50 夕焼けの空の下で
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最終回です。
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オパールが消えた。
手を伸ばしたが、届かなかった。
動物たちが、穴を掘って白蛇たちの骸を埋めている。
呆然とその場に立ち尽くしていたジャスパーは、翌日、王都から森に戻ってくる途中のスヴァルトル辺境伯に発見されて保護された。
王城から王妹ユタが飛び出していったのも、巨大な紫龍が出現したことも、スヴァルトル辺境伯は知っている。見ていた。だが、そのこととオパールが消えたことがどのように結びつくかをジャスパーの口から知ったスヴァルトル辺境伯は、ただ息子を抱きしめた。
王城はバリシア王側の魔術師たちと共闘した貴族たちの軍のものとなり、王妹ユタの側にいた魔術師たちはバリシア王側の魔術師たちに捕らえられてバリシアに次々と送還されたそうだ。
「ゴシェナイト氏は、死亡が確認された」
「そうですか」
表情のないまま答えたジャスパーに、スヴァルトル辺境伯は会わせたい者がいると言って連れ出した。
テントの中にいたのは、オンファスだった。オンファスは全てを打ち明けた上で、オパールの無事を尋ねた。
「オパールは……」
ジャスパーはそれ以上言えず、肩を震わせた。
「死んだのですか?」
オンファスの声もまた、震えていた。
「あなたの所ならば安全だろうと送り出したのに、どうして!」
「オパールも王城に向かおうとしていた。途中で紫龍になり損ねたあの女がやって来て、世界を救うために、人に支配欲を与えないために、そう言って、自分を代償に紫龍を浄化した。僕は、ただ隣にいて、一緒に笑っていたかっただけなのに、オパールは僕の生きる世界が幸せな物であってほしいと、そう言って……」
「オパールらしいですね」
オンファスはテントの頂点を見上げた。涙をこぼしたくなかったのだ。
「オパールは自信がない子でしたが、自分にできる小さなことを一つずつ拾い上げてこなしていく中で、自分に恥じない行動をとろう、そうすることで自信を持てるようになるはずだ、そう考えている節がありました。自分が魔法薬の材料を持っていけば、丁寧に、しかしできるだけ多くの薬を作ろうとしていました」
「あなたが味方なのか敵なのか、僕にはよくわかりません。オパールをさらったこともあるのに、オパールを守って送り出した。一体、何なのですか?」
「心の父親、と言えばいいでしょうか」
上を向いたままのオンファスが、その顔を覆った。
「自分が『竜の涙』という貴重素材に心惑わされなければと後悔するばかりです」
「惑わされる?」
「ええ、『竜の涙』は、人の心を惹きつけてやまない何かを持っているのです。まるで食虫植物のように、普通の人間はその美しさや力に引き寄せられ、あらぬことを願うようになる。きっと、人の心の奥底にある欲を刺激するのでしょう」
言われてみれば、一度『竜の涙』を手に入れた医師も薬師も患者も、もう一度見たい、手に入れたいと願っていた。創造主でもある虹蛇の骸を苗床にして生まれた『竜の涙』は、もはや人の手に余る代物なのかもしれない、とジャスパーは思った。
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スヴァルトル辺境伯領には、バリシアからの攻撃はなかった。転移で直接王城に乗り込んでいたためだ。
オニキスは王都に戻ろうとしたが、クリスタルが産気づいたためにそのまま残ることにした。暗殺を防ぐ目的もあった。動物たち、特に猛禽たちが城の周囲を飛びまわり、まるで侵入者を見つけよう、見つけたら威嚇しよう、そんなふうに思っているように見えてならなかった。
無事に子供が生まれたことをスヴァルトル辺境伯に伝えた。その返事で、オニキスとクリスタルはオパールに起きたことを知った。
クリスタルは激しく動揺した。次いでふさぎ込み、食事も喉を通らなくなり、子どもを育てられなくなった。オニキスが寄り添ったが、父と妹の二人を失った衝撃は大きかった。
子どもを辺境伯夫人に預かってもらい、ベッドの上でぼうっとしていることが増えたクリスタルを、オニキスはしかし許さなかった。
