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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第一章《TS転生しちゃいました!》

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第58話《裁定》

 王都の朝は重かった。

 曇天の下、城の鐘がゆっくりと八つを告げる。

 王城の中庭には近衛兵が列をなし、その中央に、一人の男が立たされていた。


 ロスルド大臣。

 王命を偽り、赤子を誘拐した罪――その証拠は、昨夜匿名で届けられた書簡とともに明らかとなった。


「ロスルド・バルネス。貴殿の名において下された命令は、王印を偽造したものと断ずる。弁明はあるか」


 宣告官の声が冷たく響く。

 ロスルドは青ざめた顔で震え、なおも口を開いた。


「違う、私は……王のために……!」


 だが、言葉は途中で途切れた。

 地面に叩きつけられた書簡。

 その端に、誰も知らぬはずの筆跡があった。


 ――“真実を曲げる者に、知を扱う資格はない”。


 署名はなかった。

 だが、誰もがその筆跡を知っていた。

 フェルネ。



 その頃、王立塔の上階。

 フェルネは衛兵に囲まれながら、静かに机の上の記録盤を見つめていた。

 あの夜――神律に触れた瞬間の記録が刻まれたそれは、今も青白く微かに光を放っている。


「……あれを見た者は、私ただ一人。ならば、私の罪で終わらせよう」


 衛兵が彼の腕を取る。

 フェルネは抵抗せず、静かに歩き出した。


「学者フェルネ・クライン。命令違反および不正観測の罪により拘束する」


 宣告が下る。

 だが、その横顔には不思議な安堵があった。


「罪は認めよう。……だが、あの子に触れるな。あれは人の領域のものではない」


 誰も答えなかった。



 夜が訪れる頃、塔の下層。

 暗い石の廊下を、小さな影が歩いていた。

 ミナ。

 まだ幼いが、その手には小さな鍵束が握られている。


 「言われた通り、赤子を見てこい。汚すな。泣かせるな」――昼間、監督役に命じられた言葉が頭にこびりついていた。


 扉の前に立ち、そっと開ける。

 部屋の中には灯が一つだけ。

 寝台の上で、ナユが静かに眠っていた。


 近づいて見た瞬間、ミナは息を呑んだ。

 泣いていない。

 怯えてもいない。

 ただ、穏やかな顔で寝息を立てている。


「……なんで、こんなに静かなの……」


 思わず呟く。

 その声に、ナユが微かに瞬きをした。

 目が合う。

 その瞳は、どこまでも澄んでいた。


 ――その一瞬、胸が痛んだ。


「……わたし、何してるんだろ」


 呟いた時、外で風が鳴った。

 塔の屋根の上――誰かが立っている。

 月を背にしたその影は、長く、静かに佇んでいた。


 ミナは気づかない。

 けれど、その瞬間、塔の空気がわずかに張り詰めた。



 翌朝。

 塔の外では、衛兵たちが走り回っていた。

 大臣拘束、学者連行、命令系統の崩壊。

 塔の管理者たちは混乱し、命令が降りてこない。


 だが、その喧噪の中――誰も知らぬうちに、塔の最上階の窓がわずかに開いていた。


 そこから吹き込む風が、寝台のカーテンを静かに揺らす。

 ナユはまだ眠っている。

 けれど、その寝息の奥で、小さな光がふわりと揺れた。


 ――風が、運んでくれる。


「今日の記録:塔の夜。誰かが見に来た。泣かずにいられた。外で風が鳴ってた。……なんだか、少しだけ温かかった。日報完了。」

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