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アーサー・リンカ  作者: 由岐
第9章 水の試練
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1.束の間の安堵

 ガトリーヌさんと別れた私達は、すぐにリーカミュの街へ向かった。

 その理由の一つが、この前神殿前の広場で発表された黒霧病のこと。

 ガトリーヌさんから一通り先代勇者の話を聞かせてもらった後、マルクスさんがファルータさんに連絡を取った。あの伝染病に感染した人は誰だったのかを教えてもらう為だ。

 ファルータさん(いわ)く、イゲイル薬品の方で感染した三人の中に、彼とシーチエさんは含まれていないらしい。

 それでも感染者達は次第に弱り始めていて、国から立ち入りが禁止されている港町に隔離しながら、経過を観察しているとのことだった。

 とんでもない緊急事態だということで、開発部門に深く携わるシーチエさんと共に研究を引き継ぐ為、比較的港に近いリーカミュに滞在しているという。

 しかし、研究に必要な道具が本店から届かないらしく、困っているらしい。

 そこで丁度連絡を取ったついでに、私達が道具を運んでいる荷馬車を見付けたら、早く届けるように言ってほしいと頼まれた。

 先代勇者についてはある程度話が聞けたから、私達は旅に戻ろうと次なる神殿のある街──水の神殿リーカミュへ向かうついでに、ファルータさんのお願いを引き受けることにしたのだった。


「馬車、見付かりませんね……」


 ルフレンくんがぽつりと呟く。

 サイリファを出てから数日間、野宿をしながら馬車を追って移動している。けれど、それらしい荷馬車が見当たらない。

 ファルータさんからは、荷馬車の荷台には布がテントのように張ってあって、そこにイゲイル薬品のロゴが描かれているから一目瞭然だと言われたんだけど……出会う馬車はどれも違う。


「例えばどっかで盗賊に襲われて、これだけ時間が経ってても連絡出来ねぇってことになると……」

「荷馬車ごと奪われ、乗り手は殺害されたと考えてもおかしくはないだろうな」

「もしもそうだとしたら、酷いですね……」


 あと半日もすればリーカミュに着いてしまうのでは、という距離まで来たところで、私達は一度休憩をとることにした。

 水の精霊の気が強い地域だからか、近くを流れる川に水を汲みに行くと、その水の綺麗さに驚いた。

 街道の方に目を向けつつ、皆で水分補給をしながら川のせせらぎに耳を傾ける。

 うーん、困ったなぁ。

 サイリファから先はゲーム時代には行ったことがないから、こんなイベント全然解決方法がわからないよ。

 ついでに言うと、これから行く水の神殿の攻略法も全く知らないし。

 何故か以前のセーブデータと記憶が繋がったらしいアーサーとマルクスさんも、私がプレイした範囲のことしかわからないはずだ。

 そうなると、あらかじめ神殿の試練を知っているのは炎と土の神殿しか残っていない。

 おまけに風の神殿のあるアルマク島へ行く方法もわからないままで……この先、私達大丈夫なのかな?


 ただ、今回のイベントを攻略するヒントはある。

 メニュー画面を開き、そこからイベント一覧のページを開く。

 そこにはこれまでクリアしてきたメインイベント、サブイベント、恋愛イベントのタイトルが並んでいる。

 イベント一覧には、それぞれのイベントがどういった内容だったのかが纏められていて、現在発生中のイベント名もそこに記載されているのだ。

 新着欄に載っていたのは【迷いの荷馬車】というサブイベント。つまり、探している荷馬車はどこかで道に迷っているということになる。

 でも、ぱっと周囲を見回してみても、この辺りで迷いそうな場所は特に無さそうなんだよね。

 目の届かない範囲もあるから、一応ワールドマップを見てみようかな。

 一度でも行ったことのある街や洞窟には、それぞれを表すアイコンが表示されている。

 そして、私達が歩いてきた街道からリーカミュまでの道のりで迷いそうな場所はというと……


「……森、かな?」

「森?」

「もうしばらく進んだ先に、大きな森があるみたいなの。もしかしたら、荷馬車はそこから抜けられなくて迷ってるのかもしれない」

「この近くに森なんてあったか……? まあ良い。お前がそう言うなら、その森とやらに行ってみよう」

「おいルフレン、もう行けそうか?」

「は、はい! ちゃんと水筒にお水は入れました……すぐに行けます」

「んじゃ、さっさと見付けてリーカミュに向かうとすっか」


 再び街道沿いを進んでいくと、後ろから商人とその護衛の人達らしい馬車がやって来た。

 護衛のおじさんはいかにも魔物と戦ってますといった雰囲気の斧使いで、他の若い護衛を束ねるリーダーのようだ。


「おいおいお前さんら。そんな小さな子供を連れてこの先の森を抜けるつもりなのか?」


 おじさんがそう話し掛けてきて、アーサーが首を傾げる。


「ああ? ただの森だろ?」

「普通の森ならまだ良いさ。けどな、あの森はそんじょそこらの森とは違うんだ。あそこは呪われた森だからな」

「それはどういう意味だ?」


 マルクスさんがそう問うと、おじさんは言う。


「言葉通りの意味さ。街道をもう少し進んだ先に、ある日突然巨大な森が現れたんだ」

「そんな事が本当にありえるのというのか?」

「本当も何も、先月までは何も無いただの原っぱだったんだよ。急に小さな木が何本も生えてきてなぁ……それが今じゃ森に魔力を吸い取られるわ、濃霧で方向感覚がわからなくなるわ、おかしな魔物も出るわで大変なのよ。だからこうして俺達が商人の護衛に付いて、どうにかこうにか流通を滞らせねえようにしてるわけさ」

「何だそりゃ……」

「俺達だって詳しいことはわからねえよ? だがまあ、腕に覚えがあるってんならこれ以上止めやしないさ。無事に森を抜けられることを祈るんだな」


 そう言って、おじさん達は先に行ってしまった。

 何なの? そんな森が〈ファンキス〉にあるとか知らないんですけど!

 例の荷馬車がその森で迷ってるのが確定しちゃったよ。



 

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