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魔王さんちの再婚事情。  作者: タナカつかさ
薔薇の勇者と百合の聖者。
36/41

勇者さん、色んなシチュに悶絶させられる。

 天の声の合図と共に、床が開き座席が下降し部屋がプチ変形する。

 下がっていたスクリーンは上へと回収され、水晶の映写機はレーザー光線をあちこちに投射していく――

 すると、薄暗く殺風景な景色が賑やかな街中へと幻のように変化していった。

「――私の時とは何やら仕様が違うようだが」

『薄っぺらな映像ではなくリアルな体感を伴う幻想空間です。女性の場合、単純な視覚による刺激ではなく、自身の精神的情動による刺激の方が反応も顕著ですので』

「なるほど。男と女の違いか――」

 ムード作りは大事に、という話。

『あと、アナタの様に無反応でも困りますのでレベルアップさせて頂きました』

「なるほど、いかがわしい言いをするなら、心は嫌がっても体はになる――と」

『――まさに』

「ちょ、何を言って!?」

 オフェリアは、唾を飲みながら配線が繋がったヘアバンドとリストバンドを装備していた。

『ご安心ください、これからあなたが体験するのはただの幻想です――ここで起きたことは誰にもばれませんので――ご安心ください』

「どうして二度も安心させようとしたのかな?!」

『性欲は別に恥ずべきことではないということです』

「割と直球!」

 そして景色に合わせて魔王と勇者も、戦闘用装備から外出着へとイメチェンされた。

 着々と暴露への準備が進んでいく。

「あわわわ……わた、わたし、初恋しゅらまだなにゃのに……せ、せいよくなんて……」

 普通に街を往く人々の中、自分は一体どんな男の子に――もしくは女の子に反応してしまうのだろうかと。

 もはやその全てが敵に――ではなく、卑猥なものに見えそうな勢いだ。一体どうしたらいいのか。

 あまりにも初心なその内情に、既に脳波と脈拍は急降下と急上昇を繰り返し、異常が常態化しつつある。

 眼が泳ぎ過ぎて空に飛び立たってしまいそうな、それに、

「――落ち着け」

「ふひゃっ?!」

 ゆるっと外出着、おめかし黒縁眼鏡のスキ見せ魔王が声を掛けた。

 瞬間、計器が異常な反応を示し、メーター上限を振り切り天井をぶち抜いた。

『――なるほど、まだ何もテストしていませんが、貴女のストライクゾーンは』

「じじじじ事故です事故! 妻子持ちの優しい男性なんて私――ギルティな悪癖はありませんよ!?」

 鋭い視線で――でも、可愛い真っ赤な顔で勇者は天の声を睨め上げる。

 先ほどのドレス鎧からこちらも外出着――それもデート服と見られる適度なフリルが可愛いピンクのブラウスに清楚な白スカート、外さず露出は大人しめ、男の子の視線を気にしたであろう愛され系のコーディネートだ。

