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第71話《教授》

 朝の光が差し込み、屋敷の一室に魔力の粒子が舞っていた。

 書棚には分厚い魔導書が並び、部屋の中央には木製の長机がある。

 その前で、バルドランが杖を突きながら立っていた。


「さて――今日から正式に授業を始める。まずは“基礎の基礎”じゃ」


 リカリーネは頬杖をつき、欠伸をこらえる。

 ナユは姿勢を正し、ノートを手に取った。


「基礎は大事なのです!」


「ふむ……やる気があるのは良いことだ」



 杖の先が空中に触れると、淡い光の円が浮かび上がる。

 まるで古代の言語のようなものが幾つも並び、魔法構造の概念を示していた。


「“階梯”とは、魔法の威力と構築精度を示す段階のことじゃ。火でいえば――《ファイア》が第一階梯。《ファイアアロー》が第二階梯。《ファイアボール》が第三階梯、という具合だ」


 ナユが目を輝かせてうなずく。


「つまり、威力が上がるほど階梯が上がるのですね!」


「その通り。同時に、魔力の制御が緻密であれば、低階梯でも上位を超える事もある。“力”よりも“ことわり”じゃ」


「なるほどなのです。最適化と効率化の話ですね!」


「……なんの話それ」


 リカリーネが呆れたようにため息をつく。


「難しく考えすぎよ。撃って燃やせばいいの」


「ふむ。お前はまだ若いが、火を見る目は悪くない。だが、魔法は暴力ではなく理の流れだ。炎も光も、導くものじゃ」


「……説教は聞き飽きたわ」


「じゃあ実践に移るのです!」



 庭に出ると、光と風が混じる気配が走った。

 ナユは両掌を合わせ、真剣な表情を見せる。


「光よ、護りを重ねて――《プロテクト・サークル・トリプル》!」


 三重の光輪が展開し、周囲の空気が軽く震える。

 魔力の層が幾重にも重なり、屋敷全体を包み込んだ。


「……昨日も思ったけど、これを三重?一瞬で?ほんとに三歳なの?」


 リカリーネが驚き混じりに言う。

 バルドランも眉を上げた。


「ふむ……発動に迷いがない。構築も正確……見事じゃ」


「ありがとうございます!安全第一なのです!」


「くっ……なんかムカつくわねその言い方!」



「では、次はお前達の“属性”を確かめよう」


 バルドランが杖を立てると、魔力陣が淡く浮かぶ。

 ナユの光と、リカリーネの炎が同時に輝いた。


「ナユの適性は光、そして――補助と風に素質あり。リカリーネは純粋な火。伸ばせば大成する」


「ふん、当然よ」


「わたしも頑張るのです!」


 リカリーネがすぐ顔を寄せ、にらむ。


「“も”?張り合う気?」


「学ぶのは競う為ではないのです。でも、勝てるなら勝ちたいのです!」


「その口調で言われると腹立つのよ!」



 ナユは少しだけ考え込んで、首をかしげた。


「ねぇ、バルドランさん。全属性は使えないのです?」


「……ふむ、面白い質問じゃな。理論上、“全属性適性”というものは存在する。だが、実際に扱えた者は神話に語られる“始源の賢者”ただ一人。人の魂は、あまりに多くの属性を宿すと砕けてしまうのじゃ」


「なるほどなのです。なら、砕けないように鍛えればいいのです!」


 リカリーネが思わず吹き出す。


「……は?そんなの聞いた事ないわよ!」


「常識を破るのも努力のうちなのです!」


 バルドランが目を丸くし、そして笑った。


「……おぬし、見ておると飽きぬな」



 バルドランは目を細め、ふたりを見比べた。


「よい。火と光……どちらも世界を照らす属性だ。だが扱い方を誤れば、人も焼く。ゆえに、学べ。感じろ。考えろ。おぬしらなら、きっと到達できる」


「はいなのです!」


「……まあ、暇じゃないけど付き合ってあげるわ」


 風が吹き抜ける。

 光と火がゆるく交わり、揺らめいた。


「今日の記録:初の座学開始。バルドラン先生から魔法理論と階梯の講義。《プロテクト・サークル・トリプル》で安全確保。リカちゃんとは相変わらず仲良くケンカ。“全属性”は神話級らしいけど、いつかやってみたいのです!のんびり暮らす為にも、勉強頑張るのです!……日報完了。」

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