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第92話《帰還》

 夕暮れの王都。

 石畳の道を照らす街灯の光が、ナユ達の影を長く伸ばしていた。

 屋敷の門が見えた瞬間――


「お嬢様ぁっ!」


 玄関が開くより早く、ミナが飛び出してきた。

 勢いのまま、ナユの胸に飛び込む。

 細い腕が、必死にナユの背中を抱きしめる。


「ただいまなのです、ミナ」


「うう……っ、よかった……ご無事で……!」


 ナユは苦笑して、その頭をやさしく撫でた。

 その後ろから、父と母が駆け寄ってくる。


「ナユ……!」


「無事だったのね……本当に……」


 母の声が震えている。

 父は口を開かないまま、静かに頷いた。


「もう大丈夫なのです。みんなのおかげで、帰ってこられたのです」



 温かい灯りのともる食堂。

 並べられたスープとパンの香りが、ようやく現実を感じさせた。

 全員が席につき、ナユは両手を膝の上に置いて姿勢を正した。


「王都での報告を終えたのです。……王様から、勇者と魔王の事についてもお話を聞きました」


 父と母の表情が少しこわばる。

 けれどナユは落ち着いた声で続けた。


「まだ分からない事が多いけど、悪い魔族が動いているみたいなのです。だから――気をつけてほしいのです。外を歩く時とか、出来るだけ1人にならないで欲しいのです」


 腐敗霧のサバリネが言っていた言葉を思いだす。


 ミナが胸の前で手をぎゅっと握る。


「……わたしも気をつけます。お嬢様も、無理はしないでくださいね」


「ありがとうなのです」


 少し笑顔が戻った。

 リカリーネがスープを飲み干しながら、にやりと笑う。


「ねえ、言わなくていいの?大事な事」


「……分かってるのです。えっと……」


 ナユは立ち上がり、両手を胸の前で合わせる。

 真剣な瞳で、両親とミナを見つめた。


「王様から、家名と爵位をいただいたのです。家名は“ハルメリア”。爵位は“男爵”――成人するまでの仮授与なのです」


 一瞬、沈黙。

 母が口を手で押さえ、父が息を呑む。


「そ、そんな……本当に……?」


「ナユ……お前が……」


 ミナは目をまんまるにして、両手を胸の前で組む。


「すごい……お嬢様、貴族様になっちゃった……!」


「ちょっと恥ずかしいのですミナ。でも、与えられたからには、それに恥じないように生きるのです」


 父がゆっくり立ち上がり、肩に手を置く。


「……立派になったな、ナユ」


「うん……ありがとうなのです、父さま」


 母は涙を拭い、優しく微笑んだ。


「家族みんなで、頑張らないとね。悪い魔族にも、負けないように」


「はいなのです!」


 ミナが元気に手を挙げる。

 笑いが広がり、ようやくいつもの食卓に戻った。


「今日の記録:王都から無事帰還。王様に報告を済ませ、家名“ハルメリア”と男爵の爵位を授かりました。家族とミナが迎えてくれて嬉しかったのです。悪い魔族が動いているみたいだから、みんなで気をつけるのです。守る事が、わたしの使命なのです。……日報完了」

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