 彼女の林檎の赤い髪も手伝って、なんとも甘酸っぱさが漂う可憐さである。

 それをじっくり観察していた魔王に、勇者は気付き、なんとなく服の上から胸と鼠経部を手で抱えた。

「な、なんですか?」

「いや? 君の相方ストーカーが見たら苺のケーキかパフェかと勘違いしてガバッと飛び掛かるんじゃないかと――あとでこれと同じものを着せて前に突き出したら」

「怒りますよ!」

 プンスカ言う。それをやはり、男の娘にしておくのはもったいないと魔王は思った。

 否、ある意味男の娘だからこそ輝くのではないかとさえ思う。

 そんなしげしげと全身を眼で舐め回してくれた魔王に、勇者はなんとなく気恥ずかしくも女としての危機を熱として感じ、しかし、頬が熱くなった。

 ちょっと、心臓が甘くバクバクする。そんなこと今まで無かった。

 そんな自身の変化に戸惑いつつ、

「――と。緊張がほぐれたところで――」

『第一の刺客です』

「台無しだよ!?」

 天の声が送り込んだ、最初の男と対峙する。


 街中、女友達と待ち合わせしている体のオフェリアに、歩いていた男がぶつかった。

「きゃあ!?」

「――ってーな!? どこ見て歩いてるんだよ! ……ああくそ」

 ベタに運悪く、路面の継ぎ目に躓きよろめき、彼が手に持つジュースが盛大に彼を汚していしまう。

「え、ええ?」

 その唐突な展開に戸惑う。

 ずぶ濡れになった白シャツと無視して髪を掻き分ける抗議の視線に、オフェリアは罪悪感と共に困惑する。いったい、何がどうなっているのかと。

 透けた胸板が粗野な男の匂いを撒き散らし、その鷹の様な鋭い眼つきに危うい色を与えていた。うっすらと覗く肉体は精悍な筋肉質で、嫌でも彼我の力の差を思い知らせるほどの危うい物だ。

 しかしとんだ言い掛かりである、ぶつかって来たのは男の方だ。

 にも拘らず、彼はオフェリアの可憐な容貌を認めるなり、愉し気に瞳に弧を描く。

「で? どうしてくれるんだよ?」

「な、なにをですか?」

 その青少年の凄みに負け、瞬く間に路上の壁に追い込まれた。

 そして、突き出された両腕に囲われ、逃げ場を失う。

 獰猛に、牙を剥くような笑みを浮かべてくる。

「――責任、取ってくれるんだろうな?」

 まだ距離はあるもの、自身の腕の中に収めたオフェリアを舌で舐め上げるように見つめ、しかし、体には決して手を掛けない――

 暴力は振るっていない、と主張できるギリギリの距離だ。

 そして至近距離に広がる精悍な胸板が透けた白いシャツが、純真なオフェリアの羞恥心を責めたて頬を紅潮させる。

 思わずドギマギと目を逸らしながら、

「き、君は、何を言ってるんだよ……」

 逆効果の抗議をしてしまったそれに、更に獰猛な――もはや色欲を隠そうともしない口元を開き、

「この濡れた服が乾くまで楽しませてくれよ? なあ?」

 迫る、オフェリアは、その欲情が漏れ出たような熱い息を額に感じた。

 しかし、不思議と汚泥の様な悪意は感じない、軽妙な表情と口調が錯覚を起こさせる。それは現実にそぐわない、彼なりの交遊術ユーモアのように感じられた。

「わ、訳の分からないことを言ってないで」

「ダメだな――」

「なっ、ちょっと!?」 

「おまえだって濡れてるだろう? ほら、さっさと来いよ」

 野生の鷹の様な青年は、鋭い手つきでオフェリアの腕を攫い、そして強引に腰まで抱きよせ誘導した。

 すぐそこにある連れ込み宿(LOVEホテル)に――

 突然の凶状と男の力強さに思考が奪われ、理性は働いたまま身体が思うように動かなくなる。その如何わしい入口まで牽引されたところで、これが試練だということも忘れてオフェリアは、

