紅茶は甘くて苦い(ハッピーエンド①)
ペティは目を閉じました。
『ペティ?』
アリサの声が聞こえた気がしました。ぱっと目を開けたペティは、胸元の鍵を握りしめます。
帽子屋は、優雅に紅茶を飲みながら、その瞳はペティを面白そうに見つめています。
「帽子屋さん。この懐中時計はもうちょっと持っていてくれますか?」
「ほう。面白い」
帽子屋はにこりと笑うと、ペティの前から銀の懐中時計を取り上げると、握り潰しました。硬いはずの金属がまるで豆腐のように潰れていきます。
「えっ……? どうして」
ペティは呆然と時計の形をなくした金属の塊を見つめました。帽子屋は手の中の形をなくした懐中時計を、目の前の紅茶の入ったティーポットに入れました。そしてその紅茶をカップに注ぎ入れて、ペティの前に置きました。
「ふぅ。面白いことを言ったからそのお礼だよ。飲みたまえ」
ペティは目の前で起こったこと理解できません。どうして懐中時計を壊したのか、ソレをまるで砂糖のように紅茶に入れたのか、そしてその紅茶がお礼になるのかも理解出来ませんでした。しばらくペティは湯気の立つ紅茶を眺めていましたが、考えることをやめてその紅茶を飲むことにしました。
「えっと、いただきます」
ペティは恐る恐る紅茶に口をつけました。紅茶は程よい熱さで、ペティはコクコクと喉を鳴らしながら飲み干します。銀の懐中時計は本当に砂糖になったようで、紅茶の風味よりもただただ甘い砂糖の味が、喉にねっとりと絡みつきました。
「勇気があるのか無謀なのかわからねぇな」
ウカレウサギのその言葉に反応しようと思った瞬間にふらり体が揺れて、視界がグニャリと歪みました。そして帽子屋たちの騒ぎ声がどんどん遠くなっていきます。
クルクルと視界が回って、まるで自分自身がティーカップの中で紅茶に混ぜられているかのようです。
『君はなんだい?』
「僕は何者なんだろう」
知らない男の声で聞かれた気がしました。
目眩は治まっていました。ペティが辺りを見渡すと、キラキラとあの銀の懐中時計の欠片がペティを包むように取り囲んでいます。ペティは慌ててその銀の欠片から身を護るように、体を丸めて目をつぶりました。
気がつくと、ペティはあのアリサを呑み込んだ大きな穴に飛び込む場面に戻っていました。あの時と違って、体は人間の姿のままでした。穴を覗くとアリサが小さくなっていく様子が穴の上から見えました。
「アリサ!」
思わずペティは今まで呼んだことの無いご主人の名前を叫び、そのままその穴の中に飛び込みました。今度こそ追いつくために。