「悲しい気持ちを否定はしない。だが、君にはやるべきことがある。オパールは命を懸けて、自分が果たすべきだと考えたことを成し遂げた。クリスタル。今もしオパールと再会できたとして、君はオパールに今の姿を、状態を、見せられるのか?」
クリスタルの悲しみに寄り添いながらも、オニキスは厳しい言葉を使った。クリスタルは、オニキスに言った。
一日、時間が欲しい、と。
その一日で自分にはまだ無理だと思ったなら、ここを出ていく。こんな母親など、子どもにとっても辺境伯家にとっても不都合だろうから、と。
「馬鹿なことを言うな!」
オニキスが初めてクリスタルを怒鳴りつけた。
「俺も一緒に歩く、一人で抱え込むな、そう言っているんだ。どうしてそれが分からないんだ!」
クリスタルの手に、オニキスの武骨な手が触れた。オニキスが震えていることに、クリスタルは初めて気が付いた。オニキスは何に恐れを抱いているのだろう、そう考えた時、自分を失うことが怖いと感じている可能性に思い当たり、はっとオニキスを見上げた。
「私は、一人じゃないってこと?」
「そうだ。俺の生涯唯一の妻であり、我が子の母だ。家族を守れない領主に、領地領民を守れるわけがないだろう? クリスタルが出ていくというのなら、次期辺境伯の座はジャスパーに譲らなければならなくなる。だが、今のジャスパーが使い物になると思うか?」
クリスタルは一度だけ、帰還したジャスパーの挨拶を受けた。自分以上に落ち込んでしまったジャスパーは、今、オパールの部屋に閉じこもって出てこないらしい。クリスタルはオニキスに支えてもらえるが、ジャスパーと同じレベルでオパールを思えるのは自分だけ。ジャスパーに声を届けられるのは、きっと自分だけ。そう気づいた時、クリスタルはベッドから起き上がった。
「ジャスパー様とお話ししないと」
オニキスはうなずいた。
「頼む。弟を助けてくれ」
・・・・・・・・・・
ジャスパーはただひたすら、オパールの残したものに包まれ、自我亡失の状態でオパールの椅子に座っていた。
「ジャスパー様」
楽な服に着替えたクリスタルが、静かにオパールの部屋に入って来た。
「姉、上……」
「母の日記が読みたくなったの。この部屋から持ち出さない方がいいと思うから、私もここにいていいかしら?」
「ええ、どうぞ」
クリスタルは母マリアの日記を本棚から取り出した。パラパラとページをめくると、以前は白紙だった部分に文字があることに気づいた。
「白紙じゃなくなっているわ」
つぶやいたが、ジャスパーの耳はそれを拾わなかったらしい。クリスタルはそのまま、日記を読み始めた。
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『今日、確信した。やはりオパールに、紫のイリスの力を移すことこそがこの世界を守ることになる。わが子に大きな負担をかけてしまうことが怖い。それに、オパールにこの力を移した後の自分の未来が見えなくなったのも怖い。私はもしかしたら、この力をオパールに移すためだけに生まれた存在だったのだろうか』
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『まずは半分だけ、力を移してみた。今のところ拒絶反応はなさそう。リューコがオパールを研究対象としないように、オパールの力は私が自分にしたのと同様に封印しておくことにする。私の未来はまだ見えない。もしかしたら、この子に全てを教える前に、私は死ぬのかもしれない。そうなったら、オパールは力を使うことも、いいえ、そもそも魔力をうまくコントロールする術さえ持たずに成長することになる。かといって、私が魔術の指南を書き残せば、私がバリシアから来た人間だと気付かれ、強制送還されてしまうかもしれない』
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『あの人は私にここまで執着するのは、やはり竜の涙と私の相性に気付いたからだろうか? どうやら私が死んでも、魂を閉じこめる怪しい道具と魔術を手に入れたらしい。そして、それを使って私が何度死んでもよみがえらせるための研究をひそかに始めているようだ。でも、考えようによっては使えるかもしれない』
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『思いついた。イリスの力は魂に宿るのだから、力を半分私の魂に残しておき、肉体に魂を移すために一度はその怪しい箱を開けるはず。その時に、オパールに残りの力を移そう。でも、箱を開けた時に近くにオパールがいなければならない。どうしようか』