「え、衛兵さーんっ!?」

 割りと冷静に対処した。その瞬間、即座にホイッスルが鳴る。

 そして制帽にサーベルを腰に差した衛兵が駆けつけた、その背中に即座に隠れ、

「――こ、この人です!」

「お、おいちょっと待てよ! 俺はただ濡れた服を乾かす間ちょっと」

「婦女暴行未遂、及び拉致未遂――確保!」

「あああっ!?」

 男は手錠を掛けられるが、抵抗した為関節技を喰らい路上を転がった。

 暗転――


『どうやら俺様系・野獣・肉食男子はお好みではないようで』

「当たり前だからね!? なんなんだよあの性犯罪者は!」

「あそこから二、三トラブルが発生した後、距離が縮まって行きそうな展開ではあったが」

「そんなこと現実にはないんだからね!?」

 その口調では逆にありそうだと魔王は思った。

『おかしいですね。同い年くらいの濡れた白シャツごしの透け乳首、壁ドン、ちょっと卑猥な言葉遊びからの強引なベッドイン――とドキドキ要素を集めたのですが』

「現実ではただの迷惑行為だよ!」

「――確かに」

 しかも「俺、カッコいいだろう?」的なオーラが垂れ流されていたらむしろ笑う場面かもしれない。

 ちなみに反応自体は脈拍は有罪、脳波は潔白を示していたので、ああいう男は確かに好みではないらしい。

『では、それとは逆方向で――』

 景色が変わる。


 ごく日常的な家庭の一室――

 勉強机とベッドが同居する、子供部屋らしき場所だった。その机では、少年が勤勉にも教科書とノートを開いている。

 オフェリアはその隣で彼女用の椅子に腰掛けていた。

 温和で優し気な柳眉を下げた、いかにも儚げな庇護欲をそそられる美少年の隣に。

 体つきも、先ほどの犯罪者とは違い触れただけで砕けてしまいそうだ。

 柔らかで、繊細な成長期に差し掛かりの頃合い――一番子供としての成長を感じる時期。それでいて雄の欠片を匂わせ始める時期だ。

「え、ええっと……」

「先生――ここなんだけど」

 肩書で呼ばれ、指導を要求される。

 そして自身の衣装が、清楚なシャツにふくらはぎまでを覆う細身のスカートと、如何にも地に足を付けた格好であることを見取り、

「あ、うん……見せてね?」

 家庭教師と生徒の一幕と察した。しかし、これはどういう状況か――オフェリアは偏った人生経験値と、その愛読書の傾向からなんとなく察していた。

 が、なんでこう、ちょっと特殊なシチュエーションばかりなのかと思いつつ、

「――先生」

「え、ええと、何かな?」

「今度の試験で、一位になったら……喜んでくれる?」

 何かを、期待する様な、懇願するな視線が恭しく見上げて来る。

 好意めいた――否、それしかない。

 やましい下心や、オス独特の劣情や欲情を催したそれではない、純粋無垢な思慕の情だ。

 つい微笑ましくなる。自身の為の向上心ではなく、目の前に居る女性の為の立身出世を望むという。

 拙い恋の駆け引き、と言うには、あまりにも正直で、独り立ちし切っていない甘さが見える。

 ――大人の手ほどきを必要としている。

 そう、少年を、大人にしなければいけない。自分が――

 ――その過程を独り占めして、立派な雄に仕上げて、それから披露するべきだろう。

 それまでの間は、誰にも汚させず――

 少年が、綺麗な大人のそれに芸術的に歪み、変貌を遂げるまでは。

 自分一人で堪能しなければ――

 それはショタコンならそんな犯罪染みた思考と色欲に囚われ心の中でハアハアが止まらないだろう。

 しかし残念ながら、

「――うん。もちろん嬉しいよ? じゃあ今度、先生にカッコいいところを見せてくれるかな?」

