第11話:精霊の贈り物
「ミラ!ミラっ!」
「ダメだ……どうやっても剥がれない……」
アーヤとグレイは、まるで生き物のように絡みついた影を、ミラからむしりとるように取り払おうとしていた。
薄い月明かりが緊張感を高める。
「っ!冷たい……」
氷のような冷たさがアーヤの指先に染み渡る。
「ミラ、しっかりして……絶対に助けるからね」
アーヤの声は震えていた。
しかし、その瞳には決して諦めない強い意志を宿していた。
「くそ……!なんてやつだ……」
グレイは何もできずその場に佇む。眉が険しく寄り、焦りと怒りが交錯する。
ミラの苦しげな呻きが二人の胸を締めつける。
「……ミラ!……しっかりして!」
アーヤは大きな声で叫び、ミラの氷のように冷たくなった体を強く抱きしめた。
影はミラの足元からゆっくりと這い上がり、その姿をますます歪ませながら、まるで意思を持つかのように動き始めた。
《……ゆめ……喰う……》
影はミラの「夢」を欲している。
《……人のゆめ……力になる……》
風も音も消えた森の中で、黒い影の存在が異様な気配を広げ、ミラの力を奪っていく。
「これは……ただの影じゃない」
グレイは必死に冷静さを保ちつつも、何もできないもどかしさが恐怖となってその言葉を絞り出した。
「副長!どうすれば!」
アーヤの声は切実だった。
「ミラ、すぐ助けるからね!」
アーヤは何の解決方法も思いつかないまま、ミラを助けたい一心の言葉を発する。
「ミラ、頑張るのよ!」
「副長ーーー!何か、何か策を!」
アーヤは影の動きに警戒を強めながら、ミラの体を必死に守るように抱きしめる。
「くそっ!情けない!」
グレイは自分への不甲斐なさで、気がおかしくなりそうだった。
だが、影は容赦なく少しずつその領域を広げ、森の空気を重く締めつけていく。
《うぅぅぅぅ……ゆめぇぇぇ……》
影の呻きとともに、地面の黒い“染み”が広範囲に拡がり始め、まるで森そのものを飲み込もうとしているかのようだった。
「……ヒュー……ヒュー……」
ミラの呼吸が乱れ、体温が奪われ、声は弱まり、身体の力がどんどん抜けていくのがわかる。
「た……助け……て……」
彼女の声は小さくかすれていった。
ミラの身体は顔を残して黒い影にほぼ包まれた。
「いや……いやああっ……!」
アーヤの力を振り絞った叫びが、森の闇にこだまする。
「ミラーーーっ!負けないで!私たちがいる!大丈夫!助けるから!」
アーヤは胸が締めつけられなからも、必死に声をかける。
だが影は冷酷だった。ミラの体から力と意識を吸い取り、体温がどんどん下がっていくのを感じる。その冷たさは死を予感させるものだった。
「くそ……どうすればいいんだ!」
グレイの悔しそうな叫びが、むなしく静かな森に響く。
アーヤはいまにも消えてしまいそうなミラに向かい、声を震わせながら大きな声で叫んだ。
「ミラーーーっ!ダメぇぇぇーーー! 」
その言葉が、森の闇を切り裂くかのように響き、アーヤの涙が地面に一粒こぼれ落ちた。
すると突然、闇の中に小さな光の玉のようなものが浮かび上がり、アーヤの目の前でふわっと膨らんだ。
アーヤはその光を咄嗟につかんだ。
「これは……!」
それは――小さな銀のペンダントだった。
アーヤが光を手にした途端、すべての闇を切り裂くかのように、ペンダントが激しい光を放ち始めた。
「お願い!ミラを助けて!」
すると、ミラを包みこんでいた影が、苦しそうなうめき声を上げ、揺らぎ始める。
《グォ……グォォ……》
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Z.P.ILY




