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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第一章《TS転生しちゃいました!》

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第57話《秘匿》

 朝の冷気が塔の石床に溜まり、音を吸いこんでいた。

 観測室の窓には昨夜の明滅の名残が、かすかな曇りとなって残っているように見えた。


 フェルネは封印した記録盤を両の掌に載せ、しばし目を閉じた。

 あの揺らぎは魔力ではない。

 式でも説明できない。

 ――神律に僅かに触れられた。


「……これは、人に扱わせてはならぬ」


 独り言は石壁に吸われ、朝の静けさへ沈んだ。



 扉が叩かれ、若い秘書が顔を覗かせた。

 手にはロスルド大臣の印が押された命令書。


「昨夜の件、詳細報告を求むとの事です。“成果の提示”を――」


「報告は私が整える。機器の誤作動として記す」


 即答に、秘書は言葉を失った。


「で、ですが――」


「下がりたまえ」


 静かな一言に、秘書は頭を下げて退いた。



 フェルネは机に戻り、羽根筆を取った。

 報告書の一行目に、淡々と綴る。

 観測装置、深夜二時に過負荷。

 原因不明。

 再現不能。

 誤作動として処理。


 筆先が止まる。

 紙の余白が白く、冷たい。


「……真実は、ここには書かない」


 彼は記録盤に三重の封印符を重ねた。

 王命でも解けぬよう術式を組み替え、封印庫へ納める。

 鍵を掛け、さらに封蝋を押す。


「神がこの子に与えたものなら、王にも渡さぬ」


 その言葉は祈りに似ていた。



 塔の下層。

 小部屋の寝台で、幼い寝息が規則正しく続いていた。

 ミナは毛布の端を直し、そっと額の汗を拭う。


「……大丈夫、だいじょうぶ」


 フェルネは敷居で足を止め、二人の姿を見つめた。

 己の好奇心が、この安らぎを脅かした事実が胸を刺す。


「すまない」


 誰にも聞こえない声で呟き、踵を返す。



 書庫へ戻ると、フェルネは引き出しの底板を外した。

 そこに薄い封筒を置く。

 内には命令書の写しと、指示系統の控え、誘拐に関わった名の列。

 封筒の表には差出人を記さない。


「罪は罪だ。私も逃げぬ。だが、知は悪に渡さない」


 灯を吹き消し、陰に沈む。

 封筒は、夜のうちに然るべき場所へ運ばれる手筈だ。



 窓の外で朝鐘が鳴り、王都が目を覚ます。

 塔の上では、ただ一人の学者が静かに決めた。

 神律に触れた事実は、己の胸にのみ秘す。

 王にも、大臣にも告げない。

 この力は――あの子に許されたものだ。

 それに、意味のある事なら、それを導くのが大人の役目だ……。


「学者記録:観測異常を封印。王への詳細報告は打ち切り。神律介在の推測は私的覚書に留め、口外せず。命令系統の証拠一式を匿名送付。……責は後日、私は受ける。記録完了。」

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