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『スヴァルトルに、辺境伯夫人の治療スタッフとして出かけることになった。症状を聞く限り、竜の涙が必要になりそうだ。取りに行くのは問題ないが、嫌な感じがする』
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『今日、旅立つ。帰ってくることができたなら、笑い飛ばせばいい、でもやはり嫌な感じがぬぐえない。この日記帳は、途中から見えないように魔術をかけておくことにする。見えるようになるのは、オパールが紫のイリスの力に完全覚醒した時。以前はオパールがおばあちゃんになった姿が見えたけれど、最近出てこない。あの子たちがこの日記帳にたどり着いて、最後のページまで読む日が来たなら、どうか覚えていて。クリスタル、オパール、二人を愛しているわ。紫のイリスとして覚醒した時、オパールはつらい思いをすることもあるでしょう。クリスタルも、どうして自分にはそんな特別な力がないのかと思う日が来るかもしれない。周囲の人が、オパールを失って傷つくこともあるでしょう。もし、遠くい言ってしまったオパールに会いたくなったなら……』
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クリスタルはその後に書かれていた文章を読んで飛び上がった。
「ジャスパー様、ここを読んで!」
クリスタルに目の前に日記帳を突きつけられたジャスパーは、指さされた場所を読んだ。
『もし、遠くに行ってしまったオパールに会いたくなったなら、ジェットの森の奥にある、竜の涙が咲く虹蛇の墓に行きなさい。原始の乙女と龍の魂は、必ず虹蛇の元に戻るから』
ジャスパーの目に力が籠められた。
「ジャスパー様、行きましょう」
力強く言うクリスタルに、ジャスパーは頷いた。
・・・・・・・・・・
二日後、ジャスパーはオニキス、クリスタル、オニキスとクリスタルの子ども、そして何人かの護衛と共に、『竜の涙』が自生する場所へと向かった。白蛇たちは以前訪れた時の半数以下しかおらず、ジャスパーたちを見ても攻撃する素振りはなかった。
森の動物たちも同じだ。以前ならクマやオオカミに襲われるのが通常であったが、彼らも遠くからジャスパーたちが通り過ぎるのをじっと見つめるだけ。
いつもの半分程度の労力であの谷間にたどり着いたジャスパーたちは、『竜の涙』の株が増えて、いくつも咲いていることに気付いた。満遍なく十分な魔力がなければ『竜の涙』は咲かない。
急に『竜の涙』が増えたことに首をかしげながら進んだジャスパーは、最後の一株とされていた、ひときわ大きな株に近づいた。大きな蕾が揺れている。以前来た時には、オパールが魔力を流して花を開かせたことを思い出すと、泣きたくなってきた。
ジェットの森の中はその堅い木に遮られて風が通りにくいはずなのに、さっと優しい風が吹き抜けた。思わぬ風に、ジャスパーは風が過ぎた方に目を向けた。
「ジャスパー様、花が!」
クリスタルの声に、ジャスパーは『竜の涙』の方に目を向けた。あの時と同じように、オパールの魔力と同じような、白い光の中に遊色が浮かんでは消える不思議な花が、ゆっくりと開いていく。
『竜の瞳』は開き切ると、ふわりと香りをふりまいた。なぜかカモミールの香りがした。それと共に、カモミールを好んでいたオパールとの記憶が次々と掘り起こされていった。
「オパール、オパール、どうして君は僕を置いて行ってしまったんだ!」
大地に伏して慟哭するジャスパーを見かねて近づこうとしたクリスタルをとどめ、オニキスがその背に手を置いた。
「もしかしたら、紫龍も同じ気持ちだったのかもしれないな」
ヒックヒックとしゃくりあげるジャスパーに、オニキスは静かに言った。
「結ばれると信じていた相手が、他の者を救うために、それが自分を含めたすべての者を守ることになるからと、命を差し出して行ってしまったんだ」
「兄上……」
「お前は、守るべきひとくくりに入れられたことがつらいのかもしれん。だがな、姉妹として助け合って生きて来たクリスタルは、その場にいることさえできなかった。カンババやリオナだって、オパールを王城で守ってくれていた魔術師だって、みんなそれぞれにオパールとの思い出があり、大切な存在だと思ってきたのにさよならも言えなかった。ジャスパー、お前は見送ることができた。見送ることを許された人間なんだよ」
