第20話《時刻》
メモを手に入れ、村の生活にも慣れ、両親に抱かれて日々を過ごしている。
しかし、彼の心は落ち着いていなかった。
――どうも不便だな……。
一日一回の《願い》。
昨日は夜に使ったけど、今日はもう使えるのか?
それともまだなのか?
前世なら時計を見れば一目で分かった。
だが、この世界には時刻を刻む道具が存在しない。
いや、あるのかも知れないが、この村には最低でもない。
村人達は「太陽が昇ったら畑へ」「暗くなったら眠る」だけで暮らしている。
だから誰も「正確な時間」を知ろうとすらしていない。
ナユは赤ん坊の体を揺らしながら、心の中で大きくため息をついた。
――これじゃ、効率が悪すぎる。
管理できないのは、致命的だ。
サラリーマンは時間が命!
決意と共に、ナユは願った。
――《時計》が欲しい。
この世界にない概念を、俺に与えてくれ。
次の瞬間、ナユから発せられた光はまたもや心の奥に数字が浮かび上がらせた。
淡い光を帯びたデジタル表示。
それは秒単位で正確に動いている。
【新スキル獲得:《時計》】
常時、正確な時刻を確認可能。
追加機能:アラーム・リマインダー設定。
――やった!
これで一日一回の《願い》を、きっちり管理できる。
さらに予定や日報の時間割まで完璧にできる!
母の腕の中で「あー」と声を出すナユ。
だが心の中ではスーツ姿の頃のように満面の笑みであった。
その後、不思議な事に母は気づく。
「……この子、毎日同じ時間に目を覚まして、同じ時間に泣くのよね……」
その噂はやがて村全体に広がり、ナユの名に「規則正しい子」という新しい印象を刻む事になった。
「今日の記録:《時計》獲得。一日一回の願い管理に必須。これで残業ゼロ生活だ……日報完了」




