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魔王さんちの再婚事情。  作者: タナカつかさ
薔薇の勇者と百合の聖者。
35/41

勇者さん、魔王さんのスゴイ所を見る。

 オフェリアは、正直いまいち理解しきれないが、後追いでやってきた感情の波に乗り、喜びを露わにする。とりあえずと言うように、

「……やった、やったんだよね!?」

「ああ――本当に際どい所だったがな?」

 絵面というか、倫理的にだ。性器を写さなければいいとかそういう問題ではない――魂が女の子の男の娘の強制寸止め放尿とか、一体どういうジャンルだろうか、と。

 一応、品性の問題もある。

 魔王も正直いまいち納得できないが、とりあえず第一の試練突破を祝福していた。

 同時に、腕を組んで思案する。まさか、こんなタチの悪い試練だったなんて。

 知らなかった。これを受けた者の多くが頑とその口を閉ざし内容を語りたがらなかった。

 それは内容がばれたらカンニングし放題で試練の意味が無くなるからと思っていたが。

 ――まさか羞恥プレイを強要されたからではなかろうか?

 そんな気がした。魔王はちょっと責任を感じた。魔王が魔王になったとき、あまり使われないダンジョンの情報は書類で確認したのみで視察はしていなかったのだ。

 管理と保全についても環境省を経由して調査室、それから魔王軍の整備部に指令が渡され丸投げだ――というか、同じ組織として同じ管理下にあるように見えて職場も職務も全く違うのでそうせざるを得ずどうしようもなかったのだが。

 今度また分体を作って他も直接視察しておこうかと思った。

「――ほんとうにすまない」

「え?」

「――ううん、なんでもないよ?」

 そんな、管理責任という問題――

 から気を取り直して。

「――で、次の試練は?」

 魔王のその声に、オフェリアもスカートの下でパンツの裾を直し――何かに気付き、顔を急速に赤くし硬直し、天の声が答える前に、

「……ごめんなさい、ちょっと本物のおトイレ休憩――いいですか?」

 魔王と天の声は、奇跡的にシンクロし、

『――どうぞそこで』

 そこにある洋式トイレを手の平でお勧めした。

「――絶対しません!」

 

 勇者は、トイレに備え付けられたトイレットペーパーを掴み投擲した。

 本当にしちゃった人用の備品である。尚、トイレはちゃんとダンジョン備え付けのライフラインを使った。ほんの冗談のつもりだったのだがと魔王は弁明するが、後で奥様に言います! と言われ全力で謝った。帰り道に魔界名物のスーツで和解した。

 そして魔王は、帰って来た彼女のスカート臀部のほんの微かな光量が変わっていること、多分中身が何らかの理由でコンバートされたのが原因であろうそれを、気にしないようにした。

 そうして、 

『それでは次の試練です――隣の部屋へお進みください』

 魔王と勇者はその扉のない扉を潜った。

 

