2026/10/04 三木幹男は鳩を観察する。
しとしととざぁざぁの間、そんな雨が振っていた。
手術後の俺の鼻には、まだ何かしらの何かが入っており、中々もってして気持ちのよい通気性を維持しかねているようだった。
その何かを、俺は大して気にしてないのに、俺の鼻はすこぶる気に食わないらしい。
多分排出しようと頑張っている。異物だしな。でも、無理だよ。固定されてるもん。
夜は細切れの睡眠を繰り返して、よく寝たのか寝てないのかわからない状況からの朝である。
鼻なんて普段匂いを感じる位にしか意識をしないものだが、取り上げられるとその有り難みをひしひしと感じるものだ。
俺の意識の外にいてもサボらずに、頑張って呼吸してくれてたんだな。
本当、健康なんて当たり前のように享受してるけど、失ってはじめて気づくものだよなー……しみじみ。
うむ、やはり、じぃといているよりも、外でちゃりんこ走らす程度に動いたほうが呼吸がしやすいと思い立ち、散歩コースの黄金ルートである御所へ飛び出した。
京都御所がお散歩ルートの定番其の一に設定されていることは、俺の人生のとてもいい部分だと思っている。
やはり、京都御所にそっと入ると、外の世界からは優しく切り離されて、時間が贅沢にゆったりと流れ始めた。
カッパを羽織った俺は、砂利道にいつもより多く自転車の車輪をとられるから、あまり漕がずに、押して歩いた。
雨音はポツポツといいリズムを刻み、鳥の囀りが混じっている。
松の中に足を踏み入れると、ポツポツのリズムが小さくなり、木々が雨を遮っているのが分かる。
ふぅとカッパのフードを脱ぐと、雨の音は、サーーーと清らかに流れるような音に変わり、鳥の囀りは輪郭を得て、鳥の話し声のように聞こえてきた。
雨の御所もいいものだ。
トボトボと行き先もなく歩いていると、鳩に出会った。
鳩は沢山いるのだが、とりわけびしょびしょの鳩だった。
他の鳩はそこまでびしょびしょじゃないのに、こいつだけは明らかにびしょびしょで、滑ってお堀に落ちたのかと思ったのだが、鳩に聞いても真相は分からない。
俺は他の鳩らと共に大きな木の下で、そいつを眺めていた。
………。
…六角堂の鳩もそうなんだが、その絶壁にへばりついて、あるかどうかも分からない小さい縁だか柱だかの出っ張りにやっとこ足を引っ掛けて雨から逃れようとするのは何なのだろうか。
お前は、崖に住むヤギか?
大して雨も凌げてないから、だからお前だけそんなびしょびしょになっちまうんだよ。
俺と他の鳩を見習って欲しい。
大きな木の下でちゃんと雨を凌いでる。
何か修行とかしているわけでないのなら、俺らと一緒にこの木の下に来た方が絶対にいい。
とは言え、俺の提案を的確に鳩に伝える術もなく、無駄に近寄って怖がらせて、意思疎通のすれ違いを起こしても可哀想なので、俺は静かに見守っていた。
俺の周りにいる鳩達は、既に俺が居ることについての警戒心はゼロになってしまったようで、俺の足元にまで、ちょいちょい歩き出していた。
平和って言葉は本当にお前らの為にあるような言葉だよ。
俺ら人間も、何に対して無警戒でもみんな善良で仲良く出来たらいいのにな。
足元の鳩の一匹は、ちょいと壁の方を向いたと思ったら、パタパタの羽をはためかせ絶壁の方へ飛んでいった。
ほぼ無いような出っ張りに足をかけ、やはり絶壁に身を寄せて、全く雨を凌げてない雨宿りをし始めた。
お前………
多分こいつも、暫くしたら、びしょびしょの鳩になるのだ。
鳩にも鳩なりの考えがあるとは思うのだが、俺には分からない。
まつ毛から水滴が落ちてきた。
大きな木の隙間からは多少なりとも雨は降り注ぎ、俺はカッパのフードを脱いでいた。
俺もびしょびしょだ。
あまり人のこと…鳩のことも言えなくなって、やはりそのまま絶壁の鳩たちを眺めるだけだった。




