第16話《討伐》
夜の帳が落ち、月が昇る。
その光を背に、黒い影が現れた。
全身を覆う漆黒の毛並み、血のように赤く光る双眸。
鋭い牙が月明かりにぎらつき、獣の咆哮が大地を震わせた。
「……っ、あれは《黒牙狼》!」
盾役の男が叫ぶ。
「危険度はA級相当、俺達ですら命懸けになる相手だ!」
剣士と弓手が息を呑む。
村人達は背筋を凍らせ、息を潜めた。
「退けば村が滅ぶ……討たねばならん。」
老魔法使い――バルドランが低く呟き、杖を構える。
その声に仲間達が頷いた。
黒牙狼が突進してくる。
土煙を巻き上げ、凄まじい速さで迫った。
「うおおおっ!」
盾役が盾を構え、衝撃を正面から受け止める。
地面が抉れ、火花が散った。
その隙を逃さず、剣士が横から斬りかかる。
鋭い刃が黒毛を裂き、血飛沫が散る。
「今だ、矢を!」
弓手の矢が風を切り、肩に深々と突き刺さった。
黒牙狼は痛みに怒り狂い、唸り声をあげて暴れ回る。
バルドランの詠唱が終わる。
「――燃えろ、炎よ!第五階梯!《イグニッション》!」
大火球が放たれ、獣の胴を直撃。
轟音と共に爆炎が広がり、毛皮が焦げた。
「ぐぉぉぉぉ……!」
だが黒牙狼は怯まず、狂ったように跳ね上がった。
その眼はまっすぐにバルドランを狙っていた。
「来るぞ、バルドランの方へ!」
盾役が叫ぶが、間に合わない。
黒牙狼の爪が一閃し、バルドランの胸を裂いた。
「ぐはっ……!」
杖を支えに膝をつき、血が地を濡らす。
「バルドラン!」
仲間達が駆け寄り、必死に支える。
だが黒牙狼はなおも唸り、襲いかかってきた。
「今だ、押し込め!」
盾役が立ち上がり、最後の力で獣を押さえ込む。
剣士が渾身の一撃を放ち、弓手の矢がその首に突き刺さる。
バルドランの震える声が、最後の呪文を紡いだ。
轟音と共に炎が炸裂し、黒牙狼は断末魔の咆哮をあげて崩れ落ちた。
広場に静寂が訪れる。
勝利の歓声はなかった。
ただ、深手を負って倒れ込むバルドランの姿が、皆の視線を釘付けにしていた。




