第十七話 重力の檻
更新が遅くなりすみません。
頭の中では展開は考えているのですがアウトプットするのは難しいですね。
スレイヴァーは海上で静止したまま動かない。紫色のセンサーだけが八機を静かに見渡していた。攻撃するでもなく、逃げるでもない。ただ人類の戦術を分析するように、その場で観察を続けている。レオンはその異様な光景を見据えたまま通信を開いた。
「全機、作戦を変更する。」
八機の視線が一斉にレオンへ向く。
「レイヴン隊は追い込め。」
アッシュが短く返答する。
「了解。」
「グレイヴァ隊は重力フィールド展開準備。」
「了解!」
ガレス、ヴィクター、ローガンが同時に応えた。レオンはスレイヴァーを見つめる。
「奴は速い。だが逃げる方向を限定できれば話は変わる。」
アッシュが頷く。
「追い込みなら任せろ。」
レイヴン四機が同時に加速した。四羽の黒いワタリガラスが海上を滑るように飛ぶ。正面から追うのではない。左右上下へ散開しながら徐々に包囲を狭めていく。圧倒的な機動力で進路を制限し、スレイヴァーを誘導する。
対するグレイヴァ四機は距離を取りながら静かに配置を変え始めた。レオンが上空へ上昇する。ガレスは左前方。ヴィクターは右前方。そしてローガンが後方下へ回り込む。四機は互いの位置をミリ単位で調整しながら立体陣形を構築していく。
「配置完了まで十秒。」
ヴィクターが報告する。
「重力制御、同期率九十八パーセント。」
ローガンが続ける。
「いつでも展開できる。」
レオンは静かに息を吐いた。
「四面体陣形を維持しろ。」
青白い光が四機の反重力ユニットから溢れ始める。まだ発動しない。発動すればスレイヴァーに察知される可能性がある。今は待つ。レイヴン隊が獲物を誘導する、その瞬間だけを。
一方、スレイヴァーは依然として動かなかった。紫色のセンサーが四羽のレイヴンを順番に追い、続いて四機のグレイヴァへ向けられる。その沈黙は不気味だった。まるでこちらの狙いを理解した上で、それでもなお観察を続けているかのようだった。
「来るぞ。」
アッシュが低く呟く。次の瞬間、スレイヴァーの機首がゆっくりと持ち上がった。紫色の推進光が一際強く輝き始める。
「全機、予定通りだ。」
レオンの声が響く。
「死神を――檻へ追い込む。」
レイヴン四機が一斉に加速した。四羽の黒いワタリガラスが嵐の海を切り裂くように飛び、互いの間隔を保ちながらスレイヴァーを包囲していく。誰一人として撃墜を狙わない。狙うのは進路だけだった。アッシュが真正面から圧力を掛け、リアムが上空へ回り込む。セレナは遠距離から重力弾を放ち、カイルは海面すれすれを高速で滑空しながら逃げ道を塞ぐ。四機の動きは一つの生き物のように噛み合っていた。
「リアム、上を抑えろ。」
アッシュが指示を飛ばす。
「了解。」
「セレナ、右へ撃て。」
「任せて。」
青白い重力弾がスレイヴァーの進行方向を横切る。命中する軌道ではない。しかしスレイヴァーは最も効率の良い回避軌道を選び、わずかに左へ機首を振る。
「そのままだ。」
アッシュが小さく呟く。
「読んだ通りだ。」
カイルが海面から急上昇する。
「逃がさない!」
スレイヴァーは再び進路を変える。だが、その回避先にもリアムが待っていた。
「こっちも塞いだ!」
四機のレイヴンは攻撃を繰り返しながら、少しずつスレイヴァーを決められた空域へ押し込んでいく。その動きは追跡ではない。誘導だった。
一方、数キロ離れた空域ではグレイヴァ四機が静かに所定位置へ到達していた。レオンが上空、ガレスが左前方、ヴィクターが右前方、ローガンが後方下方。四機は立体的に配置され、正四面体に近い陣形を完成させる。
