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その後の細々した話

ファイル見直していたら見つかったので。

書きたいように書き散らして、そこで満足して終わったようです。

 ■愛妾って何さ


 今日も仕事終わりのラージュの腕の中に収まり、寝るまでの語らいの時間が始まる。セレスはこんなことがあったあんなことがあった、と楽しげに話す彼の声に、相槌を返すだけだが。

 その会話には、時として愚痴のようなものもこもる。

 今日は、かつて愛妾として城にいた令嬢からの手紙の話だった。

「もう一度おそばに、っていわれた」

「どうするんだ?」

「……セレスがいるから、いらないって言っといた」

 カルヴィシドが、と続く。

 丸投げしたらしい、とセレスは苦笑して。

「――そもそも、なんで愛妾なんだ?」

 そんな疑問を口にした。

 この国の王族は基本的には一夫一妻である、女王の頃にセレスは調べた。

 王が、周囲の女性に手を付けることはあったようなのだが、その立場は影に置かれ、子供も余程のことがなければ表に出てくることもないまま生きて死ぬものだったらしい。

 そもそも愛妾というものは、一夫多妻をしく他所の国の文化だ。

 なんでそれがラージュに使われたのか、思えばセレスは何もしらない。

 それは、どうやらラージュ自身も同じだったようで。

「よくわからない、勝手に増えてた」

「勝手に?」

「ん。いつの間にか増えてて、アレは何って宰相に言ったら愛妾だ、好きに手を出して構わない女性だとかなんとか。確かその中に宰相の娘もいたんだけど、そんな道具みたいなこと言って嫌われるんじゃないかなって思った。まぁ、セレスじゃないからどうでもよかったけど」

「そうか……」

「むしろ仕事のじゃまするから最初は無視してたし、セレスのことバカにするからこいつら全部叩き出そうって思ったんだけど、その前にカルヴィシドに言われて話すようになったよ」

「カルヴィシドに、何を?」

「……セレスに言ってみたいこと、とか、言ったらどうだって」

 ぼそぼそ、と告げられる言葉。

 確か、ラージュは彼女らにかわいいだの綺麗だの、口説くような言葉ばかり言っていたような気がする。実際にセレスが聞いたわけではなく、主にレメイナが聞いてきたものだったが。

 つまり、そういう言葉を言いたかった、と。

「……今度からそんなことはするな。ちゃんと私にいうがいい」

「うん」

「身代わりなんていうのは、私にも相手にも失礼なことだからな。悪いことだ」

「うん、ごめんね」

「わかったならいい」

「じゃあ、今度から言っていい? かわいいとか」

「う……うん、好きなだけ、言えばいい」

 謝りつつ腕の力を強めるラージュに身を委ねたまま、二人の会話は続いていった。




 ■故郷の味


 レメイナがその知らせを聞いて向かったのは、城の中にある厨房だった。

 おろおろとした調理担当者、その向こうにはエプロン姿の――。

「なにやってるんですか! セレスさま!」

「……料理だが?」

 器用に野菜の皮をむく、時期王妃セレスがいた。

 曰く、久しぶりに故郷の味を食べたいと言ったらしい、彼女の夫が。

 それでごきげんな様子で厨房に乱入、止める周囲を適当に止めつつ調理開始。すぐにレメイナが呼びつけられて現状に至る、ということのようだ。相変わらず傍迷惑な夫婦である。

「たまにはいいだろう? ラージュも食べたがったしな」

「それは……」

「味見するか? 簡単な野菜スープだが、結構いけるんだぞ」

 差し出された小皿を受けとり、一口。

 ……素朴で美味しい。

 確かにこういう料理は城では出さない、出さないが……うぅ、とレメイナは悩み。

「ちょっとだけなら、いいです」

 まるで、というかまさに新婚さん、という雰囲気全開で微笑む主に逆らえなかった。

 以降、貴族階級の若夫婦の間で、夫にちょっとした料理を振る舞うことが夫婦円満の秘訣のように語られて、長い時間が経つ頃にはそういう一種の文化のようになってしまうのだが。

 当然、この段階では異能の魔術師しか知らないことである。




 ■魔術師に聞いてみた


「カルヴィシド、ちょっとよいか」

「何でしょう」

「お前は違う選択がなされた世界を見ることができるだろう? その中に、私も彼も君主にならない世界などあったのかと、あの故郷で二人で暮らす道もあったかと、ふと思っただけだ」

「そう、ですね……ありましたよ。細々した理由で結局違う王を据える世界が」

「そうか」

「まぁ、お二人はいつも一緒のようですけれどね。というか」

「ん?」

「離ればなれになると死ぬ、と言い切っていいほど、一蓮托生です」

「ほぅ……」

「家を頻繁に改装する程度には、お二人には子供もぽこぽことお生まれになることが多いようなので、王妃のお体はとてもお強くお子をたくさんお産みになられるから、今後の王族についても安泰だと言って差し上げたら、妙齢の令嬢をお持ちの宰相殿が泣いて喜んでいました」

「来たところで……ラージュは他の女はいらぬというしな」

「王に侍るなんて手を出されてなんぼですからね。手も出されず放り出される、というのは他国ではあまり褒められたことではないようです。ある種の必然と義務でもありますし」

「手を付けられるのが、か」

「それを込みの箔なので」

「私は、ラージュがいればそれでいいんだがな……」

「でしょうね。……あぁ、それはそうと、セレスさま」

「どうかしたか?」

「……重くないですか、それ。その膝の大の男は」

「ラージュだから平気だ。こうして甘えさせてやるのも私の仕事だしな、問題はない」

「さようですか……」




 ■笑顔を


 寂れた辺境にカルヴィシドは立っている。

 小さく名前を彫った墓石、いつも真新しい花が備えられた場所。

 祈る彼女の後ろに、魔術師は立っている。

「いい夢をみたんですよ、レメイナ」

「……そうですか」

「彼が王になり、彼女が王妃になり――幸せになる夢です」

 慰めにならないのは知っている、だけど少しでいいから笑ってほしい。少しでいいから、こんな結末を迎えた世界にも、救いがあったのだと知ってほしい。どうかどうか。

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