 オフェリアは、知識は耳年増でも発想はどこまでも神の【理想の嫁】だった。

 そんな気持ちにはならない。それに合わせて、

「――うん! せんせ」

「うん?」

「この時間が終わっても、先生は、先生のままだよね?」

 純粋な憧憬である。

「……ふふっ、大人になっても先生が必要じゃだめだよ? 今度は君が誰かに教えてくんだから」

 それは、綺麗な世界の出来事である――

「そう、じゃあ、先生にも教えて上げなきゃね?」

 筈だった。

「――え?」

 オフェリアは、首を傾げながら、あまりにも滑らかな動作で後ろ手に手錠を掛けられた。

 戸惑う間に、美少年はオフェリアを床に柔らかく滑り落とし、横倒しにされ、覆い被さられる。

「きゃあ!?」

「教えてあげるね? 先生――先生って、騙されやすいみたいだから、僕が――」

「ちょ、え? ちょっ、ええっ??」

 抵抗できない耳朶に、ふぅと細い吐息が侵入し、冷たい舌の様に心臓をくすぐった。

 全身に震えを迸らせる総毛立つような微感に、オフェリアはその可憐な肢体を竦めながら捩らせる。なにがおきたのかと戸惑いながら、既に刺激に眼は潤い、

「~~っう、は、あっ、な、なにをして――っ!?」

 華奢なうなじに小さな鼻先を埋め、乱れた甘酸っぱい髪を堪能し、少年はまるで母親に添い寝をして貰う様に体を寄せる。

 そして、

「今度は先生に僕が授業をする番だよ?」

 かげを帯びた、大人と同じ危うい闇を匂わせる微笑みを浮かべていた。

 そして未熟ながらも立派な雄の固さと力にブラウスのボタンが引き千切られた。

 大人の保健体育が始まろうとしている。

 そこでようやく、オフェリアは自身の危機を悟り、

「無理無理無理無理無理ですぅうううううううううう!?」

 暗転――


 ベッドと机、そして倒れた椅子だけが残された通常空間で、

『――純粋・年下・子犬系――これもダメですか』

「最後がアレなのになんでアリだと思うのかな!?」

 幻想が消え解放されたオフェリアは猛烈に抗議した。

『しかしその最後以外ノリノリでしたね。反応としてはやや好感触――』

「ただの人間的な好意だったよ! いい子のままで居て欲しいとか、将来どんな大人になるのかな~程度のお姉さん目線で! しかもそれも最後で台無し!」

 潜在的に庇護欲や母性を持つ女性として、健常な反応といえる内だ。反応は脈拍、脳波、ともに若干の高揚が認められたが性癖的には潔白である。そして最後に至ってはまた普通に場外ホームランであるが普通に恐怖である。

 とはいえアドリブに咄嗟で反応できるあたり、その手の素質も持っていそうではあると魔王は密かに思った。

 現状、男の娘がオネショタしていたというカオスな状況だったのだが。

『可愛い系のお姉さんが、可愛い系の美少年にせがまれて、手ほどきをするつもりが逆に手ほどきをされ徐々に立場が逆転――組み敷かれ、禁断の恋に落ちそして徐々に病んでいくのはこの界隈の王道です』

「だからそれはフィクションだってば!」

 現実にも一定数、居る――という言葉を魔王は遠い目をして呑み込んだ。

 なんだかんだでこの勇者、やはり【恋心も知らない――】なのであると。ちょっと大人として心配になった。

『しかし、これで少年、青少年、成熟した紳士と、普通の男性ジャンルは制覇しましたね。極めて正常な女性らしい反応でした』

 自然に魔王へのリアクションまでカウントされていることにオフェリアは釈然としないものを感じる。が、

「じゃあ、これで試練突破?」

 健常な女性としての反応をしていたということ――

 ではなく、

『いいえ、まだこれが残っております』

 