「各機、位置固定。」
レオンが指示する。
「重力シールド同期開始。」
四機のシールドユニットから青白い粒子が放射される。光は互いに共鳴し始めるが、まだフィールドは形成されない。
「同期率八十五パーセント。」
ヴィクターが報告する。
「九十二パーセント。」
ローガンが続ける。
「出力安定。」
ガレスがシールドを見つめる。
「いつでもいける。」
レオンはアッシュへ通信を開く。
「誘導状況は。」
アッシュはスレイヴァーから視線を外さない。
「あと一回。」
その瞬間、セレナの重力弾がスレイヴァーの目前を横切る。スレイヴァーは迷うことなく右へ回避した。その先にはカイルがいる。カイルは射撃を行わず、さらに進路を限定するよう機体を滑らせる。スレイヴァーは最後に残された最適な軌道を選択した。
アッシュは静かに笑う。
「入った。」
レイヴン四機が一斉に左右へ散開する。その瞬間、スレイヴァーの目前には四機のグレイヴァが描く立体陣形だけが残されていた。レオンの目が鋭く光る。
「全機。」
一拍置いて命令を下す。
「重力シールド、最大出力。」
四機のグレイヴァから青白い重力フィールドが同時に放たれた。四つの頂点を結ぶ六本の重力線が空中へ走り、巨大な四面体がゆっくりと姿を現し始める。スレイヴァーはその中心へ、自ら飛び込んでいた。
青白い重力線が四方へ伸びる。レオン、ガレス、ヴィクター、ローガン。四機のグレイヴァから放たれた重力フィールドが互いに接続され、巨大な四面体を形成していく。六本の光が空中を走り、四枚の半透明な重力障壁がゆっくりと閉じ始めた。スレイヴァーはその中心にいた。紫色の残光を引きながら離脱を試みる。しかし進路の先には青白い重力障壁が立ちはだかる。
「閉じ込めた!」
ガレスが叫ぶ。
スレイヴァーは反転する。だが、その先にも障壁がある。上空へ急上昇する。しかしレオンの重力フィールドが逃げ道を塞ぐ。海面へ降下する。ローガンの重力障壁が待ち受けていた。四方八方、すべての最適軌道が封鎖されている。
「成功だ!」
ヴィクターが思わず声を上げる。
「これで終わりだ!」
レオンは油断しなかった。スレイヴァーの装甲は重力により軋み装甲は剥がれていく、だが依然として攻撃を仕掛けてこない。ただ静かに停止し、四方を見渡している。その姿は追い詰められた敵ではなかった。
「様子がおかしい……」
レオンが低く呟く。
アッシュもスレイヴァーを見つめ続ける。
「違う。」
その一言に全員が息を呑む。
「まだ終わってない。」
紫色のセンサーがゆっくりと四機のグレイヴァを順番に見据える。そして今度は外側を旋回するレイヴン四機へ視線を移した。まるで完成した重力の檻を確認するように、一機ずつ観察していく。
「分析している……」
リアムが呟く。
スレイヴァーは初めてゆっくりと左腕を持ち上げた。握られた紫色のレーザーブレードが静かに消える。代わりに機体各部の紫色の発光部が一斉に輝きを増していく。
「高エネルギー反応!」
ローガンが叫ぶ。
「出力が上がってる!」
ヴィクターの計器が赤く染まる。
「重力値、急上昇!」
四面体の重力空間そのものが震え始める。海面が波打ち、巨大な渦が四面体の真下に生まれる。レオンは直感した。
「まずい……!」
アッシュは静かにスレイヴァーを見据えていた。
「そう来るか。」
四面体の中心で、スレイヴァーは微動だにしない。紫色の光だけが静かに、そして圧倒的な密度で収束していく。その光は今までのどの攻撃とも違っていた。
死神はようやく、人類を敵として認めた。
次の瞬間、四面体全体を揺るがすほどの重力反応が発生した。




