第437話《実践》
第一訓練場には、七学科すべての生徒が集まっていた。
冒険科、魔法科、騎士科、戦術科、付呪科、鍛冶科、錬金科。
演習区画の周囲には安全確保用の結界が張られ、生徒達はその外側に設けられた見学区画から中央を見渡している。
そこに並ぶのはA級冒険者パーティー《極星の旅団》《誓いの戦斧》、そして唯一のSSS級《戦鬼》アズライト・オーヴェル。
これほどの現役冒険者が同じ授業に集まるなど、そうあることではなかった。
「よーし!紹介だけで満足してんじゃねぇぞ!」
ガルドナの声が訓練場に響く。
「ここからが本番だ!自分の学科で習ってることが、実際の現場でどう使われるか、その目でよく見やがれ!」
最初に演習区画へ入ったのは《極星の旅団》だった。
大盾を持つリーダー、ガイ。
剣士のウルト。
弓手のロゥリィ。
そして杖を手にした老魔法使い、バルドラン。
「師匠!」
見学区画からリカリーネが声を上げた。
「ほっほ。元気そうじゃのう、リカリーネ」
「バルドラン先生!」
ナユも嬉しそうに手を振る。
「ナユも元気そうじゃな」
「お久しぶりです!」
アルベルトが二人を見る。
「……あの老人、二人の先生なのか?」
「そうみたいだな」
「……また妙な繋がりが出てきた」
「最近そればっかりだな、お前」
カイが呆れた。
◆
四体の大型魔法人形が演習区画へ放たれる。
「《極星の旅団》!始め!」
合図と同時に、ガイが大盾を前へ出した。
二体を正面から引き受け、攻撃を一身に受け止める。
「前は任せろ!後ろは攻撃だ!」
「了解!」
ウルトが横へ回り込む。
ガイへ意識を向けていた一体へ踏み込み、一閃。
腕を斬り落とし、そのまま次の一撃へ繋げる。
「右、抜けるぞ!」
ロゥリィの矢が飛んだ。
別の魔法人形の脚へ刺さり、進路が僅かに変わる。
「そこじゃな」
バルドランが杖を振る。
「《ストーングレイブ》」
地面から石杭が突き上がり、体勢を崩した魔法人形を持ち上げる。
そこへウルトの剣が走った。
残る一体がロゥリィへ向きを変える。
「《フレア・トルネード》」
炎の渦が進路を塞いだ。
足を止めたところへガイが盾ごと突っ込む。
「おらぁ!」
轟音と共に最後の一体が転がった。
「そこまで!」
戦術科の生徒達が一斉に筆を走らせる。
「ガイさんが攻撃を集めてる」
「ウルトさんは必ず誰かが崩した後に入ってる」
「ロゥリィさんの矢も、倒すためじゃなくて敵の位置を変えてる……」
ナユも食い入るように見ていた。
「すごいね。四人がずっと繋がってる」
「師匠も無駄な魔法を一発も撃ってないわ」
リカリーネが腕を組む。
アルベルトも黙ってバルドランの杖を見つめていた。
◆
「次!《誓いの戦斧》!」
「おう!」
今度はバルゴ達が演習区画へ入る。
バルゴ、リゼット、ダリオ、ノエラ。
そして見習いの日村依子も一緒だった。
三体の大型魔獣型人形が放たれる。
「行くぞぉ!!」
バルゴが真正面から踏み込む。
「相変わらず真っすぐね」
リゼットはそう言いながらも、すでに弓を引いていた。
一射で一体の脚を止め、二射目で別の個体の向きをずらす。
「右へ」
ダリオが杖を動かした。
地面が隆起し、魔獣の進路が曲げられる。
そこにはバルゴが待っていた。
「そこだぁ!!」
大斧が叩き込まれ、一体が吹き飛ぶ。
「……倒すための魔法じゃない」
見学区画でアルベルトが呟いた。
「敵をバルゴさんのところまで運んだんだな」
リュードが頷く。
「第五階梯を撃ち込むより、あの方が確実な状況もある……か」
アルベルトの表情が少しだけ真剣になる。
その頃、別の魔獣がバルゴの死角へ回り込んでいた。
「バルゴ!」
依子が飛び出す。
《パワフル》で強化された拳が魔獣の横腹へ叩き込まれ、強引に軌道を逸らした。
「助かった!」
「前だけ見ないでよ!」
「お前が後ろ見てくれるから安心なんだよ!」
「そういう問題じゃない!」
少し離れた位置で全体を見ていたノエラの眉が、ぴくりと動いた。
「…………チッ」
リゼットが振り返る。
「今、舌打ちした?」
「してません」
満面の笑みだった。
「怖ぇよ」
ダリオが小さく呟いた。
◆
実演が終わると、冒険者達は見学区画側へ戻ってきた。
ここからようやく、各学科の生徒達が直接質問する時間となる。
戦術科は両パーティーの陣形について。
鍛冶科は長年使い込まれた武器や盾の修理痕について。
付呪科は装備へ施された実戦用の術式を確認し、錬金科はノエラの携行薬や荷物の量を細かく聞いている。
「全部持てば安心というものではありません」
ノエラが鞄の中身を見せる。
「持ちすぎれば動きが鈍ります。足りなければ命に関わります。何日潜るのか、何と戦うのか。それを考えて選ぶのも冒険者の仕事です」
魔法科では、アルベルトがダリオの前に立っていた。
「さっきの地面を動かした魔法だが」
「ん?」
「もっと高階梯を使えば、早く倒せたんじゃないのか?」
ダリオが肩をすくめる。
「必要なら使う」
「なら何故――」
「必要なかったからだ」
アルベルトが黙る。
「階梯が高けりゃ勝てるなら、冒険者は苦労しねぇよ。第五階梯が必要なら撃て。第一階梯で足りるなら第一階梯を使え」
「…………」
「強い魔法を持ってることと、正しい魔法を選べることは別だ」
アルベルトは少し考えた後、小さく頷いた。
◆
「分かったか!」
ガルドナが七学科の生徒達を見渡す。
「冒険ってのは剣と魔法だけじゃねぇ!戦術も、武器も、付呪も、薬も、全部繋がってんだ!」
「はい!」
ナユが大きく答えた。
魔法だけではない。
力だけでもない。
かつてナユが冒険科を選んだ時に求めたもの。
生き抜くための力が、目の前に形となって並んでいた。
「さて」
ガルドナが訓練場の端へ視線を向けた。
そこには、ここまで一度も実演へ参加していない男がいる。
アッシュブロンドの長髪。
片手剣と小盾。
アズライト・オーヴェル。
「最後に、とっておきを見せてもらうか」
生徒達の視線が一斉に集まる。
「おい、アズライト!」
「何だ、先輩」
「唯一のSSS級がわざわざ来たんだ」
ガルドナが獰猛に笑った。
「世界最高峰って奴を、ガキ共に見せてやれ」
アズライトは少しだけ沈黙した。
そして小盾を確かめ、片手剣へ静かに手を添える。
「……分かった」
たった一言。
それだけで、第一訓練場の空気が変わった。
◆
「今日の記録:《極星の旅団》と《誓いの戦斧》のみなさんの実戦を見ました。ガイさん、ウルトさん、ロゥリィさん、バルドラン先生、それぞれの役目が綺麗に繋がっていました。《誓いの戦斧》も、みんなで敵を動かしながら戦っていてすごかったです。そして次はいよいよアズライトさんです。世界で唯一のSSS級……どんな戦い方をするのか、とても楽しみです。日報完了」




