第13話:太陽の紋章
闇が完全に消えた森は、まだ息をひそめたままだった。
アーヤは、ミラを抱き寄せたまましばらく動けずにいた。
「アーヤ、ミラの具合はどうだ……」
グレイの起こした火の灯りと温もりがあたりを包む。
アーヤは震える指先でミラの頬に触れた。指先の感触は、まだ冷たい。
ミラの呼吸はかすかに安定してきたが、まだ顔色は青白く、唇の色も戻らない。
「……温かさが、足りない……何かもっと温めるものが必要だわ」
アーヤは辺りを見回したが、夜の森の真ん中で、人肌を温めるようなものは見当たらない。
「ミラ、ちょっと待ってて。」
アーヤは自分が着ていた服を脱いで、やさしくミラを包んだ。
「ミラ……頑張って……」
アーヤの白い肌が月の灯りで輝く。
ミラのことを思うと、恥ずかしさなど気にしてはいられない。
アーヤの細身の体は、乳房を覆うもの以外があらわになっていた。
「アーヤ、その肩の紋章は……」
グレイは、目のやり場に困る中、アーヤの右肩に紋章が刻まれていることに気づいた。
「あっ、これは生まれた時からある痣です。痣にしては模様みたいになっているので、実は気に入ってます」
グレイはアーヤが痣という模様に見覚えがあった。
「アーヤ、もしかしたらその痣の形……昔からアルディナに伝わる太陽の紋章に似てるな……」
「太陽の紋章……?」
アーヤは驚いたような顔でグレイを見つめ、返す言葉がみつからない。
「あぁ、『太陽の神子は魔を封じる力が宿る』という伝説がある。もしかしておまえがその……」
アーヤはグレイの言葉を受けて、自分が伝説に関わるようなものだとは、まったく信じることができなかったが、何かが繋がったような感覚に襲われた。
「そういえば、昔、わたしのおじいちゃんが言ってた」
「何と言ってたんだ?」
「『太陽に仕えるものがアルディナを守る』んだって」
「!?」
グレイは驚いたような顔を見せた。
「何か関係あるのかしら」
「さっきの精霊のペンダント、そしてその紋章、もしかしたらアーヤ、お前は"封印の鍵"に関係があるのかもしれん……」
「そんな……」
アーヤは少し下を向いて黙り込んだ。
「……まぁ、この先を進めばわかることさ」
ミラはアーヤの施しにより、体の状態がよくなってきていた。
「よかった。顔色がよくなってきてる……」
「アーヤの気持ちが伝わったな……」
「ミラの強い意志が勝ったんです」
アーヤの胸の奥で、まだ熱が残るペンダントが微かな光とともに小さく脈打っている。
「リューネ……もう少し、もう少しだけ力をちょうだい」
ペンダントにぶらさがった緑色をした石を握りしめると、その温もりがゆるやかに広がった。
――すると、耳元でかすかな囁き声が響いた。
「……アーヤ……まだ、終わってないよ……」
その声は、確かにリューネのものだった。か細い響きの中に、微かな不安が混じっている。
「リューネ……? あなた、まだそこにいるの?……」
だが声はそれ以上続かず、ペンダントの鼓動もゆっくりと静まっていった。
風もなく、葉の擦れる音すらしない。雲一つない満月の夜は、その甘いようで神秘的な匂いだけが、濃く漂っている。
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Z.P.ILY




