表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界AIは的外れ ~育てたら最強になりました~  作者: モグ
第3章:開花 ~街を駆け巡る噂~
24/36

第24話:静かな夜

 貿易交渉を成功させた夜。


 俺たちは宿に戻り、それぞれの部屋で休んでいた。


 疲れているはずなのに、眠れない。興奮が冷めないのか、それとも別の何かが心に引っかかっているのか。今日の交渉を頭の中で何度も反芻している自分がいた。


 俺は窓辺に立ち、夜空を見上げていた。


 この世界の夜空は、元の世界とは違う。星座の形が違う。北極星に相当する星もどこにあるのか分からない。最初は寂しく感じたものだが、今は慣れた。


      ◇ ◇ ◇


 コンコン、とドアがノックされた。


「誰だ?」


「俺だ。アラン」


 ドアを開けると、アランが立っていた。いつもの豪快な雰囲気は影を潜め、どこか静かな表情をしている。


「眠れなくてさ。お前も起きてるかなと思って」


「ああ、入れよ」


 アランは部屋に入り、窓辺に立った。月明かりが彼の横顔を照らしている。


「なあ、眠れねえのか」


「ああ。興奮が冷めないみたいだ」


「俺もだ」


 アランは窓の外を見た。星空が広がっている。


「今日みたいな依頼、またあると思うか?」


「交渉の補佐ってことか?」


「ああ。金貨二十枚だぜ。モンスター討伐より割がいい」


 俺は少し笑った。


「戦闘がないと物足りないんじゃないのか」


「まあな。でも、たまにはいいさ。俺が剣を振る仕事、お前が頭を使う仕事。両方あった方が飽きない」


 アランは腕を組んで、何かを考えているようだった。


「なあ、マナブ」


「ん?」


「次はもっとでかい仕事、来ると思うか?」


「でかい仕事?」


「ああ。国がらみとか、王族絡みとか。今日の交渉だって、言ってみれば国と国の話だろ。もっと上のレベルに食い込めるんじゃねえかって」


 アランの言葉に、一瞬手が止まった。そんなことを考えているとは思わなかった。


「野心家だな」


「お前がいるからだよ。俺一人じゃ、剣を振り回すだけで終わってた。でもインファレンスなら、もっと上を目指せる気がする」


「……そうだな。俺も、もっとできることがあると思ってた」


「だろ?」


 アランはニヤリと笑った。


「金ランク、目指そうぜ」


      ◇ ◇ ◇


 アランが去った後、今度はエイダが来た。


「起きてた?」


「ああ。入れよ」


 エイダは部屋に入り、椅子に座った。髪を下ろしていて、いつもと少し違う印象だ。


「今日の交渉、見てて勉強になったわ」


「どこが?」


「相手の心理を読んで、タイミングを計って、妥協点を引き出す。魔法とは全然違う戦い方だけど、すごく論理的で」


「交渉も戦いの一種だからな」


「そうね。私、今まで力で押すことしか考えてなかったの。魔法の威力を上げれば勝てる、って。火力が全てだと思ってた」


 エイダは窓の外を見た。


「でも、それだけじゃダメなんだって分かった。相手を観察して、弱点を見つけて、最適なタイミングで攻撃する。マナブのやり方、魔法にも応用できそう」


「試してみろよ。きっとうまくいく」


「うん。明日から練習してみる」


 エイダは少し笑った。


「ねえ、マナブ。元の世界のこと、時々思い出す?」


「……たまにな」


「帰りたいとか、思わないの?」


 俺は少し考えた。


「最初は帰りたかった。でも今は……分からない。ここにも居場所ができたし、仲間もできた。帰る方法も分からないしな」


「そっか」


 エイダは立ち上がった。


「私、マナブがこの世界にいてくれて良かったと思う。そうじゃなかったら、私たち出会えなかったし」


 エイダは少し間を置いて、続けた。


「ねえ、マナブは……元の世界に未練、ある?」


「未練か……」


 考えてみる。


 前世の俺には、家族がいた。両親は健在だし、たまに連絡を取る妹もいる。友達は多くなかったけど、たまに飲みに行く同期はいた。仕事も、最近ようやく面白くなってきたところだった。


