第98話《出発》
朝の光が屋敷の庭を金色に染めていた。
澄んだ風が吹き抜け、草の香りを運んでくる。
門の前では、すでに皆が集まっていた。
ナユとリカリーネ、セバスチャン、ミナ、ナユの両親。
そのそばで、ハクとクロ、そしてヒナが嬉しそうに鳴いている。
「全員、そろったのです!」
ナユが胸を張って宣言すると、セバスチャンが穏やかに頷いた。
「準備万端でございますね、お嬢様。お弁当も忘れずに」
「はい!ママとミナ、それにセバスチャンと一緒に作ったのです!」
母が微笑む。
「ふふ、沢山あるから、しっかり食べてね」
ミナが手提げを見せる。
「重たかったけど、がんばって持ってきました!」
リカリーネが早速中を覗き込もうとして、ナユに止められた。
「リカちゃん、それはお昼まで我慢なのです!」
「えーっ、味見くらい――」
「ダメなのです!」
ぷくっと頬を膨らませたリカリーネの肩に、ヒナがとまり、小さく鳴いた。
「……ヒナまで止めるの?」
「ぴぃ」
そのやり取りにみんなが笑う。
和やかな空気の中、バルドランが杖を軽く地に突いた。
「ほっほ、では行くとするかの。地の魔法で道は整えておいた。足を取られる心配はないぞ」
ナユが嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます!さすが先生なのです!」
リカリーネがくすっと笑う。
「バルドラン先生、やっぱり優しいよね。……でも、さっきまで寝ぼけてたでしょ?」
「む、むぅ……朝は弱いのじゃ」
セバスチャンが軽く咳払いをして、みんなの注意を集めた。
「それでは――出発といたしましょう」
ナユが一歩前に出て、門の前で振り返った。
朝日が髪を照らし、金の輪郭を描く。
「行くのです!今日はみんなで、草原まで遠足なのです!」
その声に、全員が声を合わせた。
「おーっ!!!」
ハクが白い尾を振り、クロが低く唸って走り出す。
ヒナが空を舞い、炎の羽をきらめかせた。
その後を追いながら、ナユ達は朝の道を歩き出す。
笑い声が重なり、屋敷の庭に残る露が光った。
長い冒険の後の、小さな旅。
それは、何よりも穏やかで、愛おしい“出発”だった。
「今日の記録:みんなで草原へ遠足に出発したのです!ハクとクロとヒナも元気いっぱい!先生も嬉しそうで、空がとっても綺麗だったのです。……日報完了」




