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3,300万のごみスキルと笑われたけど、ベッドの上で1,000億稼ぎます  作者:


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10/65

第10話 64万の詰みと200万の生存必需品

ベッドの上に、生々しい64万5千円の現金が転がっている。

昨夜、小杉の闇ルートから抜き取った、俺の「初任給」だ。


だが、俺はすぐに神マケのUIを開き、電卓を起動する。


収入:645,000円。

支出:澪の延命費、月800,000円。


……赤字だ。


2週間、脳が焼き切れる寸前までスキルを酷使し、危険度を2.75%まで積み上げて、

その結果が「維持費にすら満たない」。


このまま第1階層でゴブリンを狩り続けても、

1000億どころか3300万の借金を返す前に、俺は《サードアイ》に拘束されて詰む。


……単価を上げるしかない。


狙うは、中級者向けの第3階層。

Bランクモンスターがドロップする魔石だ。


だが、Bランクには「精神攻撃」と「逆探知」のリスクが伴う。


対策は分かっている。


俺は神マケのストアページを開き、Dランク装備を検索する。


戦術単眼鏡タクティカル・モノクル

《価格:2,000,000クレジット》


俺は、手元の64万5千円を見つめた。


あの200万のモノクルは、ただの暗視ゴーグルじゃない。

あれがあれば、俺のブレる照準を、脳幹の、あの狭い一点に固定できたはずだ。


Bランクが使うという「見えない精神攻撃」だって、

あれなら紫色のノイズとして視えるはず。


あれは片眼鏡タイプなので、片目でダンジョンの脅威を視ながら、

もう片方の目で現実の自室、いつ鳴るか分からないスマホを見ることも可能だ。


それができなきゃ、俺はBランクか、あるいは小杉に殺される。


あれは贅沢品じゃない。

あれがなきゃ、俺はBランクに勝てないどころか、「気づく」前に死ぬ。


……いや、考えるのは後だ。

今やるべきは、利益の再投資だ。


俺は64万5千円の現金(座標)に意識を向け、スキルを発動する。


「【ワールド・デリバリー】――【配送】」


ズクン、と重い疲労が走る。

現金が消え、UIの残高が更新される。


《残高:645,000クレジット》


まず、弾薬――コストの補充だ。


《異世界の鉄杭セット【Fランク】》を20セット購入。2万クレジット。


これで杭は200本。

手元の残り60本と合わせて260本。


当面は持つ。


次に、消耗品――目の補充。


斥候蜘蛛スパイ・スパイダー(5体セット)》を2セット購入。10万クレジット。


第3階層に挑むなら、今の1匹だけでは足りない。


残高、52万5千。


……モノクルには、150万近く足りない。


クソ……どうする。


俺が神マケの闇鍋ガチャのページを開きかけた、その時だった。



昼の事務所。

フロア全体に響き渡る、小杉のヒステリックな怒鳴り声がした。


「アァ!? なんで昨日まで動いてたモンが壊れんだよ!」


俺が倉庫業務のフリをしながらイヤホンで聞いていると、

小杉がデスクの受話器を叩きつける音がした。


「クソが! 第3階層のキャンプに置いてる通信中継機がイカれただと!」


事務所の空気が凍る。


第3階層。


そこは、俺が今、まさに行きたがっている「中級者エリア」だ。


「おい、誰か……」


小杉が事務所を見渡す。


古参の探索者ライセンス持ちの社員たちが、一斉に目をそらした。


……そうか。


中継機が置いてあるキャンプ地は、第3階層でも特に奥だ。

リスクとリターンが見合わない。


誰も行きたがらない。


その時、小杉の脂ぎった目が、俺を捉えた。


ニヤリ、と。


最悪の笑みだった。


「おい、『3000万』」


俺は完璧な社畜スマイルで立ち上がる。


「はい、課長」


「お前、荷物運ぶのだけは得意なんだろ? Fランク【配送】持ち様だよなァ?」


「第3階層のキャンプに、この交換パーツを届けてこい。今すぐだ」


「なァに、護衛はつける。お前はただの『荷物持ち』だ。

 Bランクモンスターなんぞに会う前に、護衛が全部殺してくれるさ。ガハハ!」


……来た。


これだ。


これこそ、俺が待ち望んでいた「合法的な座標登録」のチャンス。


小杉は、俺を「絶対に拒否できない債務奴隷サンドバッグ」として、

一番危険な任務に放り込んだつもりだろう。


俺は、最高の笑顔で頭を下げた。


「承知いたしました!」


……第3階層に行ける。


いや、違う。


俺はダンジョンの構造図を脳内で反芻する。


第3階層に行く「途中」には、必ず「第2階層」を通過する。


1回の任務で、2つの階層の座標を奪う。


俺はポケットに忍ばせた斥候蜘蛛の冷たい感触を確かめた。



Cランクダンジョンの腐った土の匂い。

だが、いつもと違う。空気が重い。


第1階層のキャンプ地を抜け、護衛のBランク探索者が先導する。

俺は「交換パーツ」の入ったジュラルミンケースを運びながら、

その数歩後ろを完璧な「荷物持ち」としてついて行く。


「おい、ここから『第2階層』だ。気を抜くなよ」


護衛のリーダーが吐き捨てる。