 暗転――

 また景色が変わり、今度は大きな丸いベッドが現れる。

 所謂、ラブホのベッド。そこには色とりどりの、

「あら、可愛い坊やね? どうしたの? こんなところに、一人で……」

「はわ、はわわわわわ」

 オフェリアは戦慄した。

 淫魔――卑猥な下着を恥ずかしげもなく着こなし、気品溢れる立ち居振る舞いを魅せる女性たちがいた。

中には年端もいかないような見た目の女性もいるが、そのどれもが目眩のするよう濃密な香気と、蛇の様しなやかな仕草の表情を身に纏っている。

 人ではない。

 実際に尻尾と羽の生えたそれも居る。

 他にも、妖花人アルラウネ、幻想の花をその身に咲かせたそれや、黒い羽を持つ堕天使までもが娼婦の様相をしてオフェリアを迎えていた。

 今の己では決して持ちえない――様々な女としての色香、まさに魅惑と魅了の艶美の世界に圧倒され、彼女は思わずごくりと息を呑む。

「お姉様? 怖がっていらっしゃいますわよ?」

 心は女だというのに、こんなところに放り込まれてどうしろというのか。

 でも、なんとなく分る、これまでの傾向から、一体どういう試練が行われるのかということは。つまり、体の反応を確かめるということだ。

 大丈夫、心は同性なのだから、そんなことはない――そんなことは。

 そう思うものの、

「ふふふ――ここに始めてくるお客様はみなそうよ? 特に、いいお客様は――ね」

「フフフ――ええ、そうですわね?」

「い、いえ、私は……」

「――大丈夫よ? 坊やも、男の・・・になりに来たのよね?」

 狼のお姉さんが背後からその肩を甘噛みする。

「アッ?!」

「――ちがうでしょう? この子は、男に《・・》なりに来たの……そうでしょう?」

 蛇女ラミアがその長い舌で、オフェリアの装備をするすると外していく。

「アアア!? ま、待ってください! そういうつもりじゃ――っ!?」

「あら、下着まで女の子なの?」

「あああ、ああ―――っ!?」 

 それすら、まるで最初からそこを締め付けていなかったかのように開放されていく。

 卑猥な女性たちに、その全てを見られながら露わにされた一糸まとわぬ体は、明確に男であるにも拘らず、女性のしなやかな曲線を帯びていた。

 胸が無くて、股間に可愛い物が付いているだけの、それ以外は可憐な少女の肢体である。

 それが羽交い絞めにされ、蟻に運ばれる墜ちた蝶々のようにベッドに有無を言わさず運ばれていく。

 服という羽が毟られた彼女は、そのままピンに刺されるよう四肢のそれぞれを、妖艶な女性たちに抱えられ、大きく広げられた。

「――うふふ、本当にかわいい……でも、やっぱり男の子なのね?」

「っ――」

 オフェリアは死にたくなった。心は女だからこそ、そこを指摘される事には魂が軋むほどの羞恥を覚えた。

 けれども、気丈に睨みつける。

 これは試練なのだ、反応してはいけない。

「さあ――お姉さんたちに見せて? 坊やの本当に可愛くて、男らしいところを……」

「っ、わ、私は女の子です! だから! 絶対に、負けな」

 きめ細かな指先の先が、その男としても女性としても、あまりにも薄く、脆弱な胸板をまるで薄氷の上を滑る様にソフトタッチで撫で上げる。

 それだけで、声を失った。

 ただ撫でられただけ――それなのにまるで針を刺された様な熱さとゾクリとするほどの寒さが同居する、甘い感覚に内側から肌が押し上げられた。

「――これだけで、真っ赤になって泣きそうになってしまっているのに?」

「あっ――、~~っ、あたりまえです! 私は」

「それじゃあ、これはどうかしら……」

 その指先が、人の上半身で最も敏感な部分――

 上等なミルク色をした脇のクレバスを、

「あうううううううっ!? そこは――一番さわっちゃダメな所!」

「あらあら、本当に敏感なのね――坊やはほんとうは本当に女の子なの? そんな可愛い悲鳴を上げて」

こしょこしょ、ふっ、ふぅ~~~~~~~~~~。

「ひあ!? や、やめ、あああぁああああ!? ――も、もう駄目! そんなことしないで!」

「あ~ら、でもお腹がビクビクしてきたわよ?」

「うあっ、ひ、ぅ、くぅ……ふぅ……っ?!」

 これまで以上に繊細に、優しく、冷や汗で凍えてしまったそこを、温かな舌でなぞり上げた。

 緊張で強張っていた筋肉が弛緩し、桃色に紅潮し出す。熱に浮かされ始めた眼で再び睨みながら、懸命に、

「お、おかしくなんかないでしょ!? 腹式呼吸――ひあ!? ひひひゃは、うううううぅ!?」

