サービスエリアの女戦士①
夜のサービスエリアは、いつ立ち寄っても心が躍る。明け方に出発しても間に合うのに、わざわざ深夜に高速道路を走っている理由が、すべてここに詰まっている。
広大な駐車場はガラガラで、どこでも停め放題。昼間の混み合う時間なら出来るだけトイレに近い場所を探すが、現在時刻は23時。自家用車の数はまばらで、あとは休憩中の夜行バスが並んで停車しているくらいだ。
木津竜馬は車のエンジンを切り、シートベルトを外して背もたれに体重を預けた。
自宅を出てからサービスエリア到着までに要した時間は約1時間。まだ運転の疲れは出ていないが、つい立ち寄らずにはいられなかった。
フードコートは閉まっていたが、唐揚げなどフライ系の自販機は稼働中だ。揚げたてのほうが美味いに決まっているのに、なぜか解凍直後のようなぱさぱさの口当たりと、湿った衣の唐揚げが絶品に感じてしまう。これも深夜のサービスエリアというロケーションのおかげだろうか。
自販機で揚げ物とコーヒーを買い、外のベンチに座る。遠くに見える橋を眺めながら、竜馬はコーヒーを喉に流し込んだ。
「はぁ…」
思わず漏れてしまった溜息は白いもやとなり、12月の夜空へ消えていく。別に年が終わることへの寂しさや、深夜に一人でドライブしている事が悲しくて出た溜息じゃない。安っぽい唐揚げと150円の缶コーヒーがあまりに美味しかったためだ。
「今年もなんもなかったなあ。ほんと、山もなく谷もなくつまらん1年だった」
社会人として世に出て3年目。学生気分はすっかり抜けきったが、だからといって仕事に精を出しているわけでもない。漫然と日々を過ごしていると、1年が365日もあるということが信じられないほどのスピードで時間が消えていく。
たまにこうして趣味のドライブで息抜きをするくらいしか、竜馬にとって楽しみと言えるものはなかった。
静まり返った夜にふさわしくない爆音が聞こえてきたのは、コーヒーを飲み終え、喫煙所に移動してタバコに火をつけようとした瞬間だった。
「へ…?」
竜馬の車が燃えている。いや、それだけではない。周りの夜行バスも運送会社のトラックも、すべてが赤々と炎上していた。
車は親から譲り受けた中古で、どうせ乗れてもあと2年くらいのおんぼろだ。燃えてしまったことはこの際構わないが、問題は出火原因である。竜馬の車から出た炎が広がった、というわけではなさそうだ。誰かが意図的にサービスエリアの駐車場に放火したような有様。しかしミサイルでも打ち込まない限り、あの一瞬でここまで広範囲を燃やし尽くせるだろうか。
人間は理解の範疇を超えた危機に直面すると、逃げることすらできずに固まってしまう。手の中で火のついたタバコがじりじりと短くなっていき、熱が指先にまで伝わってきたが、竜馬は逃げ出そうとしなかった。というかできなかった。
ぶぶぶ、というハエの羽音のような不快な音が辺り一面に低く響く。整備不良のヘリコプターでも近づいているのか。そう思って空を見上げた竜馬の目に飛び込んできたのは、それはもう巨大なヘビらしき生き物だった。
「ヘビ、いや、ドラゴン…?」
全長は10階建てのビルより少し高いくらいだが、竜馬の知る限りヘビに羽は生えていない。しかし目の前に現れたそれの背中には、立派な羽が生えていた。あの重低音は、こいつの唸り声か、それとも羽音か。
「ああ、俺疲れてんのかな。やっぱ休みは家でゆっくりしとくべきだったか」
年末の繁忙期で激務の平日に加え、休日出勤をして6連勤のあとだ。大人しく寝て頭を休めないから、ドラゴンの幻覚なんて見てしまうのだ。子供のころはあんなに憧れた架空の生物との対面が、まさかストレスによって叶えられてしまうなんて皮肉である。
「よし、もう帰るかあ」
ようやく動き出した体で、車を止めた場所まで戻ろうとした。どうせ燃えているのも幻覚に違いない。それにしては皮膚の焼けるような温度が妙にリアルに感じるが。
視線を上げると、ドラゴンと目があった。一瞬お互い固まったのち、飲み過ぎて嘔吐する人間のようにドラゴンが大口を開けて吐いてきた。ゲロではない。煌煌と燃える炎を、だ。