かつての紫龍と同じだと言われた時、紫龍の化身である王妹ユタがあれほどオパールに執着していたことが突然理解できた。特別な存在が他の者を癒すことを選んだ、その疎外感と裏切られたような気持ちを自分の中で消化できなかったのだと。
「僕は、紫龍のようにはならない!」
ジャスパーは叫ぶように言った。
「だからオパール、生まれ変わったら、今度こそ僕と一緒にいてよ!」
風が再び吹いてきた。『竜の涙』の香りを顔全体で受けたジャスパーは、その場に昏倒した。
・・・・・・・・・・
虹色の光に満ちた世界。明るいが、太陽光ではないことは確かだ。
「ジャスパー様」
大好きなその柔らかい声に、ジャスパーは振り返った。
「オパール!」
ジャスパーはオパールに走って抱き着いた。
「どうして僕を置いていったんだよ! 僕も連れて行ってほしかったのに!」
「だめよ、ジャスパー様には幸せに生きてほしかったんだから」
「僕の幸せは、オパールが隣にいて笑ってくれることだったんだよ」
「ええ、知っているわ」
オパールの顔なのに、なぜかその思考が随分と大人びているのに気付き、ジャスパーは怪訝な顔を「オパール?」と確認した。
「ジャスパー様。私はあなたの知るオパールであると同時に、『紫のイリス』として何度も生まれ変わり、たくさんの人間の記憶を持つ、多くの人格の総合体なの。『紫のイリス』として完全覚醒したことで、私は多くの人格と混ざりあって変わった。前の私とは完全に同じとは言えない存在になってしまったわ」
妙に大人びたその表情に、ジャスパーの心はすっと冷えた。
オパールだけれども、オパールではない。自信がなく、それでも認められたくて一生懸命だったオパールとは違い、己の存在の尊さを疑うこともない女性。
「ねえ、ジャスパー様。あそこに紫龍様が眠っているの」
オパールの指さす方には確かに、紫色の龍がいた。
「紫龍様は浄化したわ。でもね、もう一度生まれ変わらせるかどうか、まだ決まっていないの」
「どうして?」
「人の心に、大きな争いを産む支配というものを産みつけることに、迷いがあるの。それは世界を滅ぼしかねない力だから。今はね、虹蛇様がどうして紫龍を通してその力を人に与えようとしたのか、その意図を理解しようとしているの。それが終わるまでは、私も紫龍様も生まれ変わらない。この虹蛇様の墓の中で、人が『竜の涙』を必要とするような困った状態になった時にだけ、必要な魔力を供給して、そうやって、いつになるかわからないけれど、いつかは生まれ変わるつもりよ」
「オパール?」
「なあに?」
「オパールは、世界の理を定める側の存在なんだね」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、ただの人間の僕とは釣り合わない?」
「……ジャスパー様?」
「君にとって、僕は守るべき多数の中にいる小さな存在なのか?」
「難しい質問ね」
オパールの顔をしたその人物は否定も肯定もしなかった。
「あなたは特別な存在よ。私が心を預けることができた、わずかな人間の一人だもの。それに、純粋にオパールはあなたを愛していたわ。でもね、上に立つ者は、自分に近い人、特別な人を優先させることは許されない。公私を分けられるのなら両立するのかもしれないけれど、公私の別がない私のような存在にはそれができない。オパールはあなたと離れたくないと泣いていたわ。私情を優先させようとしていたから、多数の中の一人にして支配権を取り上げなければ『紫のイリス』としての役割を果たせなかった」
「オパールの心は? オパールは泣いているんだろう? 父上も兄上もいつも言っているぞ、家族一人守れない男は領民領地を守れないって」
「それも一つの考え方。だから、オパールには選ばせることもできるわ」
オパールの顔をしたその存在は、ジャスパーに言った。
「オパールは、ただオパールとして切り離すことも可能よ」
「なんだって?」
「本来、オパールの母親であるマリアが『紫のイリス』として覚醒するはずだった。でも、マリアよりもオパールの方が、世界を助けられる。それが分かったから、マリアはオパールに力を委ねた。本来のオパールには、『紫のイリス』としての使命はなかったの。私たちはそのことを問題視している。だからオパールが本当に望むなら、私たちはオパールを私たちから切り離し、元通りのただの人として人間の世界に帰すことができるの」