 座り心地のよさそうな、ふかふかの座席が一列。

 その正面には、大きな白い布地が壁一面に垂れ下がっている。

 その間には、一つの水晶と、それに付随する蓄音機――その下から筐体、基盤と繋がった配線が壁に伸びている。

 勇者は、それにはてと首を傾げる。

 そして魔王は、

「……シアタールーム?」

「えっ、これがですか?」

 活動写真、というレベルであるが、魔法と魔道具を使ったものでごく短時間の映像付き音楽盤――程度のものが人の大きな街では娯楽として出回っている。

 設備としてはかなり大型になる。ただ、魔力を秒単位でバカ食いするので広く普及できない。

 単に物珍しさで持て囃されているが、その辺はまだプロの人の生が主流である。

 現実と同じものを現実より金を掛けても価値が無い、大衆娯楽としては機能がまだ需要を満たせるレベルに無いのだ。

 ちなみにプロと素人の差は、高レベルのスキル保持者であること、そしてそれで生計を立てるギルドに所属していることである。

「それも年代物の骨董品――今では完全なオーバーテクノロジー、いや、遺失ロスト技術かな?」

「ひゃ~……あっ、じゃあこれ旧世界のものですか?」

「ん~、……これはその末期、ごくわずかな間に生まれた過渡期の物かな? 色々と技術が継ぎ接ぎになってる」

 世界の変容に巻き込まれて、存在そのものが歪んたタイプだ。

 アイテムのように見えて――ダンジョンと一体化した持ち出し不可の設備である。

 思わぬところで歴史の授業・鑑定系になってしまったが。

「……すごいんですねえ……いつでも色で同じ声やいろんなものが見れるのなら、凄い便利なのに……」

 眼がキラキラ、指先でつんつんとしている。

「ただ、本物の価値が下がることにも繋がるのが難点なんだよなあ……」

 安価な量産品のみが評価され続けると、需要の住み分けではどうにもならない事態に陥る事が多い。源泉が枯れ、いずれ本流から支流までが途絶えるのだ。

 それを本当の意味で娯楽が普及し切ったとみるか、ただ商売として立ち行かなくなるほど需要が廃れたとみるか、

「……でも、これで今度は何を試すのかな?」

 その時だった。

『――それでは第二の試練――ドキッ☆心臓バクバクドッキリゲーム! アナタの本音はふいっち(不一致)? どっち? を開始いたします』

 

 魔王はタイトルコールにただ目を細め、勇者はただ可愛くうん?と首を傾げた。

 そして床の一部が開き、アイテムを乗せた台座がせり上がってくる。

 それがスポットライトで照らされたところで、

『ルールは簡単、そこにある腕輪とヘアバンドを付けて、これから映し出す映像を見てください。その中でアナタの脈拍や脳波を測定し、決して本当の事を隠せない状態で性的指向を判別します――これは第一の試練が心を判定するものに対して、肉体を判別する試練です。なのでなるべく欲望の赴くままに本能で感じ取ってください』

 天の声はそう説明すると、待機状態に入った。

 しかし、魔王は台座を見て、

「……アイテムが二人分あるのは何故だ?」

『――この度の試練は付き添いの方がご随意で、患者様の精神的負担を減らす為に、同じ試練を受けて頂く事が出来ます』

「子供の目の前で苦い薬を飲んで見せるようなものか――」

 尚、薬の多くは風邪を直すものではなく、乱れた体調を整えるものなので、出来るなら飲まずに心と体を休める事に留意した方がイイらしい。もっとも、子供は地力で治すその体力自体が足りないことが多いので、適格な医者の指示を的確に聞くことが優先される。

だが、

「……それって自分の性癖が暴露されるってことではないのか?!」

『ご安心ください――患者の個人情報は秘匿されます』

「いやいやいやそういう問題じゃない、そういう問題じゃないから! というかむしろ、この試練一人で受ければいいんじゃないのか?」

『それは違います。患者様の多くが心であれ肉体であれ、医師であっても自分の恥ずかしい所を見せることに忌避を抱きます。その負担を減らすために一番良いのが、みんなしていること、という意識を目の前で実際に共有することなのです』

「集団意識か――分からないでもないのだが……」

 さも理路整然と説明しているが、ようするに、みんな道連れ、である。

 というか、若い子の前でおっさんが己の性癖を暴露するなんてやはり重度のセクハラだ。いいのか? と魔王は思う。

 ついでに、

「……よ、よくぼう、の、まま、に……」

 勇者は思わず狼狽えながら、真っ赤なリンゴの様な頬を両手で押さえている。第一の試練と同じく、それを想像しただけで既に限界に達している。涙さえ瞬間沸騰で蒸発しそうだ。

 流石は、初恋も知らない――である。

 前にちょっと過激な小説(魔王の妻の創作物)の論評をしていたのだが、あれは一応一般向けなのでセーフなのだろうかと疑問が走るが、きっと女だらけの空間でのノリだろう――男が居ない時の女のあるあるだ。

 たとえ男が居てもその存在感がそこにある熱気の一割以下なら、人間なんていないも同然である。

 それは置いておいて。

 引率の先生として、魔王は生徒を導くことにする。

 身も心も裸にならなくてはならない生徒の為に。

 率先して、自分の本当の姿(リアル)を見せる為に。

「……オフェリア君」

「は、はひ!?」

「大丈夫、そんなの……みんな同じだから、決して恥ずかしくないんだよ?」

 ガシッ! スチャ!

