閑話 「 それぞれの思惑 」
[ 王族side ]
そこは、藍色を主体とした見事な壁画が天井に描かれており、3つの絢爛豪華なシャンデリアが吊り下がっており、その無数の先端には、直視しても眩しさを感じさせない光が室内を明るく照らし出していた。[淡光]の魔法を閉じ込めた貴重な魔法具で出来ているのだ。
また、天井とは違い、壁やカーペットは主張の強いワインレッドで統一されている。
置かれている調度品もまた部屋の豪華さに負けず、更に引き立てるものばかりだ。
そんな部屋内に3人の男女がいた。
「勇者らの様子はどうだ?」
室内に唯一備えられた光沢のある赤鉱石製の背が高い椅子に座るのは、ホーソーン国の国王ヒルベルト。
野心を隠す素振りすら無い、獣の様などす黒い眼力、肘掛けにもたれ掛かり足を組ん だ姿勢と、不敵な態度で目の前に片膝を付いて屈む男に訪ねた。
「は!勇者様方は順調に強くなっており、現在はレベル50に近く、ステータスも平均800前後と脅威的です。かのプラチナ冒険者にも届くかと。」
男は、この国王の近衛騎士団団長、属に王騎士と呼ばれる地位に就いていた。
赤と金の二色で作られたオリハルコン製全身鎧の両肩には、国の紋章と王騎士を表す長剣の紋章が施されている。
「馬鹿者が!洗脳がどうなっているかと聞いてるのだ!」
「も、申し訳ございません! 不可解な事に、洗脳魔法の効果が急に薄れており…しかし、あ、あと半年もすれば!完全に操り人形となるでしょう。」
国王の怒声を受け、怯えるように鎧が震えている。
ヒルベルト王は、ただ血を持って王に就いたのでは無い。18人の王の血を引く者の内、幾度の戦場を乗り越え生き残った2人の内王となった戦王である。
現在も変わらず闘気を纏う王に、王騎士団団長すらも気圧されたのだ。
「不甲斐ない。しかし…何故だ? 理由は判明しているのだろうな?」
すると、これまで無言で王の隣に佇んでいた者が口を挟んできた。
「お父様、仕方ありませんわ。レベルアップの弊害として、魔法抵抗が強くなっているのでしょう。」
アルセリア第2王女である。
薄紅色のドレスのように華やかな法衣を着込み、首飾りに腕輪と高価な飾りを幾つも付けている。その全てが魔法具であるのは他の二人も知っている。
「そうか…既にヘル・ジャイアントを屠る実力らしいからな。早く魔王を倒して、我が国に貢献してもらいたいものだわ!」
豪快に笑うヒルベルト王は、勇者達を軍事力として戦争に使う予定である。
魔王という、生きとし生けるもの全ての敵を倒した後は、勇者の力で領土を増やして行く算段であった。
近い未来と考えており、一層笑い声が出るのだった。
「そうですわね。しかしながらお父様、近頃また、自由の翼と呼ばれる下賎な輩の動きが活発になっているそうですわよ。」
「…煩わしい連中だ。調べは付いてるのだろうな?」
高揚した気分に水を刺されたが、自由の翼と聞いて冷静になる。
王に反旗を翻す愚かな者共である。
厄介なのが、王城内の事を把握している動きがあるがその首謀者が掴めないこと、それに活動が頻繁でない為チクチクとこちらをつつてくるのが不愉快だった。
「はっ!自由の翼に賛同する者達の捕縛し拷問した結果、加入している人物の中に伯爵家及び子爵家の数名と…どうやら、イラスマエル公爵が絡んでいるのではと。首謀者の線で現在調査を進めております 。」
「…あやつか。元プラチナ冒険者[白金の胡蝶]、本当に奴が代表であれば面倒なのだが、まあこちらはそれ以上の力を持つ勇者達が育っておる。手が出せなくなるのも時間の問題だろう。しっかりと証拠を抑えておけ。」
しかしまさか、公爵家まで絡んでいるとは思っていなかった。しかも権力者に縋る者でなく、個の力を備えた武力派だ。
しかし漸く掴んだ情報ではあるが、末端員から得られる情報など信憑性に欠ける為、簡単に公爵を捉えるわけにもいかない。
歯がゆいと思いつつも、それも勇者達を手の内に入れてしまえば問題なくなると切り替えた。
「そうですわ。彼等が力をつけ、操ることが出来れば何も恐れることは無いでしょう。」
「そうた。早く鍛え上げそして洗脳するのだ!そしてゆくゆくは…あの不出来で馬鹿な弟、アーモスの国を頂きに行こうではないか!」
ヒルベルト王とアルセリア王女の笑い声が室内に響き渡るのだった。
[ 自由の翼side ]
とある屋敷の1室で2人の男が顔を合わせ、滑らかで上質なソファーに腰をおろしている。
片方は細身の男。深緑色の豪華な服装だが着こなしや態度から、嫌味のない清潔な印象を持たせる。
片方は、肌を隠すことをしない無骨なレザーアーマーを着ているが、それ以上に目を引くのが隅々まで鍛えられた分厚い筋肉だ。
そんな対象的な2人が話している内容が…
「待たせたか?」
「あら、貴方の様な立場の人間が、待たせたなんて言葉にしちゃいけないわ♡でも、待ってる間もワクワクしていいスパイスになったわよ♡」
細身の男の素性は分からないが、筋肉の男は、ホーソン国首都ギルドマスターであるアラリコであった。
「冗談は好かん。で、彼の様子は?」
「いけずねぇー♡ 彼は元気よ。当初はずっとトレーニングみたいな事していて、どんどん逞しくなっちゃってー♡ 最近やっとビギナーズフォレストに行ったわよ。無事に帰って来たら、可愛らしい仲間を作ってきたのよ♡」
