第44話《感応》
朝の光が差し込む中庭。
露に濡れた芝がきらめき、風が柔らかく頬を撫でる。
その中央に、まだ小さな体のナユがちょこんと座っていた。
傍らにはセバスチャン。
両親は少し離れた場所から見守っている。
「では、始めましょう」
セバスチャンが膝を折り、ナユの前に手を差し出した。
穏やかな声だが、その瞳は真剣そのものだった。
「魔力とは、生きる力そのもの。心が揺れれば流れが乱れ、乱れれば暴走します。まずは“感じる”こと。そこから全てが始まります」
ナユは小さく頷き、目を閉じた。
胸の奥に、昨日感じたあの微かな熱を探す。
――確かにある。
静かで、けれど確かな“鼓動”のような流れが、体の中を巡っている。
「無理に掴もうとせず、ただ感じなさい。流れる風や呼吸のように、魔力も“在る”だけで良いのです」
ナユは息を整え、意識を深く沈める。
周囲の音が遠ざかり、鼓動だけが聞こえる。
その拍動に合わせて、淡い光が胸から腕へ――そして掌へと移った。
小さな手のひらが、やわらかく光を放つ。
その光はまるで呼吸するようにゆらめき、周囲の空気さえ震わせた。
「……お見事です」
セバスチャンの声がわずかに震えた。
その表情には驚きと感嘆が混じっていた。
「まだ幼子でありながら、魔脈の流れを感じ取るどころか……己の魔力を循環させているとは」
両親は顔を見合わせ、ほっと息を吐く。
母は小声で呟いた。
「……あの子、本当に……特別なのね」
セバスチャンは立ち上がり、静かに頷いた。
「本日はここまでにいたしましょう。この調子なら、すぐに“魔力を動かす”段階へ進めます。焦らず、着実に積み上げることです」
ナユは嬉しそうに小さな両手を握った。
――よし、ここからだな。
まずは魔力制御マスターへの第一歩……!
「今日の記録:初めての訓練成功。魔力の流れを“感じる”ことに成功。制御も安定、これなら魔法修行も夢じゃない……日報完了。」