 魔王は性癖☆暴露装置を装備した。

「せ、先生!」

「見るがいい! 我が生き様――!」

 魔王と書いてエロスと読む。そんな男は白馬に颯爽と飛び乗るような勢いで、スーツの裾で撫でつつ座席の後ろからそこに座った。

 覚悟完了。

「――やれ!」 

『かしこまりました。それではお試しモードで男性の意識調査、スタートします』

 照明が落ち、スクリーンに水晶から映像が投射される。

 カタカタカタ、と、古い映写機でもないのにフィルムが回転する音と映像のぶれが3、2、1、のカウントダウンと共に始まる。

 白黒がいきなりカラーフィルムに―― 

 たわわな肌色、水気が弾ける弾力と張力――

 美しい稜線を描く彫像の様な美脚――

 若さあふれる笑顔が眩しい美女が、ビキニの水着姿で現れた。

 その隣には――何故だか魔王の脳波やら脈拍数のグラフも一緒に映し出されているが、それは羞恥心の共有の為だろう。

 秒間の脈拍を示す折れ線や棒グラフが上下している。

 だが、

「す、すごい……ピクリともしていないなんて……」

 魔王はセクシーな10代の水着美女を確かに眺めている。

 丁度、自分と同じ年頃――おじ様達からも少年からも、ちょっと羨望の眼で見られる年頃、食べごろの美少女たちを見ているのに。

 しかし、その折れ線は脈拍の平均値を横一直線に進んでいる。

 全く反応していない、まるで縁側でお茶を飲んでいる様な佇まいで、次々と遷り変わる水着美少女たちを眺めている。心電図なら死亡通知だ、男として死んでいるのではないのか。健全な男なら生唾を呑むキュート且つセクシー、それなのに今まさに成長中のボディにだ!

 何故かと、オフェリアは彼に尊敬の視線を向ける。

「――私にとってはこの程度、ただの子供同然だ」

「お、おとなだ……!」

『――どうやらこれはご趣味ではない様子ですね。ではこちらは?』

 あどけない足つき、線の細い造形の危うさ――

 天真爛漫な表情に、無邪気で無防備な仕草がどこか動物的なかわいらしさ――

 まだ世間の汚れどころか人の醜ささえ満足に知らなそうな無垢な輝き。

 見ていると心躍るというより、むしろ大丈夫? と心配したくなる景色――

 将来性の塊であるものの、色気とは無縁の世界――

 おまわりさん、こいつです。案件である。当然ながら、

「侮辱もいい所だな! しかし! 無論子供であろうともちゃんと淑女として扱い、対等の人間として接するぞ? でなければ子供はマナーを学べず、何より立派な大人と悪い大人を見分ける目が身に付かないであろう?」

「……魔王さま、紳士です!」

 むしろサブジョブ的にもそれを通報する側である。反応でいえばむしろ平均より一cm下がっているほどだ。その顔はそれを性の対象とすることに嫌悪感しかない極寒の真面目顔である。

 ぴっちぴちの十代もダメ、ロリもダメ。その傾向を踏まえて天の声は、

『――なるほど、ではこういうのは如何ですか?』

 映し出す。

「……むぅ?!」

 それは、これまでのものとは違った。

 先程までの若々しい照り返しではなく、香気を発する様な色艶を帯びた肌――

 陰を帯びた、大人の色気を発するしなやかな且つ重厚な気配――

 妙齢、年齢を感じさせない、生き物としての若さや成熟感だけではない、魅力という言葉を体現したものが持つ、凄みとも言える美貌――

 二十代後半から三十代半ば過ぎ――

 心も体も人生も酸いも甘いも知る、こなれた女盛りの妙味――

 魔王の大好物の人妻ゾーンである。

 それもこれまでの健康的な水着姿ではなく、煽情的な下着姿、見せてもいいものではなく、見せてはいけない艶姿である。

 それには流石に思わずちょっと腰が浮いた。

 だが!

「――えっ、そ、そんな、どうして」

 勇者は目を疑った。魔王はこういうセクシーな美女の大好き度が半端ない、それは彼の妻を見ていれば分る、その領域なのだ。

 しかし――

 それなのに、脈拍も何もかも無反応――きわめて平常心である。

「……当たり前だ――私は自分の妻一筋よ!」

 そこで魔王が毅然と言い放つ姿に。オフェリアは胸が熱くなった。それは、極めて普通の事である筈なのに、何故だかとても眩しい物に見えた。

「……これが、本当の、本当の大人の男なんだ……!」

 世間一般でいう夫も彼氏も少年もエロの権化――幼少の時からパンツに興味を持ち、胸の揺れを捉え、モテることがステータス、隙あらば鼻の下を伸ばし薄目を開けているものだと思っていた。

