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神様の手違いで死んだ社畜おっさん、まずは自由を願い、次に明日を願う!TS転生し美少女に!最強チート《願い》は一日一回だけど万能です!異世界スローライフで世界も人も未来も救ってみせます!  作者: 兎深みどり
第六章《迷宮都市ナユタ編》

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第307話《来影》

 迷宮都市ナユタの朝は穏やかだった。

 石畳には商人の声が響き、屋台の煙が細く空へ昇る。

 子ども達は走り回り、職人は今日の仕事の段取りを話していた。


 この街は安全だ。


 誰もが、そう思っていた。


 領主が規格外だから。

 結界があるから。

 ここは迷宮都市ナユタだから。


 不安など、遠い話だった。


 屋敷では書類の山が積み上がっていた。


「次はこちらです」


 ミナが淡々と差し出した。


「ありがとうミナ」


 セバスチャンが静かに受け取る。


 封書を確認し、指示を書き、印を押す。

 次の書類。

 さらに次。


 領主が不在でも、街は止まらない。


「物資搬入の最終確認は済んでおります」


「良いですね。午後の会議は予定通り進めましょう」


 淡々と処理されていく。


 日常だった。



 その頃。


 城壁上。


 サバリネが、ふと空を見上げた。


 表情が変わる。


「……来ますわね」


 低い声だった。


 隣でザヴェルも視線を上げる。


「来るのか……ナユが帰って来るまで待ってほしかったんだがな」


 短い言葉。


 空は青い。

 雲が流れているだけ。


 だが。


 遠く。


 ほんの一点。


 黒い影。


 最初は、ただの雲に見えた。


 だが違う。


 動いている。


 ゆっくりと。

 だが確実に。

 こちらへ。


 ザヴェルが目を細める。


「……でかいな」


 影は形を変える。


 長い輪郭。

 丸みを帯びた巨体。

 尾のような揺らぎ。


 まるで。


 空を泳ぐ、巨大なクジラ。


 だが黒い。


 濁った黒。


 見ているだけで胸がざらつく色。


 サバリネが静かに呟く。


「負の集合体……」


 空気が重くなる。


 黒いクジラが、ゆっくりと進む。


 その口元が歪む。


 次の瞬間。


 黒い光が収束した。


「来るぞ」


 ザヴェルが短く言った。


 轟音。


 暗黒のレーザーが放たれる。


 一直線に、街へ。


 ――だが。


 空が白く光る。


 見えない膜が浮かび上がる。


 白竜の結界。


 黒光が触れた瞬間、激しい衝突音が響いた。


 閃光。


 レーザーが弾かれ、空に散る。


 結界は健在。


 だが。


 クジラは止まらない。


 巨体が向きを変えた。


 今度は。


 体当たり。


 空が唸る。


 巨大な影が、迷宮都市ナユタへ落ちてくる。


 街の人々が、ようやく気づいた。


 空を見上げる。


 ざわめきが広がる。


 平和な朝が、終わる。


 黒い巨体が、結界へ迫っていた。

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