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第一章 今日なら死ねる
「湊! 次どこ行く?」
「ボウリング!」
「お前さっきまでカラオケだっただろ!」
「今日は寝るのもったいないじゃん!」
僕は笑いながら走り出した。
夜の繁華街。
大学の友達四人と居酒屋へ行って、カラオケへ行って、ゲームセンターへ行って。
まだ終わらない。
「次はラーメン!」
「いや、もう二十三時だぞ!」
「だから?」
「だからって……」
みんなが呆れたように笑う。
「湊、今日テンションやばくない?」
「そう?」
「朝から講義出て、サークル行って、そのあと飲み会で、まだ元気とか意味分からん。」
「今日の湊、無敵じゃん。」
無敵。
その言葉が妙にしっくりきた。
そうだ。
今日は何でもできる。
走っても疲れない。
眠くもない。
頭は冴えていて、世界がいつもより鮮やかに見える。
こんな日が、たまにある。
僕はこの日を嫌いじゃなかった。
何だってできる気がするから。
「じゃ、今日はこの辺で解散!」
「また月曜な!」
「お疲れー!」
みんなが駅へ向かって歩き出す。
僕は手を振った。
「またね。」
誰も振り返らない。
その姿が見えなくなるまで見送る。
そして、一人になった。
笑顔が消える。
静かな夜だった。
街灯だけが、アスファルトを照らしている。
僕はポケットからスマホを取り出した。
時刻は二十三時四十八分。
「……今日は、いい日だったな。」
自然と笑みがこぼれる。
こんなに楽しかった日は久しぶりだった。
だからこそ、思う。
「今日なら死ねる。」
悲しいからじゃない。
苦しいからでもない。
今日みたいな最高の日のまま終われたら、それが一番幸せなんじゃないか。
僕は橋の欄干へ足を掛けた。
川面を渡る風が頬を撫でる。
落ちれば、一瞬だ。
怖くない。
むしろ、胸が高鳴る。
「……よし。」
僕は、夜空を見上げた。