座っている体制でも、両手をクロスさせくねくねと見悶えるアラリコに、男はため息をつく。
毎回注意するのだが、治した試しがない。いつものやり取りだ。
拉致があかないため話を続ける事にした男は、とある1枚の皮紙を取り出しアラリコに見せてきた。
「そうか…こちらも国王側の動きに注意しているが、少し動かし過ぎたようだ。捕まってしまう者達も出てきた。仲間を捕まえた数名の中に冒険者がいるみたいだ、この中にいるか確認してくれ。まあ、捕まったのは末端に過ぎないので、偽の情報しか渡していないがな。」
「うーん…何でもやるタイプの子達ねぇ。注意しておくわぁ♡ ところで、活動が大々的になっているらしいじゃないの大丈夫なのぉ?」
皮紙を受け取り、知っている冒険者達の名前をアラリコは記憶していく。
2人は自由の翼と呼ばれる革命軍である。
相手の情報は把握しながらも、自らの情報を悟らせるわけにはいかないのだ。
自由の翼の生まれは、力を持って国土を広げてきた、昔のホーソン国の犠牲となった民衆や旧貴族等が作った組織であった。
元々のホーソン民の血を引くものが、今では大きく地位を付けており、侵略した民の子孫の大半は、平民以上になる事を認められず差別されている。
そんな体制を打破すべく活動していたのだ。
現在は、とある人物が主導となり近年徐々に力を付けてきた。
「仕方ないだろう。勇者達も急激に成長しているらしく、こちらも時間を迫られているのだ。」
「そう……彼も巻き込むつもりなのかしら?」
状況はあまり良くないことを再認識させられる。
王族側は、英雄譚になっている勇者という民衆受けも良く、尚且つ特大の暴力が手中にあるのだ。
そんな危険な相手との衝突は避けたい。出来る事ならば、こちら側に引き込みたい。
王城に居る勇者達は隔離されていた為、残る手段として、目をつけた人物が直哉であった。
「…彼は取り込めそうか?」
「印象的には難しいかもねぇ♡彼、面倒な事は避けて、騒ぎが起きないように立ち回ってるのよぉ♡この間なんか、武具屋でも値段知ってる癖に平気で言い値を払っちゃったんだからぁ…どの程度の腕か調べたかったから、手を回してたのに無駄になっちゃった♡」
「あまりやり過ぎるなよ。勇者達の説得には彼が必要になるかも知れないのだ。下手にこちらを毛嫌いされるのは避けたい。」
「あら…分かったわぁ♡ けど、貴方の所の一人が彼に接触したかもよぉ?」
2人の間に流れる雰囲気が変わった。
アラリコの発言で、細身の男の方が動きを止めたのである。一瞬だが僅かに目を見開き、また能面のような表情に戻る。
「……何?そんな事は指示していない。いったい誰だ?」
「彼女よぉ♡」
「…あの馬鹿か。すまんな、早速確認しなければならないので、今日は帰って貰えるか。」
そういうなり、アラリコの返事も待たず、立ち上がり部屋を出ていった。
残されたアラリコも、息を吐きそれまでの笑みを消し、上を向き目を閉じてソファーにもたれ掛かった。
[ ???side ]
ビギナーズフォレストの中腹にある魔除けの木の下で、女は時間が止まったかのように立ち竦んでいた。
彼女は、わずか十数分前に直哉達に接触した人物である。
直哉達が立ち去ってから、拒絶された事を自身で整理するのにかなりの時間を要していたのだ。
「やっばい…失敗した失敗した失敗した失敗したぁ!」
結局整理出来ず叫んでしまった様だが…
「どうしよう、こんなのバレたら絶対リーダーに怒られるよね?」
座り込みひとしきり叫んだ後は、今度は不安で頭を抱えていた。
「大体なんで権力者って分かって素直に従ってくれないのよ!」
不安感が一定限度を越えて、今度は憤慨している。
「観察してる時は、普通の人だと思ってたのに…凄く、凄く怖かったよォ。」
…今度は泣き喚き始めた。
情緒不安定な彼女は、その日の夜まで魔除けの木を相手に、感情をぶつけ続けるのであった。
[ テオトル神side ]
上下左右が全て白の空間で、テオトル神はホーソン王国に転移した高校生達を観察していた。
「ふむ、どうやら彼等を利用しようとしている者がいるようだな…」
与えた加護を通して、一部始終を見ていたのだ。
彼等が強くなり、かの世界で生きる術を身に付ける事は喜ばしかったが、自我のない操り人形になる事だけはテオトル神の目的にそぐわなかった。
「こうなれば直接彼等に神託を…いや、まだ時期が早いか。勇者達が騒ぎ出すと、かの世界の神に不信を持たれるかもしれぬ。」
神託を下せば、それを王達に伝える可能性が大きい。それはかの世界の神に伝わる事になる。
まだ時期が早いと考える。
「仕方ない。加護に干渉し洗脳に対して抵抗力をあげるようにしておこう。それならば、不審なく事が済むだろう。」
力の一端を使用し、彼らの加護に精神干渉に対する耐性を加えるが、世界が違う為完全なものでは無かった。
それでも高位の精神魔法でもないと、彼等を操る事は出来ないだろう。
「しかし、まさか…あの家族だけあの様な場所に転移してしまうとは、思いもよら無かった。どうかわが子らよ、絶望なく生きてくれ。」
転移した彼等を利用しようとする身勝手さを持ちながらも、慈愛を込めた祈りを捧げる矛盾した存在であった。
複数の思惑が絡み合う中、今後直哉はどう関わってしまうのだろうか…
二日ペースの投稿を心掛けたい…だけであります( *´艸`)




