第33話《恩賞》
謁見の間で王の言葉を賜った後、ナユ達はそのまま案内されることになった。
使者の騎士に導かれ、城門から王都の石畳を走る馬車へと乗せられる。
ちなみにセバスチャンは先に屋敷へ行き、準備を済ませてくる、との事。
父と母はまだ呆然としていた。
「お、御屋敷を……賜るなんて……」
「夢みたい……」
母はナユを抱きしめ、胸の鼓動を抑えられずにいた。
村長もまた、震える声で呟く。
「税の免除……村が、これで生き延びられる……」
馬車の窓から覗く王都の街並みは、村とは比べものにならない華やかさだった。
石造りの建物、花を売る商人、行き交う人々の笑顔。
赤子のナユは「ばぶっ」と声をあげたが、心の中では叫んでいた。
――これ完全に異世界スローライフ舞台セット整ったやつ!
やがて馬車は停まり、荘厳な鉄の門の前に着く。
背の高い樹木に囲まれた庭園、その奥に白亜の屋敷がそびえていた。
「こちらが、陛下より賜った御屋敷にございます」
騎士が恭しく頭を下げる。
門が開かれると、一人の老人が姿を現した。
白髪を後ろで束ね、燕尾服を身にまとった佇まいは、ただの執事ではない気配を放っていた。
「お待ち申し上げておりました」
老人は静かに胸へ手を当てる。
「我が名はセバスチャン。以後、この屋敷にてご一家の執事を務めさせていただきます」
父は思わず慌てて頭を下げる。
「と、とんでもない……我らのような者に、かような立派なお方が……」
セバスチャンは微笑を浮かべた。
「王のお言葉は絶対でございます。どうぞ遠慮なく、存分にお頼りください」
母は胸に抱くナユの頭を撫でながら、静かに息を吐いた。
「……本当に、ここから新しい生活が始まるのね」
ナユの瞳はきらきらと輝いていた。
――よし!屋敷ゲットだぜ!!
これからスローライフ本番、楽しむしかない!
「今日の記録:御屋敷を拝領。執事セバスチャン配属。村は税免除。……異世界スローライフの舞台、整った……日報完了。」




