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〇〇 IN ワンダーランド  作者: 神楽 斎歌
メリーバッドエンド
12/15

間違えた証拠(メリーバッドエンド③)

 王座の間に迷うことなくたどり着いたペティは、少しの違和感を覚えながらも王座の扉を開きました。しかし違和感はすぐに忘れました。そう、アリサが居たからです。


「アリサ! ようやく会えた! 帰ろ」


 ペティはアリサに駆け寄りました。周りなんて見えません、ただようやく会えたアリサだけを見ていました。

 アリサは名前を呼ばれたからか、ペティの方向に向き直りました。


「えっと、”白ウサギ”さん?」


 アリサは困惑した顔でペティを見つめます。まるで初めて会ったかのような反応に、ペティは固まりました。


「ペティだよ? 一緒に元の世界に戻ろう?」


 名前を名乗っても、アリサの不思議そうな顔をするだけで、ペティに触れることはありません。それどころか、距離を置き他人行儀に話しかけてきます。


「あの? ”白ウサギ”さん。私が帰るための鍵をあなたが持ってるってあの王様から聞いたのだけど…… 持っていますか?」


 ペティはアリサの様子に困惑しながらも、アリサが望むものを差し出しました。


「これのこと?」


 ずっとペティの心の支えになっていた胸元の鍵を渡します。その手はカタカタと震えていました。渡してしまえば、自分が帰ることが出来なくなると考えたからです。でもペティは自分よりもアリサを優先しました。ご主人だから当たり前です。


「『迷子のあなたの為の鍵』かぁ。これ、私の家の鍵だわ」

 

 鍵を目の高さに掲げて、鍵にかかっているプレートの文字を読むと、アリサはにっこりと笑いました。


「ありがとう、”白ウサギ”さん。おかげでお家に帰れるわ。この世界も面白くて楽しかったのだけど、お腹がすいたから」


 アリサはそれだけ言うと、ペティに背を向けて王様に向き直りました。そしてスカートをつまんでお礼を言いました。


「王様。ありがとうございました。有意義な時間を過ごすことが出来ましたわ。でも私には女王なんて荷が重いので帰らせていただきますわ。私がまた迷い込んだらお話ししましょ」


 アリサはペティに背を向けたまま、何もない空間に鍵を差し込むと、跡形もなく消えてしまいました。


「えっ?」


 ペティは状況についていくことが出来ず、ただ赤い瞳を大きく見開いています。目の前からあれほど追いかけていたアリサが、ペティを置いて帰ったことを認めることは出来ませんでした。ペティの口から渇いた笑い声が出ます。


「ははは」


 虚ろになった瞳に真紅のドレスが映りました。そのドレスの持ち主の顔を見たペティは、今度は驚きのあまり口をぽかんと開けました。


「アリサ?」


 女王様の顔はあまりにもアリサに似ていました。本人が戻ってきたかと思うほどです。


「”白ウサギ”お前は、どうしたいんじゃ? あの薄情な女王を追いかけるかい? それとも私と一緒にこの狂った世界を生きるか」


 女王様は真っ赤な唇を弧にすると、アリサとは違うほっそりとした白い手をペティに向かって差し出しました。


「僕は……」


 ペティはためらいます。この手を取ればもう二度とアリサには会えませんし、”ペティ”という名もなくなるでしょう。 そっと女王様を伺うと、本当に優しそうに笑っていました。その顔とアリサの顔がダブって見えます。


「僕は!」


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「アリサ! 起きなさい! ハンモックじゃなくて、なんで地面で寝ているのよ!」


 アリサはうるさいお姉様の声で飛び起きました。


「あれれ? 帰ってきたのね!」


 アリサは急いで立ち上がるとお姉様の元に駆け寄りました。お姉様は顔をしかめながら、アリサの髪についた草を取ります。


「もう女の子なのだから、いつも綺麗にしてなきゃ」


 アリサは満面の笑みを浮かべて、お姉様に抱きつきました。


「あのね、お姉様!」


 アリサは自分が経験した不思議な出来事を、事細かに説明しました。そして近くに落ちていた『白紙』の本を手に取りました。


「それでね、最後に白ウサギのペティが出てきたのよ! ペティが鍵を持ってきてくれたおかげで帰って来れたの!」


 そして、もう一つ近くに落ちていたモノを手に取ると抱きしめました。

 ソレは白ウサギの人形でした。ただのウサギとは違い、モノクロをかけて燕尾服を着ているというものでした。


「はいはい。楽しかったなら良かったわね。もうお昼だからサンドイッチを一緒に食べましょう。お腹がすいたわ」

「うん。すぐにピクニックの準備をするわ。お姉様、ペティとこの本を持ってて!」

「分かったわ」


 お姉様は駆けていくアリサを見送ると、本を開きました。

 真っ白なページが続くその本の最後に、可愛らしい白兎が描かれていました。その兎は何か言いたそうな顔をしているようにお姉様は感じました。


「あら、なんて言いたいのかしらねペティ?」


 お姉様は膝に乗せたペティに話しかけました。すると硝子の瞳がなぜか濡れていることに気がつきます。拭うとそれは朝露の名残のようでした。


「不思議なこともあるのね。まるで泣いているかのようだわ」


 お姉様は首をかしげましたが、アリサに呼ばれてアリサが待っているお花畑へと歩き出しました。


 その後ろで、草の影にあった大きな穴は、ゆっくりと縮まって、とうとう無くなってしまいました。もう不思議の国の扉が開くことはないでしょう。そしてペティという白兎はもう居ないのです。

次は、ハッピーエンド→

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