第14話《依頼》
広場に重い空気が流れていた。
魔物の恐怖は人々の顔を曇らせ、誰もが次の言葉を待っている。
逃げれば滅ぶ、立てば倒れる。
けれど、立ち止まる訳にもいかない。
「問題は金だ。どうやって集める」
「村の蓄えだけじゃ足りねぇ」
暗い声が重なり合う。
財布の重さは心の重さだと誰もが知っていた。
だが、何もしなければ次に犠牲になるのは畑でも家畜でもなく、村人の命だった。
「一人ずつ出し合おう」
「食料でも布でも、街で換金出来る物なら何でもだ」
村長の言葉に視線が交わり、ためらいがちにうなずきが広がる。
古びた銀貨、日々の働きで得た銅貨、商家の奥から出された小さな貴金属。
手の中の温もりが離れていく度に、胸の奥で別の温もり――希望が灯っていった。
「これで足りるか」
「足りなきゃ俺の道具も売る」
そんな声が幾つも続いた。
少しずつ積み上がる硬貨の山は、やせ細っているのに、誰よりも頼もしかった。
「誰が街まで行く」
静まり返った中で、父が一歩前に出た。
「……俺が行く」
母の顔が青ざめる。
「あなたが? 危険すぎます!」
「分かってる。だが、他に誰が行ける。ナユや皆を守る為だ」
父の声には迷いがなかった。
母は唇を噛み、涙をこらえながらも頷いた。
その手が父の袖をそっと握ると、父も一度だけ強く握り返した。
赤ん坊のナユは母の腕に抱かれながら、その様子を見ていた。
体は小さく、言葉も話せない。
けれど心の奥では――
――これ、完全に冒険者召喚イベントだ!
ついに依頼フェーズ突入か……!
報連相、準備、実行。
完璧な段取りじゃないか。
俺はてっきり、村人達は俺の願い頼りかと思ったけどこいつら……やるな!!素晴らしいぞ村人共!!
胸がわくわくと熱を帯び、小さな指が母の服をぎゅっと掴んだ。
「今日の記録:冒険者依頼の準備。皆で資金を集め、父が使者に決定。段取りを整えれば危機は動かせる……日報完了」
すまんな、俺はこの世界の冒険者を見たいのだ!!




