第二十六話 負け犬根性!
二日間の入院生活を経て、リハビリもしっかりして僕は退院した。
「ありがとうございました」
「お大事にお帰りください」
担当した看護師さんとお医者様にお礼を述べて僕は病院から出ていった。
家に着き、入院生活で使った衣類やタオルを洗濯機に入れ、外に出る。
僕は、朝日が照らす陽をボンヤリと眺めていた。
「……」
二日前にあったあの鬼から怪我をした男性三名の人命救助には成功したけど僕はモヤモヤした気持ちをしていた。
この感情はもしかしたら……敗北感かもしれない。
あの時、放った技【一点鐘】が破られたからである。技を教えられて自分が調子に乗っていたのかも。
そう自分に嫌気がさす。
近くのベンチに腰掛け、座っていると『オイッ』と声をかけられた。
ん、この声に聞き覚えが?
「よっ元気にしてたか」
目の前にいたのはあの時、公園で指導してくれたアンちゃんだった。
「あっ……はい……」
だが僕はどこかうわの空で返事をする。
「なんだ〜しおらしい顔しやがってちょっとついて来い」
「えっ!?ちょっと待っ」
アンちゃんに肩を強引に掴まれ、どこかに連れて行かれる。
「あの……どこに行くんですか?」
「黙ってついて来い」
そうして数分歩いていくといつもの、あの寂れた公園だった。
「オラッさっさと構えろ!!」
「ハ、ハイィィ!!」
肺から出された声は、修行僧が行く滝が流れるような轟轟した喝を入れられ、姿勢がシャンと真っ直ぐになる。
「ワンツーワンツー!」
「フッハッ!」
最初は拳の撃ち方をしていたがミットを持たす、アンちゃんは素手で僕の拳を受け止め続ける。
来れをやる前に聞いたら
「あの〜ミットとかそんなの無いんですか?」
「ん?素手で十分だろ」
とあっけらかんと返していたのだ。
マジかこの人と心の中で思った。
「片足ばかり重心をかけるな。そうしないとこうなるぞ!」
「うわっ!?」
僕の左足にアンちゃんの鋭い足払いをかけられ、地面に尻もちをつく。
「この程度で終わるか?」
「こなクソォォ!!」
バッと立ち上がり、またジャブを繰り出す。
「よし良いぞ。泥臭く、負け犬根性をだせ!」
「ドリャそりゃぁぁ!!」
「オイオイ動きが単調だぜ。もっと変化を織り交ぜろ」
分かってるよ!そんな事は……だからアンちゃんの気を逸らすためにジャブしか出さなかったんだよ!!
「ほう……油断を誘ってるが甘いな」
拳から蹴りにシフトチェンジしたがそれも予感してたのかいなされる。
そんな事を体感として十分間してたと思う。
「よし、そろそろ良いだろ」
アンちゃんはパンパンと服に舞った砂埃を振り払った。
「お前、あの技やってみろ」
「ハイ!!」
ハァハァと息が上がり、心臓が高鳴っているのが耳元からわかる。
目を閉じ、スゥーーハァーー呼吸を整える。
迷いなく自然に集中し、技を放った。
「一点鐘!!」
あの感覚だ……
「良いぞ。お前に足りなかったのは全身に張り巡らす集中力の足りなさだ」
「集中力……」
確かによくよく考えるとあの時、集中出来てなかったかもしれない。
動揺、焦り、緊張の複数の糸が複雑に絡み合い、いつもよりリラックスできずに力んでしまった。
あの時の実感は、もしかしたら僕は勘違いをしていたかもしれない。
思考の渦に六真は深く潜っていく。自分でも気づかない程の脳をフル回転していた。
「オイ……オイ!」
「ハッ」
いかんいかんうっかり考え込んでしまった。
「お前は敗北を知ったんだろう」
「えっどうしてそれが解ったんですか」
「顔に出てたぞ。『自分は負けました』ってな」
「よく聞けよ。負けるってのは自分を成長させる種の肥料だ」
「ひりょう……ですか?」
「そうだ。だから負けた時、自分に何が足りなかったか。もっと直せる部分があるかを教えてくれる。だが……」
「だが……?」
真剣な顔でアンちゃんは六真を見据える。
「それを生かすも殺すもお前次第だが、お前は腐ってもいない良い負け犬だ」
負け犬……なんか不名誉だな。
「絶対に腐る負け犬なんかなるな。お前には成長できる土台を確実に持っている」
ドンッと胸を叩き、鼻を高々と膨らませる。
なんかこの人なりの激励なのかな。
「負け犬根性になりゃしっかりと自分が敗れた敗因を探しやすくなる」
負け犬根性か……不名誉な響きだけど、でも僕にはまだまだ成長できる。このぐらいでへこたれられない。
「よし。良い顔をするようになったな。じゃああの技をもう一回やってみろ。これを持ってな」
「えっなんですかそれ」
アンちゃんはどこから取り出したのか手に5cm位の玉があった。
「それを持ってあの技の形を造るぞ。それじゃあやってみろ」
「あっはい」
その玉を受け取るとズドンと腕が沈む。
なっ……なんだこれクソ重ぃぃぃ。
「それでは始めろ!」
「ㇵ……ハイ」
そうして僕は一点鐘を我が物にするため厳しいアンちゃん指導を受けたのだった。
どうも〜作者の蒼井です!
新年そうそう嫌な出来事がありましたがそれを吹き飛ばす元気を取り戻しましょう。
今すぐじゃなくてもいいですよ〜あなたのペースでゆっくりと。
僕はこうして書くことしか出来ませんが皆さんの心の支えになってくれたら(むしろなるのか?)嬉しいです!
それではまたお逢いしましょ〜う(^O^)/




