第ニ話 密かに用意してた酒は処分することにしよう
おっちゃん、と童達から慕われるのは滋鳶と呼ばれる、とある小さな寺の僧侶だ。
剃髪もせず、好きなもの食べ酒も普通に飲む彼は破戒僧と呼ばれる存在でもある。故に、規律に厳しい僧侶や信仰心が厚い民からは嫌厭されているが、彼が引き取って世話を焼いている童達からの人気は高い。
そんな滋鳶は先日、裏山で猪を捕獲しようとした際に腰を痛めてしまったようで今は療養中の身だ。
童達に甲斐甲斐しく世話を焼かれているという。
「多分、精神年齢が同じくらいだからああやって慕われるんだろ」
とある茶屋で上総はそう吐き捨てると、お茶を一気に飲み干した。苦味が強かったのか眉間に皺が寄っている。
「それ、滋鳶様が聞いたらぶっ飛ばされますよ」
また乱闘騒ぎは止めて下さいね、と隣に座り息を吐く青年に上総は不満そうに表情を歪めた。
「アレは元の原因は邦の所為だろうが。俺を出しにして逃げやがって。童達に囲まれ玩具扱いされて、本当に大変だったんだぞ」
童達は大人と違い、加減というものを知らない。
普段構ってもらえない反動からか、上総の身体をこれでもかと引っ張り叩いたり、本当に好き放題された。日頃から鍛えているお陰で、痛みはそこまでなかったが、童の力は侮れないなと学んだ。
「あれも、滋鳶様なりの気遣いというか……。普段から寺に寄り付かない貴方と、童達の交流の場を作りたかったんじゃないですか」
「いんや、アレは俺への嫌がらせだね。前に盆栽と外壁を壊したの、まだ根に持っているとみた」
それは普通に考えて上総が全面的に悪いのでは?と、喉まで出かかったのを咳払いで誤魔化し、青年は手にしていた湯呑みを盆に戻した。
「そ、それより滋鳶様への贈る品は決めたんです?」
「やっぱり、お前も一枚噛んでたか」
「あの子達から頼まれたら嫌とは言えませんよ。上総、貴方もそうではありませんか?」
「奉行所勤めの優しいお前と一緒にすんなよ。俺は故郷を捨て、都に流れてきた半端者だぞ。優しさなんぞ、そこらの道端に捨ててきた」
「の割には、引き受けてるじゃないですか」
「……邦」
バツが悪そうに自分を睨みつける上総に邦と呼ばれた青年ーー邦樹は糸目の目を更に細めて、にっこりと笑った。
「上総の人となりは、私がよーく知ってます。何だかんだで長い付き合いですし」
子は国の宝だ。大事にしなければならない。
そう言って身寄りのない童達の世話を引き受け、日々慌ただしく過ごしている滋鳶の事を何だかんだで上総は気に入っている。でなければ、興味がないと直ぐに姿を消していただろう。
「なら、邦も色々手伝えよ。俺は贈り物なんざ、した事もされた事もねぇし」
邦樹は驚いた。あれだけ対人関係能力が高いのに、そういう経験はないのかと。上総は仕事上、必要最低限の付き合いが多いと聞いていたから仕方ないのかもしれない。
「手伝うのは構いませんよ。ただ、滋鳶様の好き嫌いは私は知らないので。上総頼みとなりますが」
「好き嫌いねぇ……」
足を組み直し上総は首を横に傾けた。
「アイツが好きなのは酒しかねぇだろ」
「童達が用意するには、ちょっと……。他にありませんか?」
「じゃあ、般若湯」
「言い方を変えただけじゃないですか!!」
声を荒げる邦樹に上総はくつくつと喉を鳴らした。
「悪い悪い。そうだなぁ……あ、アイツ干し柿も好物だったわ。よく作っては俺にくれてたが、最近はパッタリ無くなってなぁ」
「干し柿、ですか。確か、寺の敷地内に柿の木がありましたね。ならばそれで、干し柿を作り出来たら滋鳶様に贈れば……」
「無理だな。寺の柿は最近実らねぇんだ。四年前の当たり年だったのを最後に、実は片手で足りるぐらいしか付かねぇの」
滋鳶が干し柿作りを止めてしまった背景は恐らくそれだろう。数個だけ干し柿を作ったところで、全てが上手く完成するとは限らない。どうせ作るならば、不備が出ても補える量を作って楽しみたいに決まっている。
ならば、どうするか。
「わかりました。柿の調達は私に任せて下さい」
「は、マジで? 童達も食べたがるだろうから、かなりの量が必要になるぞ」
「承知の上です」
邦樹はそう言って居住まいを正すと、ピンッと指を立てた。
「沢山実った柿の木に、一つ心当たりがあるんです」




