22.友好の理由
「そう。隣国はザミアに、姫を嫁がせたくない理由しかない。だが、ルカス殿は隣国を説得できると言ったんだ」
「それは…気になるわね」
今、姫をザミアに嫁がせたくない理由は、ザミアがザミアだからだ。
好戦的で、兄弟国である隣国――アデニアの領土も狙っている。
「…ザミアが、アデニアの領土を狙わないと宣誓するとか?」
「それじゃあ、ザミアはザミアじゃなくなるから、在りえないな」
国を大きくするというのは、ザミアのアイデンティティだ。
「ザミアの長年の野望…というか『存在意義』ね。それを支えているのは…」
「代々の国王――と言う事になるかな」
絶対に勝つというならともかく、現状がそうではない以上、国が疲弊することを喜ぶ国民はいない。
建国以来、ザミアの王は『国を広げたい』と願った。
その後を継いだ今の国王も。
今の…
その、ザミアの王族らしからぬ弟。
「もしかして、王弟殿下は…」
ザミアの国王に、なろうとしているのでは…
殆ど口の動きだけの、マルグリッドのつぶやきを、レアンドルは拾った。
驚いた様子はなかったが、妙に納得した声がした。
「…あぁ、それなら、アデニアも姫を嫁がせることを納得するかもしれない」
ザミアが好戦的な国ではなくなるというなら、隣国だけでなく、周辺国家は皆ほっとするだろう。
そのための援助すら、するかもしれない。
何となく二人とも、正解にたどり着いた感はあったが、それがどんな困難を伴うかと思うとげっそりした。
「だってあのザミアよ。王様だけじゃない、周囲も強硬派で固まってるでしょう?」
確かに…と認めた後で、でもとレアンドルは続ける。
「今の王の時代になって、国外の紛争は減っているんだ。単に、フィカスに負けた傷跡が癒えてないって考えていたんだが、こうなってくると、王弟殿下が関わっている可能性も多そうだ」
「すでに、足場は固めているってこと?」
「噂すら回ってこないから、まだそこまで行ってないと思うが、慎重にしてし過ぎる事はない案件だから…」
あの国で、王弟の謀反なんて、気取られただけで首が飛びそうだ。
「まぁ、内向きの事は分からないけど、隣国とのパイプができれば、心強いだろうと思う」
「そりゃそうでしょうけど…」
苦難の末、王弟が王様になったとして、長年の国是が、そう簡単に方向転換できるだろうか?
マルグリッドは懐疑的に思った。
「だが、とりあえず、これでルカス殿がウチに来た理由が分かったな…姫へのプロポーズも、嘘ではないだろうが、そちらは表向きのパフォーマンスだろう」
マルグリッドが後を続ける。
「王弟殿下は、我が国と誼を結びに来たのね」
レアンドルが頷く。
「もし我々の想像が正しいなら、殿下は、自国内もそうだけど、出来るだけ他国にも味方が欲しいだろう」
国をひっくり返すのだ。
支持してくれる人、国は幾らあっても足りない。
「きっかけは、ザミアの国王が、コンスタンス姫に関わった事かしら」
「少しずつエルベを調べて、ウチが逆にザミア国内で、姫の元近衛騎士を探している事に気づいて、何らかの交渉の余地があると踏んだのかも知れない」
エルベの王太子には、すでに寵愛している愛妾がいる――とか。
マルグリッドには言わなかったが、コレが結構な決め手になったのだろうと、レアンドルは思った。
「あとは、この国がザミアと直接、領土が隣接してないのも、良かったんだろう」
「少なくとも、隣国を足掛かりにザミアに攻め込むような国じゃない、というのもポイントだったかもね」
そのままレアンドルはしばらくマルグリッドと話し、思考をまとめると、父親である国王に会いに行った。
マルグリッドに、
『コンスタンス姫の処遇について考えておいて』
と言い残して。




