公爵夫人の家
ペティが歩いていると、目の前に豪邸が現れました。さっきまで何もなかった場所にです。しかし、そのことに驚いた様子もなくまるで、この世界ならあり得るとでもいうような態度でその豪邸の門に近づきました。
そして、その門にふれたとたんにペティの瞳に光が戻りました。
「ここって? あれ? あの気持ち悪いのは?」
キョロキョロと辺りを見渡すペティには、どうやらキノコを食べる前までの記憶しかないようです。
ペティは門の横にある壁に掛かる表札があることに気が付きました。
「こうしゃく家。そうか、ここが目的地なんだ。きっと、あの気持ち悪いのがここまで連れてきてくれたんだね。気持ち悪いのは、良いやつだったんだな」
ペティはまるで鼻歌でも歌いそうな気分で門を開けると中に入りました。
「公爵夫人? どこですか? お届け物ですよ?」
しばらく、庭のような場所を歩いていると、子供の泣き声が聞こえてきました。
「公爵夫人の子どもかな?」
ペティは鳴き声が聞こえる所に行くことにしました。しばらく、歩くとまるでレストランのような建物が見えてきました。なぜ、レストランだと思ったかというと、タキシードを着た人らしき影があったからです。
ペティはその人影に駆け寄りました。
「こんにちは。公爵夫人がどこにいるのか、しらない?」
その人物が振り返って初めて、ペティは驚きました。その人物いえ、魚は光の無い死んだような眼でペティのことを見下ろしてきたからです。
「ああ、公爵夫人ならこの中にいますぞ。それにしても白ウサギなんて久方ぶりに会いましたな」
「……君の方が気持ち悪いね」
「はて? 誰と比べているかは大体見当がつきますが、会って第一声がそれとはいつもの通り失礼な方ですな」
「うん。ごめんね。公爵夫人はここの中にいるんだね」
ペティは少しも悪びれた様子も見せずに、その魚がヒレで指し示した家の扉に手を伸ばしました。しかし、その手は魚のヒレでたたき落とされました。
「いたい。なんで叩くのさ」
「なぜ、白ウサギが公爵夫人に用があるんだね? 先に用件を言いたまえ」
「うん。僕は手袋と扇を届けに来たんだ」
ペティはそう言うと、ポケットを探ってその二つを取り出しました。
「ああ、これか。残念ながらこれはもういらないですぞ」
魚はそう言うと、まるで猫でも追い払うかのようにヘラを振りました。
「しっし。さあ、用事は済みましたな。では、帰ってどうぞ」
「それは、酷いんじゃないかな? 僕は公爵夫人に会いに来たんだよ?」
「おや、届け物をしに来たのではないのですか? 私用で公爵夫人に会いに来たのでしたら、余計にたちの悪い方ですね」
「なんだと!」
ペティは思わず魚を殴ろうとしましたが、体格差があり、その拳が魚の顔に当たる前にヘラでたたき落とされました。
「危ないですぞ。白ウサギ、ちょっと見ないうちに好戦的になりましたな」
魚の顔がニヤリと笑ったように唇が引きつりました。
「なんで、通してくれないんだよ? 僕は公爵夫人に会いたいの」
「会ってどうする気ですかな? 公爵夫人は忙しいんですぞ」
魚眼が呆れたかのように細められました。
ペティはまるで駄々っ子のように手足をバタバタしますが、魚はそれをまるでなんの感情もない魚眼で見るだけでした。
「もういいもん。帰る」
「ようやくわかってくれましたか」
魚は少し疲れた声を出して、ペティをペティの元来た道に押しやりました。
「お帰りはこちらでございますぞ」
ペティが、魚の隙を伺っていると、いまだに子供の泣き声が止まらない扉の中から、ペタペタという音がして開けることの出来なかった扉が開きました。
扉の中から顔を出したのは顔がカエルの従者でした。
「我が家に何用だ?」
「おい、魚。お前はこの家の従者じゃないのか?」
「そのようなこと、一言も言ってはおりませぬ。ただ、我が主の命令を公爵夫人に伝えにきたのですぞ。女王様より、公爵夫人にクロケー競技へのご招待ですな」
「では、中に入って下さい」
「じゃあ、お邪魔いたします」
「よし、これで公爵夫人に会えるぞ」
魚が家に入るのに、ペティも後に続いて行こうとしました。
しかし、カエルの従者がペティの前に立ちはだかりました。
「貴方様は何用でこちらに来たのですか?」
「公爵夫人にお届け物を届けに来たの」
ペティはカエルの従者に胸を張って答えました。しかし、カエルの従者はペティをギョロリとする大きな瞳で睨むと低い声でいいました。
「おや、これはこれは裏切りの白ウサギではないか。よくもノコノコとこの場所に顔を出せたものだ」
カエルの従者はペティの肩を軽く押すと、そのまま扉を閉めてしまいました。
「裏切りもの?」