空気が変わった。湿度が上がり、獣の匂いが濃くなる。


……ここか。


俺は、護衛がモンスターの気配で角の奥を警戒している、その一瞬。

ポケットに忍ばせた斥候蜘蛛の1体を、指先で弾く。


蜘蛛は音もなく壁の亀裂に張り付いた。


……第2階層、座標登録完了。


さらに進む。


第3階層に入った瞬間、肌が粟立った。

レベルが違う。


護衛たちの顔から冗談が消え、殺気だけが空気を満たしている。


「……キャンプ地だ。さっさと荷物を置いてこい」


目的地の中継機は、岩陰の窪地に設置されていた。


俺は交換パーツを置くフリをしながら、残りの蜘蛛4体を、

キャンプ地を見渡せる死角――天井の鍾乳石の裏や、機材の排熱口の奥――に、正確に設置していく。


……第3階層、座標登録完了。


任務は、あっけないほど簡単に終わった。


会社に戻る頃には、すでに夕方だった。


小杉は、俺が五体満足で戻ってきたことに舌打ちし、


「チッ、使えねえ護衛だ。さっさと倉庫に戻れ、ゴミが」


いつもの罵声を浴びせてきた。


「はい! 承知いたしました!」


俺は完璧な笑顔で倉庫に戻り、そして、寮への帰路を急いだ。



深夜。ワンルーム。

蛍光灯は消してある。


俺は、あの64万5千円から補充した、残高52万5千クレジットのUIと、

鉄杭の詰まった工具箱を見つめていた。


……第2階層じゃない。


俺が今やるべきは、一発逆転だ。


俺はスマホを取り出し、蜘蛛のリストを切り替える。


【3匹目:第3階層・キャンプ地】。


ブツン、と映像が切り替わる。


第1階層のゴブリンとは比較にならない、濃密な魔力の淀み。

蜘蛛のマイクが、遠くから地響きのような唸り声を拾っている。


Bランクモンスター。


ゴブリンの10倍、いや20倍の単価になるかもしれない。


200万のモノクルなんて待っていられるか。

この52万クレジットは、次の「運転資金」だ。


俺は、この「目」だけで、Bランクを狩る。


蜘蛛をキャンプ地から前進させる。


……いた。


岩陰に潜む、全長3メートルはあろうかというオーガ。


だが、狙わない。

あれは図体がデカいだけだ。魔石のランクも低い。


狙うは、高ランクの証――精神攻撃持ち。


蜘蛛をさらに進ませる。


開けた広場に出た。


……その、影。


闇が、不自然に蠢いている。

人型の、だが実体のない「何か」。


……シャドウ・ストーカー。

Bランクの中でも、最悪の相手だ。


だが、好都合だ。

あいつは「静止」している。


この14日間の訓練で極めた、脳幹への一点狙い。

そのカモだ。


俺は工具箱から鉄杭を1本手に取り、意識を集中させる。


座標、固定。


呼吸の谷間……いや、あれに呼吸はあるのか?


関係ない。「静止」している。なら、殺せる。


俺が、スキルを発動しようとした、その瞬間。


―――キィン。


耳鳴り。


違う。


脳みそを、直接、金属のフォークで引っ掻かれたような。


「……ッ!?」


息が詰まる。


スマホの画面が、砂嵐のように乱れた。


なんだ……!?


キィィィィィィン!!!


二度目の衝撃。


今度は、熱した鉄杭を、耳から脳天に突き刺されたような激痛。


「ぐ……ぁ……ッ!!」


ベッドの上で、身体が勝手に弓なりになる。


これが、精神攻撃。


見えない……!

どこから、どうやって……!


画面の中で、シャドウ・ストーカーが、ゆっくりとこちらを「向いた」。


マズい。


逆探知が始まってる。

この蜘蛛リンクを辿って、俺の自宅(座標)がバレる。


「【配送】ッ!!」


俺は咄嗟に、鉄杭をシャドウ・ストーカーの座標へ撃ち込む。


だが、遅い。


激痛で座標が0.5秒ズレた。

杭は、怪物の影の腕をすり抜けて、虚しく地面に転がった。


その瞬間、スマホの画面が真っ赤に染まり――


ブツン、と切れた。


《【3匹目:斥候蜘蛛】からの接続がロストしました》


……やられた。


蜘蛛が、一瞬で破壊された。


俺はベッドの上で、脂汗を流しながら荒い息を繰り返す。

脳がまだ痛い。

心臓が警鐘を鳴らし続けている。


……あれが、Bランクか。


無理だ。勝てない。


俺は、震える指で神マケのストアページを開く。


戦術単眼鏡タクティカル・モノクル

《価格:2,000,000クレジット》


今、ハッキリと理解した。


これは、贅沢品じゃない。


あの「見えない精神攻撃」を可視化し、

逆探知から身を守るための――


生存必需品だ。


……順番が、違った。


俺は、蜘蛛リストの【2匹目:第2階層・通路】に映像を切り替えた。


そこは、第1階層よりは淀んでいるが、第3階層ほどの殺気はない。


……まず、ここで稼ぐ。


俺はUIのメモ機能を開き、新しい目標を書き込む。


・目標:200万クレジット(モノクル代)の捻出

・狩場:第2階層(Dランク魔石)

・タイムリミット:3週間(次の小杉の換金日)


俺は、残高52万5千クレジットのUIを睨みつけた。


……待ってろよ、シャドウ・ストーカー。


お前を狩る装備は、お前より格下の雑魚から稼ぎ出してやる。

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