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〇〇 IN ワンダーランド  作者: 神楽 斎歌
ハッピーエンド
14/15

ウサギの穴(ハッピーエンド②)

 前に落ちた時とは違い真っ暗な穴の中でした。しばらくの間、闇の中を落ちながら、ペティは考えていました。甘ったるい口の中が落ち着いてくると同時に、この落ちるという行為が二度だけでは無く、何度も経験したかのように感じたからです。


「僕は何なんだろう」


 少し前に聞かれた疑問に、ペティは胸を張って『アリサのペットのウサギだ』と言うことが出来なかった事を思い返していました。

 ここの住人はペティの事を見ると、”白ウサギ”だと言います。それにその呼び方にあまり疑問を感じませんでした。ペティは今まで『ペティ』と呼ばれていましたし、”白ウサギ”という種族名で呼ばれた経験なんてなかったはずでした。


「あれ? じゃあ、なんで僕は二本足で歩くことにも抵抗がなかったんだろう」


 人間の姿になったのもこれが初めてのはずです。

 ペティはどんどん混乱してきました。目まぐるしく状況が変わる中で疑問にも思わなかったことが、この闇の中でははっきりと頭に浮かぶのです。

 とうとうペティは頭を抱えました。

 その瞬間、暗闇の中に沢山の絵画が浮かび上がりました。その絵画にはペティと同じ格好の白ウサギがいました。そしてそばにはアリサのような少女が立っています。ペティはその絵画に飛びつきました。その瞬間、ペティはその絵画に呑み込まれます。


「ふぇ?」


 おそるおそる目を開くと、そこには『ペティ』がいました。いいえ、違います。確かにそこに居たのはペティをそのまま映したかのようにそっくりなウサギでしたが、そこに居たのは“白ウサギ”でした。


『ああ、忙しい。女王様は無理難題を押しつける』


 アリサによく似た少女はよく見ると、真っ赤なドレスを着込み、まるで”女王様”のようです。


『わらわが無理難題を押し付けるだなんてなんという言葉じゃ。わらわは”白ウサギ”が出来る仕事しか言っておらん』


 どうやらこの少女は、アリサでは無く”女王様”のようです。しかしそれにしてはアリサによく似ています。


「なんで? アリサは、僕のご主人は……」


 これ以上この続きを聞いてしまったら、ペティの中にある想いが壊れてしまうと感じました。ペティは慌てて耳を塞ごうとしましたが、その行動は遅すぎました。


『”アリサ”という名前で良いですか?』

『うむ。それで良い。おぬしは”ペティ”という名前にしよう』

『”ペティ”ですか。まあ、女王様の仰せのままに。全く、面倒な事を思い付くものです。あのアリスという少女のような生活をしてみたいだなんて。女王様が庶民の生活に耐えられるか見物ですね』


 二人はそう言いながら、薔薇園からあの扉が沢山ある場所にやってきました。

 ペティはまるで何かに引きずられるように、二人の後を追います。


『さて、この扉を開けてそのまま入れば良いのじゃな?』

『ええ、そうすれば女王様は”アリサ”となります』

『白ウサギはその姿でついてくるのか?』

『いいえ、もちろんその場に馴染む姿をとりますよ。一応、女王様のお目付役ですから』


 二人は臣下と女王の距離感で会話をしています。その様子はペティ達とは別人のようでした。それでも二人の口から語られる言葉はペティが信じたくないものばかりでした。もし今ここで行われている事をペティ達の過去としてしまったら、ペティというただのペットのウサギはつくられたものだと、このアリサを想う気持ちがマガイモノであると、そう突きつけられてしまうとペティは感じました。


「嘘だ。これは嘘。僕はアリサのペットのウサギだし、アリサは僕のご主人だけど、ただの少女じゃないか。いくら女王様に似てるとしても、他人のそら似かもしれない。そうじゃないと……」


 ペティは頭を抱えます。

 次に目を開くとそこは再び暗闇でした。

 どれだけ否定しようと、ペティの頭の中に先程見たあの場面の記憶がよみがえってきます。ペティの手には帽子屋が握り潰したはずの銀の懐中時計がありました。その時計は正確に刻を刻んでいます。


「この懐中時計は、僕が飲んだはずじゃ」


 このままアリサの後を追うのが正しいのか、ペティにはもう分からなくなっていました。このままアリサが元の世界に戻る方が正しいのか分からなくなったのです。アリサはこの世界の”女王様”です。そしてあの世界は”女王様”が望んだ造られた世界なのです。ペティもウサギではなく”白ウサギ”としてこの世界で生きる方が良いのではないかと思いました。


「ねぇ。どうしたら良いんだろ」


 初めてペティは進むことに迷いを感じました。その時です、ペティの胸元にしまっていた鍵が光り出しました。その鍵は『迷子で誰かを探しているあなたの鍵』と書かれています。

 その鍵の光は闇を裂き、まるで道のようにペティの前を照らしました。

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