「オパールと話をさせてもらえませんか!」
ジャスパーはオパールの顔をした『紫のイリス』に頼んだ。
「お願いです、何としても、僕はオパールを取り戻したいんだ」
「二人でよく話しあいなさい」
『紫のイリス』が目を閉じた。数秒後、目を開いたその顔は、まぎれもなくジャスパーの知るオパールだった。
「え、ジャスパー様?」
「オパール!」
ジャスパーは今度こそしっかりとオパールを抱きしめた。
「どうしてここに来たの?」
「話、聞いていなかったの?」
「ジャスパー様と誰かが話をしているのは遠くに聞こえたけれど、はっきり聞こえなかったから」
「オパール、帰ろう」
「え? でも私、死んだでしょう?」
「オパールは本来『紫のイリス』になるはずではなかったから、オパールが望めば特例で切り離して戻してくれるって」
「でも、何の力も持たない私が戻っても、役に立てないわ」
「違うよ、オパール。オパールは特別な魔力を持たなくなる代わりに、普通の薬が作れるようになる」
「あ……」
「『紫のイリス』の力が干渉して、薬を無効化してしまっていたんだろう? その力がなくなれば、オパールは魔法薬を作ることはできなくなるけれど、薬師一族ゴシェナイト家の薬師になれるんだよ」
「私が、薬師になれる? 誰も邪魔もせずに、薬を無効化もしない?」
「ああ、そうだよ。それなら、オパールが学んできた知識も技術も生かせる。オパールがオパールとして努力してきたものが日の目を見るんだ」
「私、戻ってもいいの?」
「もちろんだ。戻ってくれなかったら、僕は一生独り身で過ごす覚悟をしていたんだ」
「私、ただの薬師でもジャスパー様の隣にいていいの?」
「みんな待っているよ。クリスタル姉上も、赤ん坊を抱いて待っている。会いたかっただろう、赤ん坊に」
「うん、私、戻りたい。ジャスパー様と一緒にいたい」
「戻ろう、僕たちの家に」
「はい!」
次の瞬間、まばゆいオパールのあの魔力の光が二人を包んだ。思わず目を閉じて抱き合ったオパールとジャスパーに、『紫のイリス』の声が聞こえた。
「二人で協力し合って生きるのよ」
実を固くしていると、突然「オパール!」という声が聞こえた。
「クリスタル?」
「オパール、戻って来たの? 本当に? もうずっと一緒にいられるの?」
「落ち着け、オパールが困っている」
「だって、だって、死んだはずのオパールが戻って来たのよ? どうしてオニキス様は冷静でいられるの?」
「待て、落ち着け」
「無理!」
うわーん、と赤ん坊が泣き始めてはっとしたクリスタルを、赤ん坊事抱き上げたオニキスはそのままオパールとジャスパーに「帰るぞ」と言った。
「待って、私はオパールと話がしたいの!」
「今はジャスパーに譲ってくれないか?」
「もう!」
護衛としてついてきた者の中には、シュン、ガレナ、スティーブもいる。みんなが目を潤ませている。
「おかえりなさい、オパール様」
ガレナがオパールの手をそっと握った。
「はい、ただいま戻りました」
「みんな、きっと驚きますよ」
「ふふ、こんなこともあるのですね」
泣き笑いしながら一行はジェットの森を抜けていく。動物たちもそれを見送っている。
オパールは足元を見た。白蛇が一匹、こちらを見上げている。
「また、『竜の涙』が必要になったら来ます。その時は少し分けてくださいね」
白蛇は『竜の涙』の方に向かうと、その根元で丸くなった。
ジェットの森から出ると、気持ちのよい風が吹いていた。
ジャスパーの馬に載せられて、オパールはスヴァルトルの城へと戻っていく。戻ったオパールを、辺境伯家のみんなや、カンババ、リオナ、そしてオンファスはどんな顔で迎えてくれるだろうか。
夕焼けのオレンジ色の空が、一行を明るく照らしていた。
読んでくださってありがとうございました。
途中で感情が大きく揺れるようなことがあり、当初の予定とは違う形で書き上げることになりました。
いろいろ説明がついていないところもありますが、一旦閉めたいと思います。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
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