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ブォーーン!
テレビをつけるような音と共に、僕は目が覚めた。
慌てて、辺りを見回すと、知らないオッサンが部屋にいた。
(この世界で出会ったのって、ローラさん以外、全員オッサンじゃねーか!)
オッサンは、背中をベッドに持たれかけさせて、床に座るローラさんに近づくと、足下に落ちていた短剣を拾いあげた。
「フフフフ、相対死なら、やはり胸ですか?」
オッサンは、そう言って一度、短剣のはらで、ローラさんの胸を叩く仕草をしてから、短剣を握る手を振り上げた。
(何、ひとの恋人(仮)に、セクハラしてんだよー って、あ、ヤバい!)
「では、さようなら、お嬢さん」
そう言って、オッサンは笑った。
(ァ゙ーっ? フザケンナ! このジジィ、俺の大事な恋人(仮)、ローラさんに何しようとしてくれてんだ!)
「あぁ、さよならだ、ジジィ!」
怒りで、完全に目が覚めた僕、いや俺は、オッサン改めジジィに魔力を放った!
「アイス・幼児!」
ジジィを氷漬けにしてやろうと思ったが、魔力が足りなかったのか、当たった手だけが、瞬間的に凍りついた。
短剣を、振り下ろす動作もあってか、凍りついた手は、手首から砕けて、短剣を握ったまま、床を転がっていった。
ジジィは、転がった自分の手よりも、俺の顔を見て、目を見開き、震えながら叫んだ。
「な、何故、起きているのです?!」
「あっ?呼吸器内科の先生でもないテメェには、関係ねーだろーが!それより今、何しようとしてやがった!」
俺の怒号に、ジジィは逆に、冷静さを取り戻したのか、
「よくわからないことを… それに今更な質問ですね… 小娘とあなたには、ここで、死んでもらおうと思いまして!」
ジジィはそう言って、左手で袖から短剣を取りだし、俺を目掛けて投擲した。
同時に、目だけは俺を追いながら、ベッドの端にあった鳥カゴに向かって、手を伸ばそうとして固まった。
「誰に死んでもらうって?」
俺は、投げられた短剣を、指二本で挟んで止めていた。
「フフフ、貴様にだぁ!」
ジジィは、俺に向かってそう言うと、再び鳥カゴに手を伸ばして掴もうとしたが、その手は空を切った。
そこで初めて俺から目を離し、キョロキョロと、鳥カゴを探した。
「上だよ」
鳥カゴは大きなシャボン玉に包まれて、部屋の天井付近を漂っていた。
「き、貴様、何をした?!」
(何、このジジィ青筋立ててんだ?)
「何って、魔術って言うんだよ、知らないの?」
俺は、煽るように言った。
ジジィは、顔を真っ赤にして怒号を放った。
「帝国の席次、第三位のワシが知らん魔術などないわ!」
叫びながら、短く詠唱し、黒い球体を飛ばしてきた。
(帝国?この国の人間じゃないのか?じゃあテキトーに答えりゃいいか)
「帝国のレベルが…ププッ、“それなり”なんじゃないの?」
言いながら俺は、黒い球体を素手で弾いた。
弾かれた黒い球体が壁に当たると、壁に球体と寸分違わぬ穴が空き、幾筋かの煙を上げた。
「ワタシのダークボールが… バ、バケモノめ… それより貴様! 我が帝国に対し、なんと言った?!」
(あらま、更に怒っちゃった。沸点低くない?)
「まぁ、見上げた愛国心。すごい、すごい! ねぇねぇ、「帝国の技術は世界一ィ〜」とか言ってみて?」
「貴様!、バケモノかと思ったら愚か者だったか! 工作が煩わしいから、手加減しておれば図に乗りおって…」
そう言ってジジィは、左手を俺に向けて、短く詠唱した。
「はぁ?怒ってんのはコッチだってぇーの!」
俺は、詠唱への牽制の為、先程奪った短剣を投げつけた。
だか、ジジィは短剣を避ける事もなく、詠唱を完成させ、魔術を行使した。
刹那、とてつもなく強烈な光が、部屋中を包んだ。
俺は、ジャンプして鳥カゴを取ると、ローラさんのもとに着地し、その体を抱える様に、覆い被さった。