 それを妖艶に弧を描き嘲笑いながら、

「さあ、正直になりなさい」

「むっ、ぐぅ――っ!?」

 淫魔のお姉さんが馬乗りになり抱擁し、男であれば垂涎の谷間でオフェリアの口を封じた。

 辛うじて鼻で呼吸する。でも、そこは甘く刺激的な脳髄を掻きまわすフェロモンで出来ている空間だった。

 以前に、百合だと発覚する前にリリーに抱き締められた時、同じ感覚を味わった。

 心は間違いなく女の子の筈なのに、男になりそうになってしまった――トラウマが蘇る。

 拘束された四肢の力が失われていく、それに艶やかな下着姿の女性たちは、蠱惑的な笑みを浮かべていく。

 それを読み取った淫魔のお姉さんは、既に眼も虚ろになったオフェリアから離れ、彼女たちに指示を出す。

 今まで片側だけだった脇、そして足裏まで合わせて、四人で羽箒を取り出した。

「な、なにを」

 一斉攻撃が始まる。

「あっ、あっ、あぁああぁあああ~~~~~~~~~~~~っ?!」

 何度も立ち上がろうとする理性をまるでゴミの様に掃き出し、優しく本能を剥き出しにさせるように。

 全身がビクンビクンした。オフェリアは全身で懸命にかぶりをふった。

 だが無慈悲にサッサっ、パタパタパタ~。くるくるくる、ちょこちょこちょこ――。

「ひぅうううううううううううううううううううう~~~~~~~~~~~っ?!」

 女として悲鳴を上げているのか、男として泣かされているのか、分からなくなった。

 女の魂も、矜持も誇りも風前の灯火だ。

 その絞り出された最後の一滴が、涙となって落ちる。

「さあ? 坊やはこれから男の娘じゃなくて、男になるのよ? いいわね?」

「わ、わたしは」

 もはや眼は見えない。

 真っ白な光に覆われている。

 そして同時に闇が押し迫り、交互にチカチカ瞬いた。

 その均衡が失われて、夜が来る。

 体から完全に力が抜けた。強張ることに使われていた血流が、別の部分へ。

「――僕、でしょう?」

 肉体に、女性として精神的な枷をはめていた。

 その栓が強引に抜かれようとしていた。

 圧倒的なまでの女の手管に、心が壊れそうになる。

「――ぼ、ぼくは」

 その最中、オフェリアの脳裏に、これまでの日々が思い浮かんだ。


 女の子の服が羨ましかった。どうして男の子は武器を学ばなければいけないのか分らなかった。

 けど、先生《魔王の妻》の作品に出会えて、それが正しいという世界を知った。

 魂は女、体は男――そういう生き物なのだと理解した。

 だけど、諦められなかった。

 股間にあれが付いていることではなく――

 魂が、自由になれないということ。

 生き方(自由)が、制限されてしまうということ。

 現実は非情だ。少数派は肩身が狭い。

 誇りを持とうと尚それが貶され穢され、嘲られ、笑いの種にされる。

 理解者が必要だ。

 だから、百合リリーという人間が相方になったのかも知れない。

 本能的には決して相いれないけど、その生き方は理解できるから。

 彼女は本当の姿を曝した。

 だけど、自分は嘘を吐き続けた。嘘を吐き続けたからこそ、自分はこのまま嘘を貫き通さなければいけない――

 彼女の為に、彼女の様に生きたい。

 唯一無二の友達として。友情の為に、彼女の夢を守るために――

 

 ――本当の、私として生きるために。

 

「――わ、わたしは、女です……――魂から! だから、心も体も、女の子にならなくちゃ、ダメなんです!」

 淫魔のお姉さんは驚愕した。

「なんですって?!」

「か、完全に墜ちていたというのに!」

「あそこから賢者タイムに?」

「久々の上物のロリショタ系だったというのに!」

 完全にヘブンに旅立っていたのに、彼女は戻って来た。そのことに、妖花人、堕天使、蛇女に狼のお姉さん達も驚愕する。

 そして淫魔のセクシーお姉は、自身のテクにも絆されなかった彼女の肉体を、なによりもその魂を賛美し、 

「――いいえ。認めるしかないわ……彼女は《・・・》女の子よ」

「お姉さん……」

「ふふっ……可愛い子……これからいい女になりなさい……」


  女性として、優美な微笑で応援エールを送り、幻想ごと消えて行った――

 つまり、

『――これにて第二の試練終了……合格と致します』


 オフェリアは耐え切った。

 肉体の限界に挑んだ第二の試練を、突破したのだ。


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