「……ないって言ったらうそになるな」


「そうなんだ」


「両親には心配かけてるだろうし。妹も、兄貴が急にいなくなったら驚くだろうな」


 俺は窓の外を見た。


「でも、帰る方法が分からない以上、考えても仕方ない。それに——」


 窓から見える星空を眺める。


「向こうにいた時より、今の方が生きてる実感がある。依頼をこなせば、誰かが助かる。オークを倒せば村が安全になる。今日の交渉だって、漁師たちの生活がかかってた。俺の行動が、目に見える形で誰かに届く。それが……なんか、いいんだよな」


「マナブの顔、生き生きしてたわよ。交渉の時」


「そうか?」


「うん。なんていうか……楽しそうだった」


 エイダは窓の外を見た。星明りが彼女の横顔を照らしている。


「私ね、魔法使いになりたくてなったわけじゃないの。才能があるって言われて、実家に期待されて、自然とそうなっただけ。自分で選んだって感覚、なかった」


「今は?」


「今は……自分で選んでる気がする。インファレンスにいること。マナブたちと一緒に戦うこと。それは私が選んだ」


 エイダはこちらを向いて、少しだけ笑った。


「だから、私も未練ないかも。昔の自分には」


 そう言って、エイダは部屋を出ていった。


      ◇ ◇ ◇


 エイダも去り、俺は再び一人になった。


 窓から見える星空を眺めながら、心の中でAIに話しかけた。


「今日は大きな仕事だったな」


『はい。貿易交渉の補佐は、通常の冒険者の業務とは異なる分野でした。しかし、結果は成功です』


「現代の知識が、こんな形で役立つとは思わなかった」


『あなたの知識と経験が、この世界でも価値を持つことが証明されました。交渉術、心理学、ゲーム理論。それらが実践で機能することを確認できました』


「次は何ができるかな」


 俺は窓辺に座り、考えた。


 戦闘依頼、調査依頼、そして今回の交渉補佐。様々な依頼をこなしてきた。でも、まだまだできることはあるはずだ。


「なあ」


『はい』


「俺たち、もっと大きな仕事ができると思うか?」


『現在の実績と能力の伸び率から推測すると、さらに高難度の依頼にも対応できる可能性があります。ただし、それには継続的な情報収集と、仲間との連携強化が必要です』


「もっと大きな仕事、か」


 金ランクへの道。


 銀ランクになったばかりだが、すでに次の目標が見えている。


「いつか、この国を揺るがすような大きな仕事をしてみたいな」


『壮大な目標ですが、不可能ではありません。一歩ずつ進んでいけば、到達できる可能性があります。あなたの成長速度は、予測を上回っています』


「そうだな。一歩ずつ」


 俺は目を閉じて、考えた。


 国を揺るがすような仕事。それは何だろう。


「具体的に、何ができると思う?」


『現在の能力と実績から推測できる可能性を列挙します。


一、情報戦の専門家としての活動

 政治交渉、外交補佐、諜報活動の支援


二、問題解決のコンサルタント

 複雑な事件の調査、紛争の仲介、リスク分析


三、危機管理の要

 大規模災害や戦争時の情報統括、避難計画の策定


いずれも、直接的な戦闘力ではなく、情報と分析による貢献です』


「情報戦、問題解決、危機管理か」


 どれも地味だ。剣を振るって魔物を倒すような派手さはない。


 でも、それでいいと思った。


 俺は剣聖じゃない。炎魔法の使い手でもない。俺にできるのは、情報を集めて、分析して、最適解を導き出すこと。


 それがハズレスキルの使い道。そして俺は、その使い道を見つけた。


「面白そうだな。どれも」


『楽しそうですね、マナブ』


「そうか?」


『はい。言葉に高揚感があります』


 AIにそんなこと言われるとは思わなかった。


      ◇ ◇ ◇


 夜が更けていく。


 窓の外には、満天の星空が広がっていた。見知らぬ星座が、静かにまたたいている。


 異世界に来てから、もう数ヶ月が経った。最初は絶望していた俺が、今では銀ランクの冒険者として認められている。


 仲間がいる。


 目標がある。


 そして、まだ見ぬ未来がある。


 俺は目を閉じた。


 今日は静かな夜だ。戦闘もなく、危険もなく、ただ穏やかな時間が流れている。


 こういう夜があるから、冒険を続けられる。


 明日からまた、新しい挑戦が始まる。


 でも今夜だけは、この静けさを味わっていたい。


 窓から吹き込む涼しい風を感じながら、俺はゆっくりと眠りについた。


第24話「静かな夜」 完


次回:第25話「謎の遺跡(前)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