第10話《布告》
病人が癒やされた後も、村は穏やかだった。
だが司祭の心は落ち着いていなかった。
「これは……王都に報告せねばなるまい」
その夜、司祭は従者に命じた。
「神の子が村に現れた」と、王都の教会本部へ早馬を走らせる。
数日後。
村に集まった人々に、司祭は高らかに告げた。
「この子は間違いなく神に選ばれし存在だ。我ら教会は、この奇跡を王都へと伝える。やがて国王陛下も、この子を祝福なさるだろう!」
村人達は歓声を上げた。
「神の子だ!」
「これで村は守られる!」
期待と熱気は一気に広がっていく。
両親は顔を見合わせ、ナユを抱きしめる。
「……どうなるんだろう」
「ただ普通に生きてほしいだけなのに……」
布団の中で、ナユは心の中で渋い顔をした。
「……いやいや、ただのサラリーマンが、ついに王様案件ですか。上層部に呼ばれるとロクな事にならないんだよなぁ、こういう展開って……」
それでもナユは気を引き締める。
今はまだ赤ん坊。
動く事は出来ない。
だが、毎日一度の《願い》があれば、守れるものは必ずある。
「今日の記録:教会が王都に布告。俺の存在が国に広がる……日報完了」
こうして、村の奇跡は一つの「布告」となり、王都へと届いた。
ナユの人生は、確実に大きな転機へと向かっていた。




