枚に込められている気がした。


 銀ランクからの昇格は簡単ではなかった。高難度の依頼を何度もこなし、ギルドからの評価を積み重ねてきた。遺跡調査、交渉補佐、調査依頼。全てがこの日のために繋がっていた。


「インファレンスの皆さん、本当に素晴らしい活躍でした」


 フェイは続けた。いつもの穏やかな笑顔に、感慨深げな色が混じっている。


「最初にマナブさんが登録に来た時のことを覚えています。スキルが『情報系』で、戦闘向きじゃないからって、不安そうでしたよね」


「覚えてるのか」


「もちろんです。だから、今日この日が来て、私もとてもうれしいんです」


 フェイは書類を整理しながら、少し声を落とした。


「正直に言いますと、登録から一年未満で金ランクに昇格した冒険者は、このギルドでも記録にありません。通常は三年、早くても二年はかかると言われています」


「そんなに珍しいのか」


「はい。異例中の異例です」


 フェイは言った。


「特に、各地の異変に関する分析レポート。あれが王国に報告され、高い評価を受けています。『これほど精緻な分析を行えるパーティは他にない』と」


      ◇ ◇ ◇


 金ランク昇格の知らせは、またたく間に広まった。


 ギルドの酒場で祝杯を上げていると、見知らぬ冒険者たちが次々と声をかけてきた。


「お前がインファレンスのリーダーか?」


 がっしりした体格の男が、エールのジョッキを片手に近づいてきた。


「情報系スキルで金ランクまで上がったって? しかも一年かからずに? 普通、金ランクまで三年はかかるぞ。戦えないって聞いてたが」


「戦うのは仲間の役目だ。俺は考える方を担当してる」


「なるほどな。分業ってやつか」


 別の冒険者も近づいてきた。


「俺も一緒に組んでくれよ。お前がいれば、どんな依頼も成功しそうだ」


「スカウトですか。悪いが、今のパーティで十分だ」


「そう言うなよ。報酬は弾むぜ?」


 俺は少し戸惑った。


 かつて「ハズレスキル」だと見なされ、城下町に放り出された俺が、今では引っ張りだこになっている。召喚された日、周囲の反応から「使い物にならない」と察したことを、今でも覚えている。


「マナブ、人気者だな」


 アランがニヤニヤしながら言った。


「最初に会った時は、お前のスキルがどこまで通用するか分からなかった。情報分析ができるっていっても、実戦で役に立つかは別だと思ってたからな」


「ひどいな」


 俺が言うと、アランは肩をすくめた。


「事実だろ。でも今は、お前なしじゃパーティが成り立たない」


「大げさだな」


「本当のことだぜ」


 エイダが笑いながら口を挟んだ。


「アランの言う通りよ。作戦立案も、情報分析も、交渉もマナブがいなきゃできなかった」


「わしも同感じゃ。マナブ殿のおかげで、わしも成長できた気がする」


 ジェフリーが穏やかに頷いた。


      ◇ ◇ ◇


 金ランクになって、ギルド内での扱いも変わった。


 専用の待機室が用意され、高難度の依頼を優先的に紹介される。王国の要人からの依頼も舞い込むようになった。


 待機室は広く、革張りの椅子が並んでいる。壁には王国の地図が掛けられ、窓からは街並みが一望できる。銀ランクまでは共有の待合スペースだったが、金ランクは個室が与えられる。