 だが目の前で人妻下着セミヌードをガン見している魔王は違った。

 まるで座禅を組み宇宙との一体化を試みる修行僧の様に、穏やかに佇んでいる。

『くっ、我がデータベースでも選りすぐりの美女、美少女、そして幼女だったというのに……一体なぜ、心音一つ乱さなかったのですか! アナタまさかゲイ――』

 天の声はとっさに男の水着姿、ブーメランパンツのボディビルダーを映し出す。

まさかの疑惑に勇者も目を剥き魔王を凝視していた、が。

 反応は普通にむしろ下降している。

 そこで天の声は更に、人気のケモッ娘、妖怪娘、どSなSM女王様、青肌悪魔美女、品乳エルフ、爆乳ダークエルフ、物理接触不可の幽霊美少女、ショタ、もはや手のひらサイズの妖精少女とありとあらゆる王道からニッチなジャンルまで映像を取り寄せるが、魔王はそれぞれに的確な品評と好評を繰り返すも脈拍と脳波は乱れさせることは出来なかった!

『健全な男性の反応ですね――あなたはゲイ、性同一性障害、その他、特殊性愛でもないご様子です。まさかこれが常時発動型・賢者モード、通称SATORIの極み――男としてもう枯れてるんですか?』

「――愚か者め、普通にいい女には反応するわ!」

 魔王は心を全開にして肯定する。

『しかしそれならなぜ、脳波、下半身共に乱れないのですか?』

「ふん――愛が無い、ただそれだけのことよ!」

『あ、愛だとぅ?!?』

「否、それすら超越した運命ともいえる!」

 何故ならば――

 というか、ただ単に、今更下着や水着ぐらいでは心臓がバクバクするほど反応なんかしないのだ。

 それがどれほど絶世の美女や美少女、傾国のそれらであってもだ。

 童貞じゃないんだから、それよりすごい物だって見ている。生で鑑賞して触るどころか、五感の全てを駆使した経験もしている。

 ここまで来ると、愛がなきゃ無理。だから奥さんだけで十分、というか、奥さんとが一番燃える。

 まさにオトナの余裕、たかが映像くらい――という奴である。

 付け加えて言うなら、肌色面積が多い奴より少ない方がいい、ヘアヌードよりセミヌード、下着より水着よりむしろ普通に服を着てくれていた方が嬉しい。

 それも体のラインがぴっちりしてる奴より、ちょっと重ね着ぐらいの方がいい。

 もはやエロにも芸術性や美術性――難解さを要求するレベルである。

 魔王はエロの中に常に繊細な奥深さ、深い愛――そして『思い出』という名のごく日常のささやかな幸せ(ドラマ)を求めていた。しかもその上で愛情があって初めてその食指が動くのである。

 だからこそ、ただの女性が須らく女神にも天使にも妖精にもなり、その裸だってどんな形や色をしていても宝石にも天の星々にも光にもなって輝く視界をしている。

「私にとって女性とエロスとは宇宙そのもの。

 そこにあって当然なもの。

 自然であり、全てであり、ただ唯一の一なのだ。

 全てが必然――余すことなく必要なモノなのだ。すなわち運命――

 どんなジャンルも大正義なのである!」

 それに気付いた、気付いてしまった。

 ――その時、越えてはいけない一線が爆発したのだ!

「……だからもう隠すも何もない……性癖など、常日頃から暴露しておるわ……!」

「た、確かに……!」

 オフェリアは、凄く納得していた。毎朝キス、出掛ける時、ふとしたとき、常日頃からハグ、肩を寄せる、お姫様抱っこでくつろぐ、人の字はデフォルト、気がつけばハグ、キス音を聞かなかった日は無い、本当に恥ずかしげもなく愛しているよ、綺麗だね? と他人が居ようとかまわずにむしろ聞こえるように囁きまくっている。

 見ているこっちが恥ずかしい――居候し始めて、幾度となくそう思っていた。

 妻だけ――すなわち運命の相手のみ、ということにもすごく納得した。

 その妻の職業、共々色々と思い出して。

 あ、色んな意味で、お似合いの二人だったんだなあと、しみじみと……。

「――で? これで終わりか?」

『はい。模範演技としては十分かと』

 魔王は汗一つ掻かず、この羞恥プレイを乗り越えた。

 そして、

『では、本番です――』

 魂は女の子、体は男の娘――


 その性癖暴露タイムである。

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