第一話 目覚め
小説を書くのは初めてです。
多くのかたに見て頂けると幸いです。
警報が鳴っていた。
耳をつんざくような音が、果てのない闇の中で何度も反響している。赤い警告灯。軋む金属音。怒号。悲鳴。
そして――黒い宇宙。
カイは夢を見ていた。いや、それは夢というにはあまりにも鮮明だった。目の前の空間が歪んでいる。巨大な渦。光すら飲み込む漆黒の穴。宇宙そのものが崩壊していくような光景だった。
『全機離脱しろ!!』
誰かが叫ぶ。通信回線越しの声。
聞き覚えがある。だが思い出せない。
『ブラックホール反応増大!!』
『収束しません!!』
『カイ少佐!!』
その声に振り返る。視界の先には一機の機動兵器。深い緑色の装甲。無数の傷跡。肩に刻まれた識別番号。グレイヴァType-K。自分の機体だった。操縦桿を握る。機体が震える。警報は止まらない。いや、むしろ激しさを増していた。光が膨張する。視界が白に染まる。全てが消える。
「――っ!」
カイは飛び起きた。荒い呼吸。心臓が激しく脈打っている。額から汗が流れ落ちた。見上げた先には白い天井。無機質な照明。薬品の匂い。病室だった。
「……どこだ、ここは」
掠れた声が漏れる。身体を起こした瞬間だった。ドォォォォン!!爆発音。建物全体が揺れる。壁が震え、天井の照明が揺れた。カイは反射的に周囲を見回す。その時、病室のドアが勢いよく開いた。医師。看護師。数人の医療スタッフ。飛び込んできた彼らは、ベッドに腰掛けるカイの姿を見た瞬間に凍り付いた。誰も動かない。誰も声を出さない。やがて看護師が震える声を漏らした。
「……え?」
医師は端末を確認する。
一度。
二度。
三度。
見間違いではないことを確認するように。
「あり得ない……」
「何がだ?」
カイは眉をひそめた。医師はゆっくりと顔を上げる。まるで亡霊を見るような目だった。
「あなたは……カイ・マクレガー少佐ですか……?」
「そうだが」
その返答を聞いた瞬間。部屋の空気が変わった。医師達は顔を見合わせる。誰も言葉を発しない。やがて、一人の医師が震える声で告げた。
「あなたは……十五年間眠っていたのです」
カイの思考が停止した。
「……は?」
理解できない。十五年?何を言っている?昨日まで戦っていたはずだ。仲間達と共に、あの戦場で。しかし、現実は容赦なく突きつけられる。
《緊急警報》
病室のスピーカーから機械音声が響いた。
《ヴォイド侵攻》
《全戦闘部隊は直ちに出撃準備》
ヴォイド。その単語を聞いた瞬間、カイの身体が反応した。考えるより先に、本能が理解する。敵だ。戦場だ。守らなければならない。カイは窓際へ歩いた。外を見る。遠くの空。黒い機影。見覚えのある異形。ヴォイド。敵だった。
そして。十五年という時間よりも先に。カイは別のことを口にしていた。
「俺の機体はどこだ」
医師達が目を見開く。
「少佐!?」
「グレイヴァType-Kだ」
静かな声だった。だが有無を言わせぬ響きがあった。
「案内しろ」
グレイヴァ部隊の隊長レオンは言葉を失った。通信モニターに映る緑色の機体。その姿を見間違えるはずがない。忘れたことなど一度もなかった。グレイヴァType-K。そして。その搭乗者。
「……マクレガー少佐」
思わず漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。十五年前。誰よりも前を飛び、誰よりも多くの仲間を救い。誰よりも多くの敵を撃墜した男。自分が初めて戦場で見た英雄。その背中が。今。目の前にあった。
一方でノアは状況を理解できていなかった。
「ちょっと待て」
「何だ今の」
「三機いたよな?」
返事をしたのはイザベラだった。だがその声にも動揺が混じっている。
「いました」
「確かに三機」
「ですが……」
そこで言葉が途切れる。戦闘記録を解析する。フレーム単位で再生する。それでも、理解が追いつかない。加速。接近。斬撃。離脱。全てが一瞬だった。
「見えませんでした」
イザベラは認めるしかなかった。
「戦闘記録が追いついていません」
ノアが乾いた笑いを漏らす。
「機械の方が先に諦めるとか聞いたことないぞ」
その時。静かな通信が全周波数に流れた。
『こちらカイ・マクレガー』
不思議な声だった。威圧感はない。怒気もない。だが自然と耳を傾けてしまう。そんな声だった。
『状況を説明してくれ』
レオンは一瞬だけ昔に戻った気がした。新人だった頃、敵に囲まれ。恐怖で手が震えていた自分。その時も。この声が飛んできた。
――落ち着け。
ただそれだけで、不思議と戦えた。レオンは息を整える。
「了解です、少佐」
その返答にカイは少しだけ首を傾げた。
少佐。
そう呼ばれることに違和感がある。だが理由が分からない。自分の中では昨日の出来事のはずなのだ。しかし世界は違った。十五年、その時間が。あまりにも重かった。遠くで爆発が起こる。市街地方面。モニターに映る敵影。まだ終わっていない。レオンが戦術画面を開く。
「敵残存九機」
「市街地へ侵攻中です」
「迎撃に向かいます」
カイは短く答えた。
「了解」
その瞬間だった。頭の奥に鋭い痛みが走る。ズキリ、と。視界が揺れる。黒い宇宙。崩壊した艦隊。砕け散る機体。誰かの叫び。血のように赤い警報灯。
そして。どこまでも広がる絶望。
『離脱しろ!』
『間に合わない!』
『ブラックホール反応が――』
ノイズ。途切れる声。そして。白い光。
「っ……!」
カイは思わず頭を押さえた。
「少佐?」
レオンの声。気付けば幻は消えていた。だが。心臓だけが嫌な鼓動を刻んでいる。何だ今の。記憶か。夢か。それとも。未来なのか。分からない。ただ一つだけ確かなことがあった。あの光景は。決して見てはいけないものだった。カイはゆっくりと前を向く。遠くの空。黒い機影が市街地へ向かっていた。
「まずはあいつらだ」
緑色のグレイヴァが加速する。その後を。レオン。ノア。イザベラ。三機のグレイヴァが追う。十五年の空白を抱えた英雄。まだ誰も知らない。彼が見続けた夢が。人類の未来そのものを映していることを。
見ていただける方がいたら続きを書いていきます。