「居心地いいな、ここ」


 アランが椅子に深く腰掛けた。


「出世したもんだ」


 その時、ドアがノックされた。


「インファレンス様、王宮からお呼びです」


 使者が来た。王宮からの招待状を持っている。封蝋には王家の紋章が押されていた。


「王宮?」


「はい。各地の異変に関するご報告をいただきたいとのことです。明日の午前、謁見の間にお越しいただきたく存じます」


 俺たちは顔を見合わせた。


「いよいよ、本格的に関わることになるか」


 アランが言った。


「覚悟を決めよう」


      ◇ ◇ ◇


 翌日。王宮の謁見の間に通された。


 豪華な装飾が施された広間。天井には精緻な絵画が描かれ、壁際には騎士たちが整列している。赤い絨毯が玉座まで続き、その両脇には貴族たちが並んでいた。


 正面には玉座があり、そこに王が座っている。白髪交じりの初老の男性。威厳のある雰囲気だが、目は優しい。傍らには宮廷魔術師と思しき老人が控えている。


「インファレンスの諸君か。よく来てくれた」


 王が言った。声は穏やかだが、よく通る。


「各地の異変について、詳しく聞きたい。宮廷魔術師からも報告は受けているが、現場を見た者の意見が聞きたい」


 俺は一歩前に出た。仲間たちの視線を背中に感じる。


「陛下。我々がこれまでに収集した情報を報告いたします」


      ◇ ◇ ◇


 俺はAIの分析結果を元に、報告を行った。


 事前に何度も練習した内容だ。AIと壁打ちをして、論理の穴がないか確認した。


「北部の地震、西部の魔物増殖、東部の疫病。一見無関係に見えるこれらの事象には、共通点があります」


「共通点?」


 王が身を乗り出した。


「はい。全ての事象が発生した場所は、古代の封印遺跡の近くです。地図上にプロットすると、特定のパターンが浮かび上がります」


 俺は用意した資料を広げた。AIと共に作成した地図と分析チャートだ。


「我々が調査した遺跡にも、封印に関する記述がありました。『千年の封印』が弱まっているという仮説です」


 王の表情が変わった。隣の宮廷魔術師と視線を交わす。


「封印遺跡……」


「我々の仮説が正しければ、これらの異変は前兆に過ぎません。封印が完全に解ければ、より大きな災厄が訪れる可能性があります」


 王は少し黙ってから、口を開いた。


「実は、宮廷魔術師からも同様の報告を受けている。封印が弱体化しているという観測結果だ」


「やはり……」


「だが、どう対処すべきか、まだ分かっていない。諸君の情報が、大きな手がかりになるかもしれん」


 王は傍らの侍従に目配せした。


「聞けば、諸君はこの三ヶ月、自費で各地を調査していたそうだな。ギルドからの依頼でもないのに、王国のために動いてくれた。その功績に報いたい」


「いえ、我々は——」


「遠慮は無用だ。これまでの調査費用として金貨五十枚を支給する。そして、引き続き調査を続けてほしい。今後は王国からの正式な依頼として扱う。必要な支援は惜しまない」


 金貨五十枚。遺跡調査二回分以上の額だ。三ヶ月間の活動が、正当に評価された。


「……ありがたく、お受けいたします。引き続き、調査に尽力いたします」


 俺は深く頭を下げた。


      ◇ ◇ ◇


 王宮を後にし、俺たちは街を歩いていた。


 夕暮れの街並みを、金色のプレートを胸に歩く。すれ違う人々が、敬意を込めた視線を向けてくる。


「王様に認められたな」


 エイダが言った。


「金ランクどころか、王国の重要人物として扱われてるわ」


「まさか、こんなことになるとはな」


 俺は苦笑した。


「最初は『ハズレスキル』だったのに」


「もう誰も、お前のスキルをハズレとは言わないだろ」


 アランが言った。


「『唯一無二のスキル』。それがお前の評価だ」


「唯一無二、か」


 俺は空を見上げた。夕焼けが街を赤く染めている。


 ハズレから唯一無二へ。評価が完全に逆転していた。


 でも、俺自身は変わっていない。AIは相変わらず、質問に答えるだけの道具だ。使い方を工夫し、仲間と協力し、地道に積み重ねてきただけ。


 変わったのは——周りの見方だ。


「これからが本番だ」


 俺は言った。


「封印が弱まっているなら、いずれ何かが起きる。その時に備えて、準備をしておかなければ」


「インファレンスの出番だな」


 仲間たちが頷いた。


 大きな戦いが、近づいている予感がした。


第28話「評価の逆転(前)」 完


次回:第29話「評価の逆転(後)」


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