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(最終話) そして私達は…

「ゴホ、ゴホ…ったく世話掛けやがって!」


燃えさかる屋敷から離れると、エドワードはコーディを地面に座らせた。


「なぜ戻ってきた?僕の事なんかほっといてくれりゃいいのに!」


吐き捨てるようにコーディが言った。


「自殺したいなら俺の見えないとこでやってくれ。目の前で死なれると胸くそ悪いんだよ」


エドワードは憐れむようにコーディを見下ろした。




「エ、エドワード!」


私は少し上ずった声で彼の名を呼びました。


「…エレーヌ?…エレーヌか!」


エドワードは私をすぐには認識できないようでした。

考えてみれば、今の私は彼の知っている『笑わずの令嬢』ではなく逞しい農村の娘です。私は急に恥ずかしくなってうつむきました。


「エレーヌ……可愛くなったな」


そう言ってエドワードはニッコリ笑いました。


「エドワード、体は大丈夫なんですか?」


「ああ、何も問題ない、それより…君を誘拐したのはコイツだろ」


エドワードがコーディの襟を掴んで私の前に差し出しました。


「もういいわ、ほっておきましょう」


「いや、悪い事をしたらちゃんと謝る、それが大人というものだ!」


「ふん…悪っかったな…」


コーディはふてくされて横を向きました。


「なに?聞こえないな!」


「悪かったよ、ごめんよ」


エドワードの圧に押されて、コーディが初めて私に頭を下げました。


「分かりました。許すとは言えませんけど、もうあなたを咎めはしません」


「よし、良かったなコーディ!」


エドワードはコーディの肩をバシバシと叩きました。


「じゃあ次は俺だ。…エレーヌ、迎えに来るのにこんなにかかっちまった、ごめんな…」


申し訳なさそうに照れ笑いするエドワードを見た私は、涙を浮かべながら何度も首を横に振りました。


 * * *


さて、話は一気に十年後に飛びます。


私達は結婚し、エドワードの母方の実家であるソウド地方の街で暮らしていました。


国王は国事を放り出して私を探しに出たエドワードの行動を認める事はなく、城に戻る事を許しませんでした。そして、エドワードの王位継承権は第二王子のシドミードに移されました。

それでも、私達は三人の子供に恵まれ、質素ながらも幸せに暮らしています。



コーディは、トナン地方を農地改革した技術を全土にまで広げ、国の経済を豊かにしました。

その実績が認められ、今では国の要職に就いているそうです。変人のくせに、実はなかなかの世渡り上手だったわけです。


 * * *


ある日、国王の使者が私達を訪ねて来ました。


「国王様が、エドワード様と和解したいと申されております」


エドワードは耳を疑いました。彼が国王の頑固さを誰よりもよく知っていたからです。


私は渋るエドワードを説得して国王と対話する機会を作りました。親子が不仲なのは不幸な事ですから…


 * * *


国王の迎えの馬車が到着しました。


馬車から降りてきた人物を見た私は、驚きのあまり心臓が止まるかと思いました。

その人物はハバロッティ伯爵、私の父でした。


城に向かう馬車の中、父は今回の経緯を話してくれました。その話を要約するとこうです―


この一連の出来事の仕掛け人はコーディでした。

国王の側近になったコーディは、エドワードを王家に戻すように働きかけ、それと同時にハバロッティ家と王家の関係修復も図り、私を受け入れる環境も整えたのだそうです。


まあ、事の元凶がコーディ本人なので、(だから何なの?)とも思いましたが、自分の行動にいっさい責任を取らない人も多い世の中です。コーディは心を入れ替えたのだと思う事にしました。



馬車はもうすぐ王都に着きます。


私の生まれた街、そしてエドワードの生まれた街です。


「お帰り、エレーヌ」


街に入った瞬間、エドワードが言いました。


「お帰りなさい、エドワード」


私もエドワードに言いました。


そして、近づいてくる城に向かって二人で言いました。


「ただいま」



 (完)


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